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債権時効

弁護士 木原 康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2019年11月28日掲載

債権を時効消滅させないためにどのような手段があるか。また、日常の債権管理上の注意点は?

商取引から生じた債権の消滅時効を防ぐにはどのような方法がありますか。また、債権を時効消滅させないために、日常どのような点に注意すればよいのでしょうか。

一部でも弁済を受けたり、債務承認書を徴求するなど定期的に債務承認させ、時効中断(改正民法では、更新)の措置を取るほか、債権管理帳簿を整備する必要があります。

1.商事債権の消滅時効
(1)現行法
 売掛金や貸金などの債権は、何もしないで一定の期間放置しておくと権利がなくなってしまいます。これを債権の消滅時効といいます。時効にかかる期間は、債権の種類によって異なり、民法上の取引行為によって生じた債権の消滅時効は原則10年(民法167条)、商取引によって生じた債権(商事債権)の消滅時効は原則5年(商法522条)となっています。このように商事債権が短い消滅時効にかかるのは、商人の世界では迅速に取引が行われ、早期に取引関係を安定させることが必要となるからです。ここでいう商事債権とは、当事者双方にとって商行為である場合に限らず、当事者の一方のみにとって商行為である場合も含まれます。また、商行為によって生じた債務の不履行に基づく損害賠償請求権についても5年の消滅時効にかかります。
(2)改正民法
 令和2年4月1日施行の改正民法では、債権の消滅時効に関する改正もなされます。民法上の原則は、現行法では上記のとおり10年ですが、改正法では、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、又は権利を行使することができる時から10年のいずれか早い方となります(改正民法166条1項)。売掛金などの契約に基づく債権は、客観的に権利を行使することができる時には、債権者がそのことを知っているのが通常でしょうから、改正により、実質的に消滅時効期間が5年に短縮されることになります。
 これに伴い、商事時効(商法522条)も廃止され、商事債権についても上記改正民法166条1項により規律されることになります。
2.短期消滅時効
(1)現行法
 更に、5年よりも短い消滅時効も多く定められています。例えば、工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権は3年(民法170条2号)、生産者、卸売商人、又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権は2年(民法173条1号)、運送賃に係る債権や料理店、飲食店の飲食代金、動産賃貸借の賃料は1年(民法174条3号、4号、5号)で、それぞれ消滅時効にかかります。これを職業別短期消滅時効といいます。また、手形債権は特に短い消滅時効にかかる場合があります。このように商事債権の中には、原則の5年より短い消滅時効にかかる場合が多いので注意が必要です。
(2)改正民法
 改正民法では、職業別短期消滅時効がすべて廃止され、前述の改正民法166条1項により規律されることになります。ある債権にどの時効期間が適用されるのか複雑で分かりにくいこと、1年~3年という区別も合理性に乏しいことが理由です(法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料 -主な改正事項-」)。
 ちなみに、労働者の賃金債権については、現在の職業別短期消滅時効では1年とされており(民法174条1号)、労働者の保護のため、これが特別法である労働基準法115条により2年に伸長されています。しかし、民法改正後も労働基準法115条をそのままにしておくと、逆に労働者に不利になってしまいます(民法では5年であるのに、特別法により2年に短縮されてしまうことになります)。そこで現在、厚生労働省において、賃金債権の時効期間の延長が検討されているところです(令和元年7月1日厚生労働省「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」)。
3.時効の起算点
(1)現行法
 消滅時効の起算点は、「債権者が権利を行使することができる時」と定められており(民法166条)、支払期限のあるときは期限が到来したときから、期限の定めのないときは債権成立のときから、起算されることになります。
(2)改正民法
 改正民法では、前述のとおり、原則として、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年(主観的起算点)、又は「権利を行使することができる時」から10年(客観的起算点)のいずれか早い方となります(改正民法166条1項)。
 ただ、前述のとおり、契約上の債権は、客観的に権利を行使することができる時には、債権者がそのことを知っているのが通常でしょうから、両者の起算点は一致することになるでしょう。

対応策

1.時効中断の方法
(1)現行法
 債権が消滅時効にかかりそうな場合には、時効期間の進行を中途でくい止める必要があります。これを時効中断といいます。一旦時効が中断すると、その中断事由がなくなった時点から改めて時効期間の進行が始まることになるので(民法157条1項)、定期的に時効中断の方法をとることにより、消滅時効を防ぐことができます。
 時効中断の方法には、請求、差押え、仮差押えまたは仮処分、承認の3つがあります(民法147条)。
 請求には、裁判上の請求と裁判外の請求(催告)とがあります。裁判上の請求は、訴えの提起のほか、支払督促の申立、和解、調停等の申立、破産手続・民事再生手続・会社更生手続への参加の方法によるもので、手続をとった時点で時効が中断し(ただし、手続が却下されたり、取り下げた場合には中断の効力は生じません)、確定判決や、裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって請求した権利が確定すると、消滅時効の期間はその時点から一律10年に延長されます(民法174条の2第1項)。裁判外の請求(催告)は、簡便な方法ですが、その後6か月以内に裁判上の請求などの手続をとらなければ時効中断の効力は生じません(民法153条)。しかし、時効期間が間近に迫っていて、訴え提起などの準備をする余裕がない場合には、この催告をしてとりあえず時間をかせぐことができます。なお、催告を何度繰り返しても時効中断の効力はありませんので、催告から6か月以内に裁判上の請求などの手続を取らなければなりません。
 債務者の財産に対して差押え、仮差押えまたは仮処分の手続をしたときも時効は中断されます。なお、差押えなどの手続を保証人に対して行ったときには、時効の利益を受ける者、つまり主債務者に通知をしなければ時効は中断しません(民法155条)。
 債務者が債務を認めたときも時効は中断されます。承認と認められるのは、支払猶予の懇願、手形書替の承諾、利息の支払、一部弁済、反対債権による相殺、借主の承諾のもと貸主が担保物からの収益を受け取って利息に充当した場合などがあります。したがって、債務者からたとえ僅かでも一部弁済を受けることができれば、承認によりその時点で時効が中断します。
(2)改正民法
 上記の時効中断の制度については、複雑(技巧的)で分かりにくいのではないか、つまり、中断の効果としては「完成の猶予」と「新たな時効の進行(時効期間のリセット)」の2つがありますが、それぞれの効果の内容も発生時期も異なることから、新たに2つの概念を用いて分かりやすく整理すべきないかとの問題が提起されていました。そこで、改正民法では、多岐にわたる中断事由について、各中断事由ごとにその効果に応じて、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由と、「新たな時効の進行(時効期間のリセット)の部分」は更新事由と振り分けられました(前掲「説明資料」)。
 現行法の中断事由のうち、まず、裁判上の請求などは、それが終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくそれが終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は完成しないものとされました(完成猶予事由、改正民法147条1項)。そして、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、各事由が終了したときから新たにその進行を始めるものとされました(更新事由、改正民法147条2項)。なお、その新たな時効期間は、現行法と同じく10年です(改正民法169条1項)。
 つぎに、裁判外の請求(催告)については、完成猶予事由に振り分けられました。つまり、催告後6か月を経過するまでの間は、時効は完成しないものとされました(改正民法150条1項)。この6か月の間に裁判上の請求等をしなければ、消滅時効が完成してしまいます。なお、催告を繰り返しても完成猶予期間が延長されるわけではない(再度の催告に完成猶予の効力はない)ことが明文化されています(改正民法150条2項)。
 差押えに関しては、改正民法148条1項で、強制執行、担保権の実行、競売及び財産開示手続が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってそれが終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は完成しないものとされました(完成猶予事由)。そして、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合を除き、強制執行などが終了した時から新たに時効が進行するものとされました(更新事由、改正民法148条2項)。
 仮差押え及び仮処分については、それが終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しないとされています(完成猶予事由、改正民法149条)。前述のとおり、現行法では中断の効果が与えられ、時効期間のリセットが行われますが、改正民法ではこの点が変更されており、更新事由とはされておらず、リセットは行われません。
なお、強制執行等、仮差押え、仮処分の手続を保証人に対して行ったときには、主債務者に対する通知が必要だ(そうしないと完成猶予又は更新の効力が生じない)という点は、現行法と同じです(改正民法154条)。
承認については、更新事由とされ、承認がなされた時から新たに時効が進行するものとされています(改正民法152条1項)。
ちなみに、改正民法では、協議を行う旨の合意ある場合が完成猶予事由として追加されています。すなわち、権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録でされたときは、①その合意があった時から1年を経過した時、②その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時、又は、③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面又は電磁的記録でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時のいずれか早い時までの間は、時効は完成しないものとされました(改正民法151条1項、4項、5項)。これは、現行法下では、当事者が裁判所を介さずに紛争の解決に向けて協議をし、解決策を模索している場合にも、時効完成の間際になれば、時効の完成を阻止するため、訴訟を提起しなければならなかったのですが、これでは紛争解決の柔軟性や当事者の利便性が損なわれるので、新たな完成猶予事由を設けるべきだという考えに基づくものです(前掲「説明資料」)。

予防策

1.債権管理帳簿の整備
 営業上の債権については、確実に債権の回収、保全の措置が取れるよう、債権の発生、変動に応じて、債権の状況を把握して行くことが必要です。多くの会社では、取引発生の都度、複式簿記による仕訳伝票を起こし、これを総勘定元帳に転記するシステムを採用していますが、取引態様に応じて管理して行くため、各種の元帳やその補助簿を作成しています。そこで、債権管理のために、例えば売掛金元帳や受取手形記入帳を作成し、顧客毎の売掛金の発生・消滅を記録するほか、担保や回収の条件、状況を把握するための補助簿を工夫して、常に消滅時効の期間を把握しておくべきでしょう。
2.債務承認書の徴求
 このようにして管理した債権の時効が近づいてきたときは、最も簡便な時効中断の方法として、債務者に債務の承認をさせるようにします。
 そこで、まず、債務の全額でなくとも一部だけでも支払うよう請求することです。債務の一部弁済であっても、一部の弁済であることを明示しておけば、債務全部について承認したものとされ、時効中断(改正民法では、更新)の効果が発生するからです。次に、一部でも支払うことができないという場合には、残高確認書等を債務者から徴求することが行われます。この確認書は、方式を問いませんが、債権の発生原因及び金額を特定し、作成年月日を記載した書面に、債務者が署名ないし記名捺印するのが通常です。特に承認の年月日は時効の中断(改正民法では、更新)日として重要ですので、これを確実に証明するため、公証人役場で公証印をもらっておくと一層確かになります。
3.経過措置について
 なお、前述のとおり現行民法と改正法の説明をしてきましたが、経過措置が設けられており、改正民法の施行日である令和2年4月1日以降も現行民法が適用される場合がありますので、留意してください。
 すなわち、令和2年3月31日以前に時効中断事由が生じた場合には、その中断の効力については現行民法が適用されます(民法の一部を改正する法律附則10条2項)。
 また、令和2年3月31日以前に協議を行う旨の合意がなされても、改正民法151条は適用されず、完成猶予の効力は生じません(同法附則10条3項)。
 さらに、令和2年3月31日以前に債権が生じた場合、その債権の消滅時効期間については現行民法が適用されます(同法附則10条4項)。商事債権についても、令和2年3月31日以前にされた商行為によって生じた債権の消滅時効期間については、現行商法522条が適用されます(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律4条7項)。

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