法律Q&A

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株式会社の設立手続

弁護士 船橋 茂紀
1997年4月:掲載(校正・小林 昌弘2001年2月)(再校正・石居 茜2007年11月)

株式会社を設立するにはどうすればよいですか。

新規事業をするため別会社を設立しようと思います。他社との合弁会社にする場合の注意点は何ですか。別会社を子会社とした場合会社法上何らかの規制がありますか。

最低資本金制度の撤廃により、株式会社の設立費用が大幅に軽減し、設立しやすくなりました。定款で株式の内容を定めることによって、株式会社の原則に捕らわれない自由な設計をすることができます。また、内部自治を広く認める新しい事業体を設立する制度も導入されました。

1.株式会社の設立手続
 株式会社の場合、発起人は1人でも設立できます。従来は、原則として、3人以上の取締役と1人以上の監査役が必要でしたが、平成18年5月に施行された会社法により、株式譲渡制限会社(発行するすべての株式について譲渡に会社の承認を要する旨を定款で定めている株式会社。以下、「株式譲渡制限会社」と言います。)については、取締役会を置かないことが可能となり、取締役会を置かないのであれば、取締役1人でもよいことになりました。また、株式譲渡制限会社では、監査役の設置も任意です。また、従来は、株式会社を設立するには、資本金が最低1000万円は必要でしたが、会社法では、最低資本金制度が撤廃され、資本金が1円でも会社を設立することが可能となりました。株式会社の設立には、発起設立(設立の時に発行する株式をすべて発起人で引き受けてしまう方法)と募集設立(設立の時に発行する株式のうち、発起人が引き受けた残りの株式を公募又は縁故募集して発起人以外の外部の人にも引き受けてもらう方法)があります。設立は概ね以下の順序で行い、設立登記によって会社が成立することになります(※の付されたものは発起設立には不要です)。

(1)発起人を決めるる
 法人も発起人になれます。

(2)設立に関する基本的事項の検討
 [1]目的、[2]商号、[3]本店所在地、[4]設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、[5]発起人の氏名又は名称と住所、[6]発行可能株式総数(以上が定款の絶対的記載事項である。会社法27条、37条。)、[7]会社が公告をなす方法、[8]株式の譲渡制限、[9]相続人等に対する株式売渡請求(譲渡制限株式のみ)、 [10]取締役の任期、[11]取締役・監査役の員数、[12]役付取締役、[13]定時株主総会の開催の時期、[14]事業年度に関する定め、[15]株券の不発行、[16]発行株券の種類、[17]株式の名義書換の手続、[18]株券の再発行、[19]利益の配当、[20]変態設立事項(会社法28条)等です。

(3)類似商号の調査
 会社法の施行によって、不要になりました(これまでの商業登記制度では、同一市町村において他人が登記した商号について、同種の営業について登記することが禁止されていたため、登記簿記載の「会社の目的」から同種の営業か判断していたため、登記実務において審査に時間と手間がかかると指摘されていましたが、会社法によって類似商号規制が撤廃され、類似商号の調査の負担がなくなりました)。
(4)許認可関係の調査
(5)発起人会を開き「発起人会議事録」を作る
(6)発起人の引受株式数を決める
(7)定款をつくり、公証人の認証を受ける
(8)発起人以外の株主を募集する(※)
(9)引き受けた株式について金融機関に払い込む
(10)現物出資があれば提供する
(11)記入期間への資本金の払込みについて「保管証明書」を発行してもらう(発起設立の場合には、保管証明は不要であり、代わりに残高証明で足りる)
(12)創立総会を開き、議事録をつくる(※)
(13)設立時取締役、設立時監査役等を選任する(発起設立は発起人により、募集設立は創立総会で選任する)
(14)取締役会を開き、議事録をつくる
(15)取締役・監査役が設立事務を調査し調査書をつくる
(16)設立登記申請書類をつくる
(17)設立登記の申請をする
(18)登記簿謄本、代表者の印鑑証明書の交付申請
(19)官公署、金融機関などへ届出る

2.有限会社について
 平成18年5月の会社法の施行により、有限会社制度は廃止され、有限会社の新設はできなくなりました。ただし、既存の有限会社については、会社法上の「株式会社」となりますが、「特例有限会社制度」が適用され、引き続き「有限会社」の商号の使用が認められ、役員に任期の制限がない、決算公告義務がない等、一部、従前の規律が維持されます。
 ただし、特例有限会社においても、これまで50名とされてきた社員の員数制限が廃止され、300万円とされていた最低資本金制度も撤廃され、新株予約権や社債の発行が可能になるなど、規制の変更があります。
 特例有限会社は、会社法上の「株式会社」なので、商号変更の手続と登記手続によって通常の株式会社へ移行することもできます。
 特例有限会社が通常の株式会社に移行するには、商号を「株式会社」を用いたものに変更する定款変更を株主総会で決議し、特例有限会社についての解散の登記、及び商号変更後の株式会社の設立の登記が必要となります。
3.会社支配に必要な株式数
 株式会社の意思決定は基本的には多数決によって行われています。取締役を選任する株主総会決議は普通決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し[定足数]、出席株主の議決権の過半数の賛成が必要です(会社法309条1項)。なお、普通決議の定足数は定款に特別の定めを設けて変更できますが、取締役及び監査役の選任決議の定足数は定款の定めをもってしても議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満に下げることはできません。)によって行い、取締役会の多数決で取締役の中から代表取締役を選任し、代表取締役が会社を代表します。従って、会社の意思決定を支配するには、理論的には、原則として、議決権を行使することができる株式の50%を超える株式を有することが必要です。
4.子会社を巡る会社法の規制
(1)
 会社法は、親会社と子会社について、A株式会社がB株式会社の総株主の議決権の過半数にあたる株式を有する等、A会社がB会社の経営を支配している場合に(具体的には法務省令で定められています。)、A会社はB会社の親会社、B会社はA会社の子会社と定義しています(会社法2条3号・4号)。

(2)
 そして、子会社は、一定の例外的な場合を除き、親会社の株式を取得することが禁止されています(会社法135条)。なお、会社法308条は株式の相互保有の場合の議決権行使の制限について規制しています(総株主の議決権の4分の1以上を有すること等を通じて経営を実質的に支配することが可能な関係にあるとされる会社が株主である場合、その株主は議決権を有しないとされます)。そして、親会社の監査役は子会社に事業の報告を求めることができ、子会社の業務及び財産の状況の調査権を有します(会社法381条3項)。また、親会社の監査役と子会社の取締役、支配人その他の使用人、会計参与、執行役を兼任できないことになっています(会社法335条2項)。

対応策

 会社の設立手続は最短でも2~3日はかかります。設立に関する基本的事項が定まっていないとき、株式引受人全員の同意が得られず創立総会の招集通知期間(2週間。譲渡制限会社は1週間)を短縮できない場合には、設立に時間がかかります。事前に綿密にスケジューリングし必要書類(委任状・印鑑証明等)を揃えておくことが重要です。
他社との合弁会社にする場合は、50%超の株式数と過半数の取締役と代表取締役とのいずれをもおさえることが重要です。子会社についての規制は解説を参照して下さい。
 なお、株主には、出資額に応じて議決権・配当を配分しなければならないのが原則ですが、会社法では、定款で定めることにより、株主総会の全部又は一部の事項について議決権を行使することができない株式(議決権制限株式)、譲渡を制限する株式、取締役・監査役の選解任について内容の異なる株式等を作ることができ(会社法108条1項。ただし、株式譲渡制限会社以外は、譲渡制限株式の発行限度は発行済み株式総数の2分の1まで。)、さらに、株式譲渡制限会社の場合は、配当を受ける権利・残余財産の分配を受ける権利・総会における議決権について、定款で、株主ごとに異なる取扱を定めることが認められていますので(109条2項・105条1項)、これらの株式の活用により、共同で設立した会社の経営権を担ったり、共同出資による会社設立に際し、互いの条件を反映することも考えられます。
 また、会社法の施行により、合同会社(日本版LLC)を設立することもできるようになりました。
 合同会社は、株式会社と同様、有限責任社員のみで構成されますが、株式会社ほど、法律による規制が厳格ではなく、利益や権限配分が出資金額の比率に拘束されず、自由に設計できます(ただし、利益配当・出資の払戻・持分の払戻については、債権者保護のための規制はあります。会社法628条~636条)。また、社員1名のみの設立・存続が認められ、社員の入社、持分の譲渡、会社成立後の定款変更等、会社の意思決定は、原則として社員全員の同意によってなされます。業務執行については、各社員が原則として業務執行権限を有しますが、定款で一部の社員のみを業務執行役員と定めることも可能です。なお、取締役会や監査役のような機関を設置する必要はありません。
 また、有限責任事業組合(LLP)という事業体も新たに作れるようになりました。LLPは、出資者が有限責任しか負いませんが、組織について法律の規制が緩やかで、組織の内部自治が認められています。LLPは、民法上の組合の特例であるという位置付けなので法人格を有さず、課税上は事業体に課税されず、出資者に直接課税されます。
 合同会社やLLPは、最低資本金規制はなく、定款の認証や払込金保管証明も必要ありませんので、株式会社に比べ、設立手続は簡便でコストも低く抑えられ、利益配分・権限分配等において、内部自治が株式会社より広く認められます。
そのため、例えば、企業間が提携して共同開発を行う場合などに設立する事業体として活用が期待されています。

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