法律Q&A

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退去時の原状回復義務の範囲

弁護士 近藤 義徳
1997年4月:掲載

賃借店舗を退去しようとする場合の原状回復義務の中に壁紙や天井の張り替え工事まで含まれるのですか?

Xは、3ヶ月前にYからスナック店舗を居抜きで借りましたが、体調がすぐれないので店をやめようと思います。契約書には、「本賃貸借契約終了時における壁紙、天井の張り替え費用は賃借人の負担とする」との条項が入っています。しかし、天井は、Xが入居した時も新しく張り替えられていませんでした。また、壁紙や天井はほとんど汚れていません。それでも張り替え費用を負担しなければならないのでしょうか。

通常の使用に伴う汚損であれば、張り替えの必要はありません。

1.建物に付着させた物に関する権利義務
 賃貸借契約は、一定の対価で一定期間目的物を貸与する契約ですから(民605)、賃借人は、目的物を保管する義務とともに、契約終了時に借りた物自体を借りた時と同じ使用収益状態で返還する義務があります。
 したがって、目的物が建物の場合に、賃借人が建物に物を付着させたときは、畳、建具などのようにその物に独立性があれば、賃借人はこれを収去しなければなりません。
 もっとも、建物に付着させた物が独立性を有するときは、賃借人にも収去権があり(民616、598)、壁紙、障子紙のように独立性を有しないときには費用償還請求の問題となります(民608)。そして、賃借人に付着物の所有権は認められないが、収去可能な物に付いては、収去権及び一定の要件の下に費用償還請求権が認められるとされています(我妻民法講義中一、466)。
2.原状回復義務と敷金返還請求権
 ところで、敷金は、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものですから(最判昭和48.2.2民集27-1-80)、賃借人が原状回復義務を履行しないまま退去したときは、賃貸人は原状回復費用を敷金から控除して残額を返還すればよいこととされています。
3.店舗用建物賃借人の原状回復義務の範囲
(1)スケルトン方式の場合
 店舗用として賃貸される建物の場合は、入居する店舗の業種、形態によって内装が異なる上に賃借人も自らの意匠で内装を決定する場合が殆どです。
そのため、入居時は、内装の施されていない状態で引き渡し、退去時も内装の施されていない状態で引き渡す約定となっているのが通常です(いわゆるスケルトン方式)。したがって、この場合、賃借人は、自ら施した天井、壁紙を収去する義務を負担しますが、当然ながら張り替えまで行う必要はありません。

(2)居抜き等の場合
 これに対して、いわゆる居抜きの場合等には、入居時に、天井、壁紙が張られていますので、賃借人が退去する際に、それらについても、原状に回復しなければならないのか問題となります。
 この点、天井、壁紙が通常の使用に伴う汚損にとどまるときは、賃借人がその張り替え義務を負担しないと言うべきでしょう。なぜなら、建物賃貸借契約は、一定期間賃借人に建物の使用収益を委ねるものですから、その間の、通常の使用に伴う汚損や劣化は賃貸人も当然予想しており、賃料はその対価をも含んでいると考えられるからです。
 しかし、賃借人が改変を加えた場合や汚損の程度が、当該賃借人の店舗の業種、形態における通常の使用の場合と比べて著しい場合には、賃借人が張り替えをしなければならないと考えられます。
 ところで、居抜き等の場合に、「賃借人が壁紙、天井の張り換え費用を負担する」旨の特約がなされることもあり得ますが、そのような特約も一般的に無効とまでは言えないでしょう。
 しかし、【1】入居時には壁紙、天井が張り替えられていなかった場合、【2】賃貸借期間が極く短期間で、汚損が軽微であった場合、【3】賃貸人が張り替え費用を賃借人に負担させながら実際には張り替えを行わなかった場合等には、そのような特約に基づいて原状回復費用を敷金から控除することは権利の濫用 (民1条3項)となると思われます。

対応策

 賃貸借契約時に、原状回復義務の範囲に付いても確認し、賃貸借契約書に引渡基準ないし原状回復基準が設けられている時は、当該基準に不合理な条項がないか確認しておくべきでしょう。
 また、退去に際して、賃貸人(又は代理人)と共同で原状回復義務の範囲に付いて確認し、できれば退去前に原状回復費用について交渉、合意しておくことが賢明です。

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