法律Q&A

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株券の紛失に際しての除権判決

弁護士 船橋 茂紀
1997年4月:掲載(校正・岩野 高明2007年10月)

株主が株券を紛失したとして株券の再発行を請求してきました。会社としてはどのように対応したらよいですか。

当社の設立時の株主から株式を相続したA氏が、、ある日突然、「株券を紛失した」と言って株券の再発行を求めてきました。A氏には、借金が相当あるようですが、株券を再発行すべきでしょうか。

株券喪失登録後1年が経過することにより株券が無効となるまでは、株券の再発行請求に応じるべきではありません。

1.株券の喪失と善意取得の制度
 株券を喪失(滅失、紛失、盗難等)しても株主は株主としての権利を失うわけではありません。従って、本来は、会社としては、株主であることを主張された場合、株券の再発行に応じなければならないはずです。しかし、株券には善意取得の制度(会社法131条2項)があるので、善意且つ無重過失で、無権利者から株券を譲り受けた第三者がいる場合には、その者が善意取得により権利者となり、その反射的効果として、従来の株主が権利を失うことになります。そのため、会社が、善意取得者の発生を防止するための手続を経ない間に、株券喪失者の請求に応じて株券を再発行した場合には、喪失株券の善意取得者との間でトラブル(株券の二重発行)が生じるおそれが生じます。
 そこで、法律によって、善意取得者の発生を防止するための株式喪失登録手続(会社法221条以下)が設けられるとともに、右手続により株券が無効となるまでの間は、会社は、株券の再発行ができないものとされています(会社法230条2項)。
2.株券喪失登録制度
 株券を喪失した者は、会社に対して株券喪失登録簿に記載または記録することを請求することができます(会社法223条)。この場合、会社は株券喪失登録をし、登録された者がその株式の名義人でないときは、名義人に通知します。また、その株券が権利行使のために会社に提出されたときは、提出者に喪失登録がされている旨を通知します(会社法224条)。
喪失登録者が株式の名義人でない場合は、その名義人は、その株式について議決権の行使をすることはできません(会社法230条3項)。また、喪失登録がされている株券にかかる株式については、会社は、名義書換や競売をすることができません(会社法230条4項)。
喪失登録がされた株券を所持する者は、会社に対し、株券を提出して、喪失登録簿抹消を申請することができます。この申請がなされたときは、会社は、喪失登録者に通知し、この通知の日から2週間経過した日に、喪失登録を抹消しなければなりません(会社法225条)。
喪失登録がされた株券を所持する者が現れない場合は、当該株券は、登録された日の翌日から1年後に無効となります。無効となった場合には、会社は、喪失登録者に対し、株券を再発行しなければなりません(会社法228条)。

対応策

株券を喪失した株主に対して、直ちに、株券喪失登録手続をとるように説明し、右手続後1年の経過によって株券が無効となるまでは右株主の権利行使に応じてはなりません。紛失したことが明らかであっても株券が存在している限りは善意取得者が生じる可能性がありますので、喪失登録手続をとってもらうべきでしょう。A氏は、株式を担保に借金していることも考えられます。安易に株券を再発行したら貸金業者との間でトラブルになってしまいます。

予防策

株券喪失登録中に、所持人から喪失登録抹消の申請がなされる場合もありえますが、この場合、会社が登録者に通知することにより、登録者は、権利の帰属につき所持人と争う機会を与えられますから、会社が直接トラブルに巻き込まれるのを防ぐことができます。また、喪失登録がなされれば、会社は、株券の所持人からの名義書換の請求や権利行使を拒否することができます。したがって、会社としては、株券を喪失した株主に対しては、必ず喪失登録をさせるべきです。

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