法律Q&A

分類:

質権

弁護士 相川 泰男
1997年4月:掲載(校正・小林 昌弘2001年2月)(再校正・村木 高志2007年12月)

質権とは何か。質権によってどのように債権が担保されるのですか。

最近では、債権や有価証券に質権を設定することが多くなっていると聞きましたが、そもそも質権とはどのようなものでしょうか。また、質権にはどのような種類があり、それぞれどのような手続をすればよいのでしょうか。

債権担保のため目的物を設定者から預かって手許に留め置き、この目的物から優先的に債権の回収を図ることができます。

1.質権の意義
 質権とは、債権の担保として設定者から目的物を預かって手許に留め置き、債務者から弁済がない場合に、この目的物から優先的に債権の回収を図ることができる権利です。質権は、抵当権と同様に、当事者間の設定契約により発生する約定担保物権で、民法は、質権の目的物により、動産質、不動産質及び権利質の3種類に分類し、その目的物の性質に応じた規定をおいています。
 このうち、実務上最も多く利用され、取引において重要な役割を果しているのが権利質です。「権利」も質権の対象になるというのは、多少違和感があるかもしれませんが、権利質も、質権者は目的物である権利を自分の事実上の支配下に収め、設定者の利用を拘束するという点で、他の質権と同様に考えることができるのです。
2.質権の種類・目的物
 動産質の場合、麻薬、猥褻文書などの禁制物その他譲り渡すことができない物以外は、原則として何でも質権の目的とすることができます。但し、登記船舶、運行の用に供する自動車、航空機などは譲渡可能ですが、質権者による運行や管理を認めないという政策的配慮から質権設定が禁じられています。不動産質権の目的となるのは、土地と建物ですが、農地を質権の目的とするには、各都道府県知事の許可が必要です。権利質の場合、譲渡可能な権利であれば、原則として質権の目的とすることができます(民法362条)。ただし、当事者間で譲渡禁止の特約を付けた債権については、質権者がその特約の存在について善意の場合のみ質権設定が有効となります。
 ところで、動産質と不動産質は、実務ではあまり広く用いられていないのが実情です。担保物が手許にあることは担保の方法として確実で、間接的に債務の弁済を促す効力がありますが、反面担保物の保管は質権者で行わなければならず、万一担保物を滅失させたりすれば、設定者から損害賠償の責任を追及されることにもなりかねません。また、一般的に動産は目的物の価格が低いため、企業間取引の担保として動産質はあまり利用できませんし、不動産を目的とする担保としては、不動産質よりも、設定者のもとに占有が残される抵当権が圧倒的に多く利用されています。これに対して、債権や有価証券は、証書の保管も簡便であり、しかも相応の価値を有するものですから、これを目的とする権利質は、取引においても頻繁に利用されています。

対応策

1.質権の設定契約の仕方
 質権設定契約は、質権設定の合意のほかに、目的物を質権者に引き渡すことで成立します。質権設定の合意については、特に書面によることが法的に要求されているわけではありませんが、契約の事実や内容を明確にするために、書面を作成すべきです。また、質権設定契約は、当事者間の合意だけでは足りず、債権証書が存在しない権利質の場合を除いて、目的物の引渡しが成立要件です。したがって、設定者に目的物を占有させたままでは質権の効力は発生しません。また、債権を譲り渡すために証書の交付が必要なものを質権の目的とする場合には、その証書の交付によって質権の効力が発生することになります。
 次に、第三者に対する対抗要件については、質権の目的物の種類によって異なっています。動産質の場合、目的物の引渡を受け、そのまま占有を継続することが第三者に対する対抗要件となりますが、不動産質の場合には、さらにその旨の登記をすることが対抗要件として必要です。権利質のうち、指名債権を目的とするものについては、債権譲渡の場合と同様に、第三債務者に通知をするかまたはその承諾をもらわなければ、質権設定を第三債務者や、差押債権者などの第三者に対抗できません。この通知又は承諾には確定日付が必要ですから、通知は必ず配達証明付きの内容証明郵便で行い、承諾は公証人役場で公証印を押してもらうことが必要です。そのほか、記名社債は会社の社債原簿に記載してもらうこと、貨物引換証や倉庫証券などの指図証券は質権設定の裏書を受けることがそれぞれ対抗要件となります。また、記名株式は、設定者から株券の引渡を受けた後、占有を継続することで足り、特別の対抗要件を具備する必要はありません。なお、特許権、意匠権、実用新案権などの無体財産権を質権の目的とする場合には、その旨の登録をすることが質権の成立要件です。

2.質権の実行方法
 指名債権等の権利質の大きな特徴は、債権者に直接取立権が認められていることです。質権者は第三債務者から自己の債権額の範囲で直接弁済を受領することができるのです(民法366条)。この点、競売手続をして目的物を売却し、売却代金の中から配当を受け、ようやく債権の回収が可能となる一般の担保物権と比較して、非常に簡便に債権回収ができる場合もあるというわけです。

予防策

1.譲渡禁止特約付債権の質入れ
 当事者間で譲渡禁止の特約を付けた債権は、質権者がその特約の存在について善意の場合のみ質権設定が有効となります。ここで注意しなければならないのは、たとえば銀行の預金債権について、判例は、一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されていることは、広く知られているところであって、このことは少なくとも銀行取引の経験のある者にとっては周知の事柄に属するとして、善意の主張を退けています(最判昭和48.7.19判時715ー47)。したがって、譲渡禁止特約のある債権については、あらかじめ第三債務者の承諾を取っておくことが必要です。

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