法律Q&A

分類:

不動産登記の公信力

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

動産には即時取得という制度があると聞きましたが、不動産にもあるのですか。

甲社は、事務所用として使うためにビルの1室を乙社から購入して使用していましたが、乙社は実は真の所有権者ではなかったことが後日判明し、甲社は真の所有者であった丙社から譲渡を受けたと主張する丁からビルの明渡しを請求されています。甲社は乙社名義の所有権の登記がまさか虚偽のものだとは思わず、登記の記載を信用して乙社から譲渡を受け所有権移転登記も既に終えています。甲社は、丁からの明渡しを拒むことはできないのですか。

不動産には即時取得の制度はなく、不動産登記は権利が存在することを推定するにすぎません。

1.「即時取得」制度の趣旨と不動産取引
 設問[2-3-4]で解説しました通り、登記することにより物権変動を誰に対しても主張できるようになるというのが、登記の中心的効力でしたが、それは、実体的に真に物権変動があった場合を前提としています。つまり、譲渡人が真の権利者でなければならないのです。つまり、登記は、いくら登記してみたところで、それに合致するような権利変動がなければ第三者に対する対抗力は生じませんし、権利者でないものが権利者になってしまうようなこともないのです。あくまで、登記は存在する物権変動の公示の手段にすぎないのです。

ところが、私たちは、公の帳簿である登記を調査した上でその記載を信用して取引に入ることもよくあることであると同時にある意味では無理もない話です。設問の甲社はまさにそのような立場にあるようです。不動産取引の動的安全性を重視すれば、このような立場のある者を保護する法律上の制度として「即時取得」制度の適用が考えられるところですが、民法192条の条文上明らかなように、この制度は、不動産以外の物つまり動産の取引についてのみ適用があります。このもっとも根本的な理由は、不動産取引は動産取引ほど頻繁になされるものではないので、動的安全性を考慮する必要性が劣るということです。

もし、本設問の甲社のように無権利者の登記を信用して譲受けた者に、真の権利者と取引したのと同様な効果つまり所有権等の物権の取得を認めるとしますと、「信ずる者は救われる」という結果を導き登記に公信力を認めることになりますが、このような結論は、登記をあくまで対抗要件として位置づけ、どんなに登記を信頼して取引しても物権取得の余地を認めない民法の不動産登記制度の根幹を揺るがすものであり許されないとされているのです。

2.登記の推定力とは?
 このように、真の権利関係がない以上、登記があっても対抗力がなく、且つ公信力も認められないため、この登記に対する信頼も保護されません。しかし、登記は何といっても公の帳簿の記載でもあり登記と権利関係は一致しているのが一般なので、特に反対の証明がなされない限り、登記された物権変動はひとまず本当に存在するものとして扱われますが、このような効力を「登記の推定力」といいます。この効力は、本設問のような場合にも働き、登記簿に記載された物権変動を主張しようとする者は、そのことを積極的に証明する必要がなく、従って、訴訟等において大変有利な立場におかれたりします。つまり、特に反対の証明がなされない限り、登記された物権変動は、本当に存在するものとして扱われるのです。

対応策

以上のことから、本設問の甲社は、本件建物の所有権取得を、登記の公信力を理由として丁に主張することは出来ないと言わざるを得ません。ただ、このような状況にある甲社の保護の必要性を全く否定することは出来ず、理論的には、表見代理等の代理理論を駆使して甲社の所有権取得を認めることが出来る場合もその具体的状況によればありますし、所有権取得を認めることは出来ない場合でも、所有権者と偽って取引した乙社に対して不法行為(民法709条)を理由とする損害賠償請求が出来ることは間違いありません。
ただ、注意してもらいたいことは、ここでの甲社の保護はすべて登記制度によるものではなく、民法上の他の制度によるものであることです。従って、権利関係を調査するために登記を調査することは大変重要なことではありますが、一方、登記を全面的に信頼することも危険であるということを十分に注意しておく必要があると言えます。

関連タグ

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 メルマガ登録はこちら