法律Q&A

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株主代表訴訟への対策

弁護士 浅見 雄輔 1997年 4月:掲載
弁護士 筒井 剛 2001年 2月:補正
弁護士 岩出 誠 2008年11月:補正
弁護士 鈴木 みなみ 2016年 9月:補正

株主代表訴訟の制度を説明して下さい。取締役としては何か予防策はありますか。また、新たに導入された多重株主代表訴訟とはなんでしょうか。

 私はA社の取締役をしています。この度取引先が倒産したため債権を回収できなくなり、会社に5000万円の欠損を出してしまいました。この事実を知った株主が、私の判断が甘かったせいだとして株主代表訴訟を提起すると息巻いています。
また、A社はB社の子会社なのですが、親会社のB社の株主も株主代表訴訟を提起すると言っています。A社の株主はともかく、親会社であるB社の株主も株主代表訴訟を提起できるのでしょうか。また、どのように対応したらいいでしょうか。

株主代表訴訟は株主が会社に代わって取締役に対して会社が被った損害の賠償を請求する制度です。また、平成26年の会社法改正によって、一定の要件を満たす親会社(最終完全親会社)は子会社に対し株主代表訴訟(多重株主代表訴訟)を提起できることになりました。
しかし、A社のように子会社の株式を親会社及び当該子会社以外が保有している場合、多重株主代表訴訟は認められません。なお、株主代表訴訟において、取締役は一定の場合、株主に対し担保の請求をすることができます。

1.株主代表訴訟の制度目的
 取締役が職務の懈怠など違法な行為をなし、会社に損害を与えた場合には、会社はその取締役に対し損害賠償の請求をできます(会社法423条)。しかし、実際に会社が損害賠償を請求するためには取締役(会)の意思決定が必要であることから、取締役同士あるいは取締役と監査役の馴れ合いによってその取締役に対して会社が責任を追及しないことがあり、その場合には会社ひいては、会社のオーナーである株主が損害を被ることになります。このような場合に備えて、株主が直接会社を代表して取締役に対し、会社が被った損害を賠償するよう訴えを提起することを認めたのが株主代表訴訟の制度です(会社法847条)。したがって、株主代表訴訟は、株主が直接取締役から金銭等の給付を受けるための制度ではなく、会社のために取締役に対して会社の損害の回復を求めるための制度です。
2.株主代表訴訟の手続
 株主代表訴訟を提起できる株主は、6ヶ月前から引き続き株式を有する株主に限ります(会社法847条1項)。但し、この条件を満たせば1株のみを有する株主であっても株主代表訴訟を提起することができます。
 株主代表訴訟の対象は会社の損害ですから、本来はまず会社が取締役に対し訴えを提起するはずのものです。そこで、株主代表訴訟の制度もいきなり株主が訴えを提起することは出来ず、訴えを提起しようとする株主は、まず、会社に対し書面をもって、会社が取締役の責任を追及する訴えを提起するよう請求し、その請求のあった日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合にはじめて株主が訴えを提起することが出来ます(同法847条1項3項)。但し、例外としてこの期間の経過を待っていては会社に回復することのできない損害が生じるおそれのある場合には、株主は直ちに訴えを提起することができます(同条5項)。
 なお、株主代表訴訟を提起する裁判所は、会社の本店の所在地の地方裁判所になり(同法848条)、また、訴えの提起に際し、裁判所に納める手数料は、一律に13000円です(同条6項、民訴費法4条2項、3条1項)。
3.株主代表訴訟の特別の定め
 株主代表訴訟が提起された後の裁判の進行は通常の裁判と異なることはありませんが、以下のような特別な定めがあります。
 まず、株主代表訴訟を提起した株主は、必ず会社に対し、訴訟の告知をしなければならず、また、会社及び訴えを提起した株主以外の株主も訴訟に参加することができます(会社法849条3項、1項)。
 株主代表訴訟に勝訴した株主は、弁護士費用その他訴訟のため要した費用のうち相当とされる額の支払を会社に対して請求することができます(同法852条1項)。
 これに対して敗訴した株主は、悪意の場合、すなわち会社を害することを知って不適当な訴訟の追行をなした場合に限って会社に対して損害賠償の責任を負うことになります(同条2項)。
なお、ある株主が取締役と共謀して、わざと会社が敗訴するように株主代表訴訟を提起し、追行したような場合には、会社又は株主は再審の訴えを提起することができます(同法853条)。
4.多重株主代表訴訟
 平成26年6月20日に会社法が改正され、多重株主代表訴訟が導入されました。平成27年5月1日より施行されています。
 これまでの株主代表訴訟は、当該会社の株主が提起できるのみでした。しかし、例えば、子会社の取締役が子会社に対し損害を与えた場合、法律上子会社の株主である親会社は株主代表訴訟を提起することができますが、現実には、子会社の役員は親会社が任命していることから、株主代表訴訟の提起は期待できません。そのため、親会社の株主が、子会社の役員の責任を追及することができるよう、多重株主代表訴訟制度が導入されました(会社法847条の3)。
 多重株主代表訴訟を提起できる親会社の株主は、最終完全親会社等に限られます。最終完全親会社とは、ある会社の株式をすべて有している親会社であり、かつその親会社の株式をすべて有している親会社が存在しない会社を指します。つまり、甲社が乙社の株式をすべて保有し、乙社が丙社の株式をすべて保有している場合、甲社が丙社によっての最終完全親会社となります。丙社の株式や乙社の株式を1株でもほかの第三者が保有している場合には、多重株主代表訴訟を提起することはできません。また、多重株主代表訴訟の対象となる子会社は、子会社の株式価値が最終完全親会社の資産の5分の1を超えていることが必要です。
 本件のA社は、B社の子会社であるものの、B社以外の株主が存在するため、B社の株主から多重株主代表訴訟を提起されることはありません。

対応策

 それでは、株主代表訴訟を提起された取締役としては何かいい対応策はないでしょうか。
 取締役としては、裁判所に対し、訴訟を提起した株主に相当の担保を提供することを命じるよう申立てることができます(会社法847条7項)。すなわち、株主代表訴訟がそもそも不当な訴訟であれば、取締役は、応訴するために要した費用等につき、後に不法行為を理由として訴訟を提起した株主に対し損害賠償請求をすることができますが、この将来の請求を担保するために裁判所は、取締役の請求により、株主に担保を提供するよう命じることができるのです。そして裁判所よりこの命令が出されたにも関わらず、株主がその担保を提供しない場合には、株主代表訴訟は、内容の審理に入る前に却下されることになるのです。
 もっとも、この担保の提供の申立は、どのような場合でも出来るわけではなく、株主が悪意により訴訟を提起した場合に限られ、取締役は株主の悪意を疎明しなければなりません(同条8項)。ここで悪意とは、株主たる地位に名を借りて不当な個人的な利益を追及し、あるいは、取締役に対する私怨を晴らすことを目的とするなどの場合のほか、株主の主張が十分な根拠を有しないため取締役の責任が認められる可能性が低く、株主がこの事を知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて代表訴訟を提起した場合とされています(名古屋高決平成7.3.8判時1531-134)。
 このほか、代表訴訟の提起が会社を困惑させ、株主資格とは無関係の純然たる個人的利益を追求する手段としてなされているときは、株主権の濫用であり、内容の審理に入らず、訴えを却下するとした判例もあります(長崎地判平成3.2.19判時1393-138)。

予防策

 ビジネスにはリスクが伴うものであって、結果的に失敗したからといって必ず違法と評価され責任を追及されるものではありません。したがって、日頃から法令、定款等に従ってきちんと経営をしていれば、株主代表訴訟を提起されたからといってそれほど心配する必要はありません。
 ただ、株主代表訴訟を提起されれば、それに対応せざるを得ず、経済的、精神的な負担がかかることは間違いありません。
 そこでまず肝心なのは、株主代表訴訟を提起されないような経営環境を作ることでしょう。そのためには、きちんと取締役会、株主総会を開催して合意の上で経営を行い、また、取締役会、株主総会の議事録、計算書類等の書類をきちんと作成・保存し、法律に基づいて請求があれば閲覧させるなどの配慮が必要でしょう。

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