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共同担保目録とは

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

どうも聞くところによると、取引相手は相当資金繰りに苦しんでいるということですが、他に担保権を設定して金銭を借入れている事実があるかを調査することはできますか。

最近、以前は支払を遅滞したようなことが全くなかった取引先の甲社が、しきりに支払の猶予を懇願してくるようになりました。甲社の資金繰りが大変だという噂があるので、甲社の事務所所在地にある最近完成したビルの登記簿謄本を閲覧したら、極度額1億円の根抵当権をはじめ合計4個の担保権(被担保債権額の合計2億2千万円余り)を設定していました。本件ビルは時価が約1億円ちょっとしかしないはずでそれほどの金銭価値があるとは到底思えないので、他の不動産にも担保権を設定して借金しているのは確実だと思うのですが、どのようにして調査すればいいですか。

共同担保目録を閲覧または謄写して、調査すれば足ります。

1.「共同担保」の必要性
 例えば、金を貸す相手が更地と土地付建物の二つの担保となるべき物件を所有している(双方とも単独で担保価値は十分にあるとします)場合で一方しか担保に取れないとしたら、あなたならどちらを抵当に取りますか。確かに購入するような場合ですと買主がその土地を自分の好みに利用できるという意味で更地の方がよいこともありますが、抵当に取る場合は事情が違います。
 つまり、抵当権とは、あくまで物件の金銭価値を他の債権者より優先して把握しているに過ぎず、物件の利用・収益権は物件の交換価値を著しく損なわない限り債務者に任されているので、更地の場合いつまでも更地のままであるかどうかが抵当権者には保証されていないのです。債務者が土地の上に建物を建てるとしても、そのことによって土地の交換価値が著しく損なわれない限り、抵当権者にはそのような債務者の行為を止めさせることは出来ず、建物を建築されることによる抵当物件の価値減少を認めざるをえないのです。
 それに対して、土地とその地上建物とを両方ともに抵当にとっておけばそのような心配は無用です。確かに建物を取り壊される可能性がないとは言えませんが、更地の上に建物を建てるのに比較すればその可能性は少ないし、たとえ債務者が建物を増改築したりしても抵当権の効力はその部分に及びますので心配はいらないのです。
 このような理由から、一つの債権を担保するために二個以上の物件を担保に取る「共同担保」が必要とされるのです。
2.「共同担保」の登記手続とその表示
 他の登記手続とほとんど同じですが、違う点は、登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない申請情報として各不動産に関する権利の表示を明確に書かねばならないことです(不登法83条1項4号、不登令3条13号、別表55項イ)。これを受けて登記官は、「共同担保目録」を作成しなければなりません(不登法83条2項、不登規則166条)。この理由は、共同担保の関係を登記簿上で表現すると誤りをおかしやすく、また、明確に表現できず公示目的に反することから、わかりやすくするという点にあります。
 更に、共同担保は追加的になすことも出来ますが、その追加担保の登記申請の際には、申請書に前の担保権設定の登記を表示するに足るべき事項を書かねばなりません(不登令3条13号、別表55項ハ)。共同担保登記がなされますと、どれとどれとが共同担保であるということがはっきりと記載されますので、これを見た人は他に担保となっている物件をすぐに調査することが出来るというわけです。

対応策

以上のことから分かるように、本件の場合、甲社がビルの敷地もビルと同時かあるいはその前後に共同担保に供している可能性がすこぶる高いといわねばなりません。従って、本件ビルの敷地の登記簿謄本を閲覧してビルの敷地の権利関係を調査すると同時に、ビルの登記簿謄本の乙区の事項欄を見て、各担保権の設定登記の一番最後のところに共同担保目録の番号が書かれていますので、閲覧あるいは謄本請求をする際に申請書に共同担保目録も含むとしてその番号を付記しておけば、共同担保目録を手に入れることが出来、他の担保物件の所在地や甲社の債務状況をより具体的に知ることが出来るのです。

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