法律Q&A

分類:

会社からの借入

弁護士 船橋 茂紀 1997年4月:掲載
(校正・小林 昌弘2001年2月)
(補正:岩出 誠 2008年11月)

取締役が会社から借財するとどのような問題が生じますか。

最近、私が代表取締役をしている我が社の売上げがあがっているので、会社から低利で借金をして私の家のローンを返済しようと思いますが、何か問題はありますか。どのような手続をとる必要がありますか。

取締役会の承認を受けていなければ、金銭消費貸借契約が無効になるので、不当利得金として受領した金銭を直ちに返還しなければならない等の問題が生じます。

1.利益相反取引の制限
 会社法356条1項2号は「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするときは、株主総会において、重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない」と規定し、取締役会設置会社においては、株主総会に代えて、(1)取締役会の承認と(2)取締役会への報告がそれぞれ必要であるとしています(会社法365条)。これらは、取締役が自己又は第三者の利益を図って会社に不利益を与えることを防止する趣旨の規定です。取締役会の承認があれば、民法108条に規定する自己契約又は双方代理にあたる場合でも右の取引をすることを禁止されないことになります(同法356条2項)。取締役会の承認決議においては、当該取引をなす取締役は特別利害関係人として議決権が認められていません(同法369条2項。特別利害関係人が議決権を行使したときは、取締役会決議は無効になるので、取締役会の承認を受けない場合と同じこととなります。)。
 なお、取締役会の承認は事後的なもの(追認)でも構わないとされています(東京高判昭和34年3月30日東高民時報10巻3号68頁)が、法が取締役会の承認と報告との両者を求めていることからすると、取締役会の承認は極力事前に求めるべきでしょう。また、報告義務の懈怠には、100万円以下の過料の制裁があります(同法976条23号)。
2.取締役会の承認のない場合の法律関係
(1)
 会社法356条1項違反の取引の効力について、判例は、「取締役と会社との間に成立すべき利益相反取引については、会社は、右取締役に対して、取締役会の承認を受けなかったことを理由として、その無効を主張しうるが、会社以外の第三者と取締役が会社を代表して自己のためにした取引については、取引の安全の見地より、その第三者が取締役会の承認を受けていないことについて悪意であることを主張し、立証して初めてその無効を主張しうる」として、いわゆる相対的無効説をとっています(最大判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁)。従って、自己取引の場合、会社は当該取締役に対しては取引の無効を主張しえますが、当該取締役から当該取引の目的物を善意で(善意の対象は、自己取引であること又は取締役会の承認を受けていないことについてです)取得したもの(善意の転得者)には、取引の無効を主張しえないことになります。

(2)
 会社法356条1項に違反して会社を代表して行為をした取締役及び会社と取引をした相手方である取締役の両者は、会社に損害が生じた場合には会社に対して損害賠償責任を負い(会社法423条1項)、特に、自己のために直接取引をした取締役は、無過失責任を負います(同法428条)。また、取締役の解任請求(同法339条1項)の対象ともなります。

対応策

利益相反取引にあたりますので、取締役会の承認を受ける必要があります。借入の前に、借入金額・借入日・返済日・資金使途・返済方法・担保の有無等、この借入が会社に損害を与えるか否かを判断するために必要な事項を開示して取締役会の承認を求めるべきです。もっとも、判例は、「取締役と会社との取引が株主全員の合意によってされた場合には、右取引につき別に取締役会の承認を要しない。」(最判昭和49年9月26日民集28巻6号1306頁)としていますので、100パーセント株主である場合には、取締役会の承認を受けなくともよいと考える余地もあります。

予防策

ワンマン会社の社長は、極端な場合、会社からの借入について金銭消費貸借契約書すら作成していないケースもありがちです。しかし、このような場合、万が一、経営権が第三者に奪われたとしたら、特別背任の罪(会社法960条)などで刑事告訴をされかねません。また、金銭消費貸借契約書を作成していても、取締役会の承認を欠く場合には、即座の全額の返済を求められかねません。予めきちんと書類を整えておきましょう。

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