法律Q&A

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自己株式の取得

弁護士 船橋 茂紀 1997年4月:掲載
(修正加筆・岩野 高明2007年10月)
(補正:岩出 誠 2008年11月)

会社が自社の株式を取得することは、許されるのですか。許される場合、その内容を教えて下さい。

当社は兄弟2人でやっている典型的な同族会社です。先日弟が亡くなりましたが、遺族が相続税を支払うために当社の株式を売りたいといっているのですが、買い手もいませんし、私も直ぐには資金が調達できません。会社で株式を買い取ることはできませんか。

自社株の取得は、本文(2)から(7)に規定された場合にだけ例外的に許されます。もっとも、実質としては、手続・方法・財源の規制のもとで広く認められています。

1.自己株式取得規制の経緯
 株式会社が有する自己の株式を自己株式というが、平成13年6月改正までは自己株式の取得および保有は以下に説明する弊害を考慮して原則禁止でした。即ち、自己株式の取得を認めると、第1に、会社財産の確保を害するおそれがあること(自己株式の取得は会社の財産状態によっては株金の払戻と同様の効果をもたらすので資本維持の原則上問題があります)、第2に、相場操縦や内部者取引に利用されるなど不正を生みやすくなること、第3に、現経営陣が会社の資金で自分たちの地位を不当に守る手段として利用できるようになること、第4に、会社が一部の株主にのみ株式譲渡の機会を与えることができるようになることなどの弊害が生じるのです。
しかし、同改正により、手続・方法・財源の規制のもとで取得目的や取得数量・保有期間の制約なく取得・保有が認められることとなりました。会社法もこれを引き継ぎ、条文上は自己株式の取得は法が定める一定の場合に限って認められるとなっていますが、手続・方法・財源の規制のもとで広く自己株式の取得が認められます。なお、自己株式の取得にあたるか否かは、会社の名前で購入されたか否かという「名義」の点からではなく、会社が出捐したか否かという「計算」の点から判断されます。
2.株主との合意による取得
 株主総会の決議によって自己株式を取得することができます(会社法156条)。ただし、特定の株主から取得する場合には、手続が厳格になります。また、取得財源については剰余金の分配可能額を超えてはならないとの規制がなされています(以下、「財源規制」といいます)。
3.合併又は他の会社の事業全部の譲受けに伴う取得
 合併又は他の会社の事業全部の譲受けの場合にも自己株式の取得が認められており、やむを得ない取得であるため財源規制は適用されません(会社法155条11号・10号)。
4.譲渡制限株式発行会社において会社が買取人になる場合
 会社が譲渡制限株式の譲渡(取得)を承認せずそれを買い取る場合(設問[3-2-2]参照)にも例外的に自己株式の取得が認められています(会社法155条2号)。この場合は財源規制がなされています。
5.相続人等に対する売渡しの請求による取得の場合
 譲渡制限株式については、株主の相続人から自己株式を取得することも例外的に認められています(会社法174条)。この場合にも財源規制がなされています。
6.株主からの株式等の買取請求に応じて株式を買い取るとき
 端株の買取請求に応じて株式を買い取るとき、単元未満株式を買い取る場合、事業譲渡等の決議・株式譲渡制限のための定款変更決議・株式譲渡制限のための定款変更決議・合併承認の決議若しくは株式会社から持分会社への組織変更決議に反対する株主の株式買取請求に応じて株式を買い取るときにも、自己株式の取得が例外的に認められています。
7.その他
その他として、①取得条項付株式の取得、②取得請求権付株式の取得、③全部取得条項付種類株式の取得、④所在不明株主の株式の買取り、⑤吸収分割をする会社からの株式の承継の場合には、自己株式を取得できます。

対応策

株主との合意によって自己株式を取得することもできますが、手続は厳格です。そこで、当該株式が譲渡制限株式であれば、剰余金の分配可能額の範囲内で、会社が株式を買い取ることができます。また、相続人に対して取得した株式を売り渡すよう請求することができる旨の定款の定めを前もって置いておくこともできます。

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