法律Q&A

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不動産登記の必要性

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

事務所用として使うために事務所を購入して使用していますが、登記手続は必ずしなければならないのですか。

甲社では、新たな事務所の開設に伴い乙社から事務所用の店舗を購入しましたが、所有権移転の登記はまだしていません。ところが、法律に詳しい友人から登記はした方がいいよとアドバイスされました。登記は必ずしなければならないものなのでしょうか。登記を怠っていた場合の不利益があったら教えてください。

登記手続きをする一般的義務はありませんが、紛争防止のために登記手続きは履行すべきです。

1.登記は契約の成立要件か。
 我が国の民法は、所有権の移転に代表される不動産の物権変動を登記によって公示して不動産取引の安全を確保していますが、その方法として、当事者がその旨の約束さえすれば契約が有効に成立し、物権変動が登記というような特別の形式を必要とせず当事者の意思表示だけで生じてしまうという建前を採用しており(民法176条)、これを意思主義といいます。従って、不動産登記は物権変動の成立要件ではないということになります。では、同法177条で不動産物権変動に登記を要求している法の趣旨は、一体どういうことなのでしょうか。
2.対抗要件とは?
 民法177条によれば、「不動産に関する物権の変動は、登記をしなければ、これを第三者に対抗することができない。」と規定されています。不動産物権変動 は、登記をすれば第三者に対抗でき登記がなければ対抗できないわけで、まさにこの対抗力というものが登記の中心的効力といえるのです。
 では、対抗要件としての登記を怠っているとどのような不利益を被るのでしょうか。例えば、Aが乙から家を買って登記をしないでいた間にBが同じく乙から同一建物を買い、すぐに登記をしたとします(いわゆる二重譲渡の場合)。このような場合、AがいくらBより先に建物を譲り受けたとしても、Aはその所有権取得を同じく所有権を主張するBに主張することが出来なくなる一方、Bは登記を備えている以上所有権取得をAに主張することが出来ることになります。結局建物の所有権者はBとなります。また、AとBが抵当権者であった場合(いわゆる二重抵当の場合)も同様で、Aは自己の抵当権をBに主張できないし、その後第三者Cが当該建物を乙から譲り受けた場合にも、Cに自己の抵当権を主張することは出来ないのです。言い換えれば、不動産物権変動は登記を備えることによってはじめて誰に対してもその存在を主張でき、いわば実質的に物権変動として完全なものとなれるのです。
3.無権利者への権利主張は?
 本来民法で第三者という場合、それは「ある法律関係の当事者と、この当事者の権利・義務を全部ひとまとめにして承継したような人を除いた他のすべてのもの」を指すと考えられています。しかし、解説(1)で述べたとおり、我が民法では登記がなくとも物権変動は成立しており、ただこれを第三者に対抗できないだけなのであり、しかもこのような取扱いにしたのは、これによって第三者を保護して取引の円滑・安全を確保しようとしたからです。だとすれば、対抗の問題としてみれば、保護に値すると考えられるものだけを第三者とすれば足りるのです。
このようなことから、民法177条の「第三者」とは、「物権変動が登記を備えていないことを主張するについて正当な利益を有している者」と位置づけられ、以下にあげる1から4に該当する者は「第三者」とはいえず、権利者は、これらの者に対しては登記なくして権利主張できるのです。
(1)不法行為者
   例えば、建物を消滅させた者など
(2)無権利者
   不法占有者や無権利者からの譲受人など
(3)詐欺・強迫により登記申請を妨げた者(不登法5条1項)
(4)他人のために登記をなす義務のある者(不登法5条2項)

対応策

 以上のことから既にお分かりでしょうが、我が国では、登記というものを物権変動が生じるための要件ではなく、既に発生した物権変動を第三者に主張するための要件、つまり「対抗要件」としております。
 従って、甲社とすれば、建物の所有権移転登記をしなくても建物の所有権を取得することとなり、この限度ではわざわざ登記をする必要はないし法的な義務もないと言えましょう。
 しかし、ある不動産についてある物権を取得したとしても、将来的にその物権に関してそれ以後に同種又は異種の物権を取得する人・または法人が出現してこない保証はどこにもなく、将来日本件物権に利害関係を持つようになった第三者との間に発生することが十分に予想される紛争に巻き込まれるのを防ぎためには、是非ともに登記手続だけは早急にとっておくのが望ましいといえるでしょう。
 後日、自己が取得した不動産の所有権等の物権を失う結果となり後悔しないように、登記費用や手続の煩雑さ等の目先のほんの僅かな苦労や出費を惜しまないで、登記手続を行うようにしてください。

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