法律Q&A

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従業員持株会制度

弁護士 船橋 茂紀
1997年4月:掲載(校正・小林 昌弘2001年2月)(再校正・石居 茜2008年3月)

従業員持株会制度について簡単に教えて下さい。

当社も創業25周年ということで、店頭公開を準備をしています。その為に会社の諸制度を整備・改善しなければなりませんが、その一環として従業員持株会制度の導入を考えています。導入に際しての留意点を教えて下さい。

従業員持株会制度とは、従業員に自社株を共同購入させる仕組みのことをいいます。

1.制度の概要
 従業員持株会とは、従業員の拠出金を積立て自社株を共同購入するために設立された組織のことを言います。昭和43年に野村證券が創設した制度ですが、現在 では、上場会社・公開会社の95パーセントが採用し、未公開会社における公開準備要件の1つとみなされるなど、実務に定着した制度です。
 民法上の組合形式で従業員の任意加入の「従業員持株会」を設立し、加入した従業員(以下「会員」と言います)から株式購入資金を給料・賞与の天引の形式で拠出させ、会社も奨励金という形式で補助金を拠出し、従業員持株会が右拠出金を資金として定期的・継続的・計画的に会社の株式を購入し(購入した株式の名義は理事長の名義とされます)、右購入した株式を拠出金に応じて会員に按分し、その株式の配当を株式購入に再投資する、という制度です。会員の持分が単位株に達した場合、会員は、単位株ごとに株券の引出し又は売却をできます。また、会員は、退会時に、持分割合に応じた株式の取得又は右売却代金に相当する金員の交付を受けることができます。
2.長所
 会員の「資産形成」と「経営参加意識の高揚」が図れる点などに従業員持株会制度のメリットがあります。即ち、会員にとっては、拠出金に配当金と奨励金とを加えることで有利な投資ができる点、公開に至るといわゆる創業者利潤を共有できる点などの利点があり、資産形成に有利です。また、会社としても、持株会を株主の売却希望の受け皿として使用して公開前の株式の流通を管理できますし(株式の社外流出を防止できますし)、持株会を対象に第三者割当増資を行って資金調達をできるなどのメリットがあります。また、未公開会社のオーナーにとっても、事業承継時の節税対策に利用したり、公開戦略の一環として利用できます。
3.短所
 未公開会社においては、従業員持株会制度が会社ないしオーナーにとって不利になることもあります。即ち、従業員の資本参加の度合によっては経営者の会社支配がゆるがせかねないこと、オーナーにとっての創業者利潤と配当利益の減少をきたすこと、会員の退会等の不測の事態への対応が困難であること、株価が下落した場合会員から苦情を寄せられることなどのデメリットがあります。
4.留意点
(1)
 金融商品取引法の定める、いわゆる「集団投資スキーム」上の持分として規制を受けないよう、法の定める適用除外に該当するように、会員の範囲を自社役員、従業員に特定し、株券の買付を一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行い、各会員の拠出金額が1回当たり100万円に満たないようにする必要があります(金融商品取引法施行令1条の3の3、定義府令6条、7条)。

(2)
 経営者から大量に株式の譲渡を受けたり、第三者割当増資や公開公募株の割当を受ける場合、通常の積立だけでは持株会の資金が不足することがあるので、銀行や会社からの借入が行われます。一般に、会社が低利や無利子の貸付及び利子補給を行う場合、市中金利で借り入れた場合の利息額と会員が実際に会社に対して支払った金額との差額(経済的利益)は、課税の対象となり会員の給与所得とされます(但し、年間の経済的利益が5000円以内であれば課税対象とはされません)。

(3)
月例奨励金は、月例拠出金の5パーセントが平均的です。妥当な範囲(3から20パーセント程度)を越えた奨励金の支給は会社法120条(株主の権利行使に関する利益供与)違反とされるおそれがあります。 裁判例では、従業員持株会に対し、会社が福利厚生の一環として、約1年間に奨励金3475万0259円を無償で支出していた事案でしたが、その金額・議決権行使の方法等から判断し、「株主の権利の行使」に関するものとは認められないとした事例があります(福井地判昭和60.3.29・判タ559号275頁)

(4)
持株会による株式購入は、「一定の計画に従い」「個別の投資判断に基づかず」「継続的に行われ」「1回当たりの拠出金額が100万円に満たない」場合に限って金融商品取引法166条(インサイダー取引の禁止)の規制の適用除外となりますので(166条6項8号、取引等規制府令59条1項4号以下)、業務等に関する重要事実を知った会員が個別の投資判断に従って当該 重要事実の公表前に株式を購入し又は売却することは禁じられています。

(5)
議決権の行使は理事長が行いますが、各会員は理事長に対して議決権の不統一行使(会社法313条1項)を要求できます。

(6)
安定した会社経営を行うには、持株会保有の株式も含め経営者以外の者の持株割合を3分の1未満にすることが必要です。

対応策

配当率の点などで従業員にとって好ましい制度にすることが必要です。購入の為の会社の貸付けの取り扱い、奨励金の割合、従業員持株会の保有する議決権の処理、株価の算定などにに留意する必要があります。

予防策

以上のとおり、従業員持株会制度には、多くの利点があるので株式公開を考えている企業などにおいては、導入を考えてみるとよいでしょう。ただ、従業員持株会制度には不利な点もあるので、導入に際しては、弁護士・公認会計士・税理士などに相談する必要があります。既に、導入している会社においては、従業員持株会制度を応用したものとして、「役員持株会制度」「取引先持株会制度」などもありますので、その導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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