法律Q&A

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債権相殺

弁護士 相川 泰男
1997年4月:掲載(再校正・村木 高志2008年3月)

相殺とはどのようなものか。相殺の時期及び行使方法。

当社はA社に対する貸金債権を有しており、A社からの買掛金債務と相殺したいと考えていますが、そもそも相殺はどのような場合にできるのでしょうか。また、相殺の行使方法について教えて下さい。

相殺は、相殺適状を生じた時から相手方に対する一方的意思表示により行い、これにより双方の債務は対当額で消滅します。

1.相殺の意義
 設問では、当社がA社に対して貸金債権を有しており、A社が当社に対して売掛金債権を有しています。この場合、当社もA社も、債権が弁済期にあるときは、その一方的な意思表示によって、双方の債務を対当額にて消滅させることができ、このような意思表示を相殺といいます。この場合、相殺する側の債権を自動債権、相殺される側の債権を受働債権と呼び、設問のように、当社がA社に対して相殺する場合には、貸金債権が自動債権、売掛金債権が受働債権となります。
 このように相殺とは、当事者間で対立する同種の債権が弁済期にあるときに、相手方に対する一方的な意思表示により、双方の債務を対当額において消滅させる法律行為です。
 相殺は、当社とA社のように、金銭債権という同種の対立する債権を有する者の間では、それぞれが別々に債権の弁済をするのは時間と費用の無駄であって、意思表示だけで弁済をなしたのと同一の効果をあげたほうが実際上便宜であること、また、相殺を認めないと、仮にA社が破産した場合、当社は自己の債務を全額請求されるのに対し、当社の債権は破産債権として一部の配当を受けるに過ぎなくなってしまう危険性があり、公平が害されるということから認められている制度です。
2.相殺の要件・効果
 相殺が認められるためには、自動債権と受働債権が原則として当事者間で対立していること、その対立している債権がたとえば金銭債権同士のように同種の目的を有すること、自動債権が弁済期にあること、債務の性質が相殺を許さないものでないことの要件が必要です(民法505条1項)。そして、これらの要件を具備 した相殺できる状態にあることを相殺適状といいます。
 相殺の意思表示がなされることにより、双方の債務は、その対当額において消滅します。そして、その消滅の効果は、相殺の意思表示をしたときではなく、双方の債務が相殺適状を生じたときに遡って生じます(民法506条2項)。当事者は相殺適状にある両債務については既に清算されたものと考えるのが通常なので、このように規定されているのです。

対応策

1.相殺の時期および行使方法
 相殺ができるのは、相殺適状を生じた時からです。債権の弁済期との関係では、自動債権は常に弁済期にあることが必要ですが、受働債権は、原則として期限の利益を放棄できるため、必ずしも弁済期にある必要はありません。
 相殺の方法は、相手方に対する意思表示によって行います。意思表示は相手方に到達しなければ効力を生じませんし、相殺の事実を証拠として残しておくために配達証明付きの内容証明郵便で行うのが通例です。この相殺通知書には、相殺しようとする自動債権と相殺される受働債権の内容・金額を明らかにした上で、自動債権と受働債権とを対当額で相殺する旨を記載します。
 相殺通知の宛先は、法人であるA社ですので、通常の場合、その代表者である代表取締役宛に出します。A社が倒産して会社の住所地に宛てた通知書が到達しないときは、代表取締役個人の住所に宛てて通知書を出すことになります。また、A社が破産宣告を受け、破産管財人が選任されていれば、A社の財産の管理及び処分権はすべて破産管財人に専属するので、相殺通知も破産管財人宛に出します。会社更生の場合も、破産と同様ですが、相殺は、債権届出期間内にしなければならないという時間的制限があるので注意が必要です。

2.債権の性質上相殺の可否が問題となる場合
(1)消滅時効にかかった債権による相殺
 当社のA社に対する債権がうっかり時効消滅してしまったとしたら、なお、当社はA社に対して相殺を行使することができるでしょうか。
 このように自動債権が時効で消滅しても、その消滅以前に相殺適状になっている場合には、なお相殺に用いることができます(民法508条)。本来、消滅時効にかかってしまった債権は、履行を請求しても相手方から権利の消滅を主張されれば、結局回収することできなくなってしまいます。しかし、当事者双方が同種の債権を有し、しかも両方の債権が相殺できる状況にある場合には、それらの債権が対当額において既に清算されてしまったものと考えるのも無理からぬところなので、民法は公平の見地からこのような場合にも相殺を認めているのです。

(2)譲渡された債権の相殺
 A社が当社に対する債権をBに譲渡し、A社から債権譲渡通知が到達したとしたら、当社は相殺を行使できなくなるのでしょうか。
 このように受働債権の譲渡がなされても、当社はBに対して相殺をすることができます。民法は、債務者の意思に関係なく行われる債権譲渡により債務者の地位が譲渡前より不利益になることを防止するため、債務者がその通知を受けるまでに「譲渡人に対して生じた事由」をもって譲受人に主張できるものと定めているのです(民法468条2項)。

(3)差押えられた債権の相殺
 A社の当社に対する債権がBに差押えれらたとしても、やはり当社は相殺を主張できるでしょうか。
 この場合、当社のA社に対する債権が差押え後に取得されたものでない限り、自動債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、当社は相殺することができます。民法は、支払の差止め後に取得した債権による相殺を禁止していますが(民法511条)、この規定によれば、差押え前から自動債権を有する場合には相殺ができることを示しており、実質的にも、債務者に対して反対債権を有する第三債務者としては、将来債務者の財産状態が悪化した場合に、相殺することにより清算を図れるとの期待があり、この期待は合理的で保護に値するからです。

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