法律Q&A

分類:

専務取締役・常務取締役

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2021年11月

会社が平取締役の名刺に専務取締役とか常務取締役と記載させていた場合、会社に何か責任が生じますか。

息子は実際には代表権を持ちませんが、専務取締役という肩書を使用させていたところ、息子に代表権があると信じて取引をしたとして、取引先から取引の履行を求められました。履行する必要がありますか。

具体的事情如何では会社に責任が生じる場合もありえます。

1.表見代表取締役
 実務においては、取締役間の上下統率ないし業務分担の職制の観点から、定款をもって、取締役中に「会長」「社長」「副社長」「専務」「常務」等の名称を付した取締役(役付取締役と言います。)が規定されることが多いようです。しかし、これらは、会社法典で使われている用語ではありません。会社法典上は、単に「取締役」と「代表取締役」とが区別されているに過ぎません。そして、代表取締役は会社を代表する権限を有しますが、取締役は会社を代表する権限を有しないとされています(会社法349条)。ところで、実務においては、役付取締役の全部又は一部の者が代表取締役に選任され、会社を代表する権限を有する場合が多いようです。そこで、取引の相手方としては、「社長、副社長、専務取締役、常務取締役」等の肩書の者を会社の代表権を有すると信じてしまいがちです。そこで、代表取締役であるかの外観を信頼した者を一定の場合に保護することとされ、会社法354条は「社長、副社長その他株式会社を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う」と規定しています。この点、旧商法では「専務取締役、常務取締役」も例示されていましたが、会社法では文言上削除されました。もっとも、専務取締役や常務取締役という名称を与えた場合も、本条の適用または類推適用が認められると考えられます。さらに、「代表取締役代行者」も会社を代表するものと認められる場合に当たるとされています(最判昭44・11・27民集23巻11号2301頁)。「取締役会長」も同様と解されています(東京地判昭48・4・25下民24巻1~4号216頁)。
 なお、以上のような名称の使用を会社が明示でなくても黙認していれば会社に責任が生じます(最判昭42・4・28民集21巻3号796頁。ただし、共同代表の定めがあり、その旨の登記がある場合において、当該代表取締役が単独で代表権限を行使できる者であると見られる外観をもつて代表取締役の名称を使用しているのに対し、これを他の代表取締役全員が黙認していた等原審認定の事実関係のもとでは、当該代表取締役が単独で行なつた法律行為についても、会社は、商法第262条の規定の類推適用により善意の第三者に対してその責に任ずるものと解するのが相当であるとされた事案)。また。取締役ではなく使用人が代表取締役の承認の下に常務取締役の名称を使用して取引した場合にも本条が類推適用されます(最判昭35・10・14民集14巻12号2499頁)。しかし、取締役でも使用人でもない外部者が専務取締役の名称を使用して取引した場合には、本条ではなく。会社法9条の名板貸しの責任が問題とされます(浦和地判平11・8・6判時1696号155頁)。
 ただし、有力学説の中には、以上の論理は、取締役会設置会社以外の場合の議論として、取締役会設置会社の場合には、「代表取締役代行者」または「取締役会長」以外では、本条の適用が疑わしいとの指摘があります(江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』(有斐閣、2021)448頁)。
2.会社法354条の適用要件
(1)
  会社法354条の適用の要件は、第1に、取締役の名称におい会社の代表権を有すると認めるに足る外観が存在すること(外観の存在)、第2に、外観の存在に対して会社が原因を与えていること(外観への与因)、第3に、外観を第三者が信頼したこと(外観への信頼)の3点です。

(2)
 会社の代表権を有すると認めるに足る外観とは、取引通念上、会社の代表権の存在を表示するものと認められる名称のことであり、条文上列挙された「社長、副社長」以外には、頭取、取締役会長、取締役副会長などであり(専務取締役、常務取締役、代表取締役代行者については上述の通りです)、取締役支社長や会社開発事業部長などは含まれません。

(3)
 行為者が勝手に役付取締役の肩書を潜称してもその者の行為について会社は何らの責任を負いません。しかし、会社は、積極的に定款又は取締役会規則により取締役会の決議をもって役付取締役の名称使用を許諾した場合だけでなく、行為者が任意にこれを使用しているのを会社が消極的に黙認しているに過ぎない場合にも責任を免れません(前掲最判昭42・4・28民集21巻3号796頁)。

(4)
 第三者の悪意、つまり、第三者において名称使用者が代表取締役でないことを知っていたという事実は、会社が責任を免れる理由となりますが(無過失は要件とされていません。最判昭41・11・10民集20巻9号1771頁)、会社が立証しなければなりません。また、第三者に重大な過失がある場合には、悪意がある場合と同視できるので、会社としては、第三者の重過失を立証して会社法354条の責任を免れることができます(最判昭和52年10月14日民集31巻6号825頁)。第三者が登記簿の閲覧や会社への照会や手形の支払担当者への照会等をしなかったことをもって直ちに過失とは考えられませんが、従前からの取引関係・取引に至る経緯・取引金額・取引の重要性・会社の風評などと相俟って重過失ありと判断される場合もありえます。
 なお、保護される第三者の範囲は取引の直接の相手方に限るのが判例ですが(最判昭59・3・29判時1135号125頁)、有力学説は、第三取得者の悪意・重過失が証明されない限り同人も保護対象に含まれると解しています(江頭・前掲書426頁)。

3.登記との関係
 代表取締役の氏名及び住所は登記事項であって、その選任(就任登記)・退任(終任登記)は商業登記によって公示されます(会社法911条3項14号、同法915条)。しかし、会社は、代表取締役の登記をしておいても、そのことを理由として会社法354条の責任を免れることはできません(最判昭42・4・28民集21巻3号796頁)。

対応策

取引先の悪意又は重過失が立証できるか否かを判断します。息子さんから相手方との従前の取引関係・取引に至る経緯・取引金額・取引の重要性などを聴取し、会社の取引記録などとあわせて、総合考慮することになります。

予防策

取引先と交渉する場合、「専務」取締役とか「常務」取締役という肩書の方が、信用力が増して交渉上有利であるなどの理由で、会社が右肩書を利用することを認める場合があるようです。しかし、そのような場合には、会社は、会社法354条の責任を負いかねませんので、事前に、役付取締役の名称の使用を許した使用者に対して、会社法354条の責任を十分に説明して、責任を持って行動すべく指導しておくべきです。また、会社は、役付取締役の名称を勝手に使用している者を発見した場合、後日「黙認」と難癖を付けられないようにするため、文書をもって、名称使用の禁止を命令しておくべきです。

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