法律Q&A

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会社分割と労働者の扱い

弁護士 鈴木 みなみ 2016年10月:掲載

会社分割をした場合、分割の対象となる事業に所属している従業員はどのように扱うべきですか?

A社では、甲事業と乙事業を行っていますが、現在会社分割をして乙事業を別会社(B社)にすることを検討しています。この場合、現在乙事業に所属している従業員をどのように扱ったらいいでしょうか。また、会社分割に伴う手続き全般について教えてください。

会社法上は、分割計画書または分割契約書に従う限り、現在の従事している事業とは無関係に、A社・B社どちらに所属させることも可能です。しかし、従業員がこれまで従事している事業と異なる分割会社に所属することになった場合、労働契約承継法に基づき、異議申立てが可能となり、異議申立てをした労働者は、これまで従事している事業の分割会社に所属することになります。

1.会社分割とは
 会社分割とは、会社の事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後、他の会社に承継させる手続きをいいます。会社分割には2種類あり、分割後の事業を既に存在する会社(承継会社)に承継させることを吸収分割といい(会社法2条27項)、会社分割に伴って新たな会社(設立会社)を設立した上で承継させる手続きを新設分割といいます(会社法2条28項)。
 会社分割において、具体的にどの権利義務を承継させるかは、吸収分割契約書または新設分割計画書(合わせて「分割契約等」といいます)の記載する限り自由に定めることが可能です。しかし、労働契約の場合、この原則を貫くと労働者がこれまで従事していた業務から切り離されるという不都合が生じるため、労働契約承継法により一定の労働者保護が図られています。
2.労働契約承継法の具体的内容
 まず、分割の対象となる事業に主として従事する労働者について、分割契約等において承継の対象となっている場合には、承継会社または新設会社(合わせて「承継会社等」といいます。設問のB社。)に引き継がれ、承継会社等の従業員になります(労働契約承継法3条)。一方、分割の対象となった事業に主に従事する労働者の労働契約が承継の対象となっていない場合には、当該労働者は異議を申出ることができ、申し出た場合には、承継会社等の従業員となります(労働契約承継法4条1項、4項)。
 次に、分割の対象となる事業に主として従事しない労働者について、分割契約等において承継の対象となっていない場合には、何ら変わらず分割会社(設問のA社)に残ることになります。一方、分割の対象となった事業に主として従事しない労働者の労働契約が承継の対象となっている場合には、当該労働者は異議を申出ることができ、申し出た場合には、分割会社の従業員となります(労働契約承継法5条1項、3項)。
 このように、労働契約承継法は、主として従事している事業と切り離される労働者に対し、異議を申し出る機会を与え、異議を申し出た場合には、主として従事している事業が存する会社に所属することができます。一方、会社は、主として従事している事業と切り離されない労働者が異議を申し出たとしても、それに応答する義務はありません。
3.「主として従事する」の意味
 では、この「分割の対象となる事業に主として従事する労働者」とはどのように判断されるのでしょうか。この点について、労働契約承継法施行規則2条では、以下のとおり定められています。

① 法第2条第1項の分割契約等を締結し、又は作成する日において、承継される事業に主として従事する労働者(分割会社が当該労働者に対し当該承継される事業に一時的に主として従事するように命じた場合その他の分割契約等を締結し、又は作成する日において当該日後に当該承継される事業に主として従事しないこととなることが明らかである場合を除く。)
② 前号の労働者以外の労働者であって、分割契約等を締結し、又は作成する日以前において分割会社が承継される事業以外の事業(当該分割会社以外の者のなす事業を含む。)に一時的に主として従事するよう命じたもの又は休業を開始したもの(当該労働者が当該承継される事業に主として従事した後、当該承継される事業以外の事業に従事し又は当該休業を開始した場合に限る。)その他の分割契約等を締結し、又は作成する日において承継される事業に主として従事しないもののうち、当該日後に当該承継される事業に主として従事することとなることが明らかであるもの

 つまり、分割の効力発生日において分割の対象となる業務に主として従事していたとしても、それが一時的なものに留まる労働者は対象とならず、また、反対に、一時的に主として従事していなくとも、後日主として従事することが明らかな場合には対象となります。
 また、「主として従事する」の解釈に関し、分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成12年労働省告示第127号。)が改正され、平成28年9月1日より施行されました(平成28年厚生労働省告示第317号。以下、合わせて「指針」といいます。)。改正では、「基本的な考え方」として、以下の点が加わりました(なお、より具体的な判断に関する指針の内容は従前と同じであるため、詳しくはこちらのⅢを参照ください。)。

承継される事業に主として従事する労働者に関する基本的な考え方
 会社分割は会社の事業に関して有する権利義務を単位としてなされるものであるが、法第2条第1項第1号の労働者に該当するか否かについては、承継会社等に承継される事業を単位として判断するものであること。その際、当該事業の解釈に当たっては、労働者の雇用及び職務を確保するといった法の労働者保護の趣旨を踏まえつつ、「一定の事業目的のため、に組織化され有機的一体として機能する財産」であることを基本とすること。

4.会社分割に伴う手続き
 分割会社は労働者及び労働組合に対し、以下のとおり一定の事項を書面で通知する必要があるほか、承継の対象となる労働者に対し個別協議をする必要があります。

(1)労働者に対して
 まず労働者に対しては、以下の点を通知する必要があります。なお、④については、労働契約承継法施行規則が平成28年8月17日に改正となり、同年9月1日に施行されたことによって加わったものです。

① 労働契約が承継の対象となっているかどうか(労働契約承継法2条1項)
② 異議申し立ての期限日(同上)
③ 当該労働者の労働契約が承継会社等に承継される場合には、労働条件はそのまま維持されること(労働契約承継法施行規則1条1号)
④「主として従事している」労働者に該当するかどうか(同条2号)
⑤承継される事業の概要(同条3号)
⑥分割後の承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数(同条4号)
⑦分割をなすべき時期(同条5号)
⑧分割後に当該労働者において予定されている業務の内容等(同条6号)
⑨分割後の分割会社及び承継会社等のそれぞれがその負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由(同条7号)
⑩異議申し出の対象となる労働者について異議申し出ができること及び異議申し出の担当先等(同条8号)

 また、分割会社は、分割の対象となる事業に主として従事する労働者との間で個別協議をしなければなりません(商法等改正法附則5条1項)。また、指針の改正により、分割の対象となる事業に主として従事しない労働者であっても、当該労働者の労働契約が承継される場合には、個別協議をしなければならないことになりました。分割会社は、この個別協議において、労働者に対し、分割後に勤務することとなる会社の概要、承継される事業に主として従事する労働者に該当するか否かの考え方、分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込み等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他就業形態等について協議することが求められます。なお、債務の履行の見込みについては、指針の改正により加わった事項です。

(2)労働組合に対して
 分割会社は、労働協約を締結している労働組合に対し、承継会社等が労働契約を承継するかどうか等を通知する必要があります。労働協約を締結していない労働組合に対する通知は法令上の義務ではありませんが、指針では通知することが望ましいとされています。通知すべき事項の具体的内容は、上記労働者の通知事項⑤~⑦、⑨のほか、承継会社等に承継される労働者の範囲(または労働者の氏名)、労働協約を承継する場合における設立会社等が承継する労働協約の内容です。
 なお、指針の改正により、団体交渉権や団体交渉に応ずべき使用者に関する裁判例等の考え方等に留意すべきこと及び会社分割に伴う労働者の労働条件等に関する団体交渉の申入れがあった場合には、分割会社は、当該労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければならないものとされていること、が明記されました。

5.転籍の場合
 会社分割において、労働者の地位の移転を分割契約等によらず、もっぱら転籍で行うことも可能です。この場合、民法625条1項により個別同意が必要となります。また、すべての労働者の地位の移転を転籍で行うとしても、労働契約承継法が定める手続きは省略できないことが、指針の改正で明文化されました。
6.法人格否認の法理
 一部の労働者を解雇することを目的として会社分割を行った場合に、法人格否認の法理が適用される可能性があります(改正指針)。

対応策

設問のように会社分割を行う際、労働者を承継会社等に所属させる場合には、分割契約等による方法と転籍による方法の2種類があります。ただし、転籍による方法であっても、労働契約承継法上の通知義務や個別協議の義務は免れるものではありません。いずれの方法であっても、労働者にとってどちらの会社に勤務するかは重要な事項であるため、紛争を未然に防ぐためにも丁寧な説明を行うことが必要でしょう。

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