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抵当権の任意処分

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2008年5月:掲載

抵当権により債権回収をするには、必ず競売手続をしなければならないのでしょうか。

甲社は、乙社に乙社所有の土地と建物を抵当として金3000万円を貸していましたが、支払期限が過ぎてもなんら連絡がないので甲社からの幾度にも及ぶ催促をしました。しかし、結局、乙社が倒産してしまいました。この場合に、より有効な抵当権に基づく債権回収方法はありませんか。

抵当権の任意処分という方法があります。競売手続きと比較の上、より有効な手段を弁護士に相談するなどして検討してください。

1.抵当権の任意処分の意義
 本来抵当権には競売の申立て権能があり、抵当権を実行する場合は、設問[5-2-4]にあるように、通常は不動産の競売手続をとるのですが、そのような強制的な形をとるのではなく、競売の申立権能を背景として抵当不動産の所有者に任意に不動産を処分してもらいその処分代金から抵当権者が抵当債権を回収し、それと同時に抵当権を解除するということを「抵当権の任意処分」といいます。この様な事は、通常の抵当権付不動産の売買でも行われていることなのですが、殊更「任意処分」といっているのは、実際には債務者が倒産したような場合に、抵当権の実行の一態様として、いきなり不動産競売の申立ということではなく任意処分ということで抵当債権を回収できないかと考えているからです。
2.任意処分の長所と短所
(1)長所
 まず、抵当権者にとっては高く売れるということが挙げられます。競売にかければ時価の2ないし3割は安くなる売らざるをえないところを、ある程度時価で売ることが可能です。
次に迅速な売却が挙げられます。競売手続だと最終的な配当を受けるまでに時間がかかってしまうのが現実でありますが、任意処分であれば、うまくいけば2~3ヶ月で処理されてしまいます。ただ、任意処分が常にスムーズにいくわけではありません。任意処分できないから仕方なく競売の申立をしているというような例も少なからずあるようです。
更に、残債権の処理が挙げられます。競売ですと売却代金は配当手続において抵当権者に法定充当されて残債権は残るということになりますが、任意処分の場合では、所有者あるいは債務者との話合いになりますのでその中で残債権をどうするのかということも話合うことが出来ます。
所有者(兼債務者と考えます)側の長所としては、所有者も納得して売却出来るという点や、公にならないで内密な売却が実現でき、残債権について債権者から免除を受けるなど柔軟な解決が図られるすという点が挙げられます。
買受人の長所としては、まず、不動産の引渡の確保という点が挙げられます。任意処分の場合は、目的不動産に付着する権利をきれいにし目的不動産を引渡してくれるのと引換に残金全額を支払うということになりますが、競売の場合は、占有者がいると任意の引渡を受けるしかなく引渡を拒む占有者に対しては、「引渡命令」(民事執行法188条、83条)を裁判所からもらい執行官を連れていって強制執行しなければなりません。この強制執行が時間もかかるし金もかかるということです。
次に、ローンの活用があります。競売であれば、代金納付が先行しますので実際に手元に資金が無いと買えませんが、任意処分の場合は、金融機関についている抵当権が全部消えるということを説明して納得してもらえればローンを組むことが出来ます。

(2)短所
 まず、不正行為の恐れ(執行妨害の助長)という点が懸念されます。任意処分を実行するには、当該担保物件を担保権等の何ら付いていないしかも占拠者もいない完璧なものにしなければならないので、後順位の抵当権者や街金の仮登記根抵当権というようなものも幾らかのお金を支払って抹消に応じてもらわねばならず、その立場を逆手に取られて執行妨害の助長に繋がっているのではないかということです。
次に、所有者及び抵当権者等の利害関係者全員の同意が不可欠になるということです。競売の場合と異なり、任意処分の場合は、債務者が倒産間際に仮登記を設定するなどしていろいろと得体の知れない人物が入り込んできて関係者全員の同意をとることがなかなか困難となる場合もありえます。
最後に、売却代金の配分についての調整が困難という点です。原則としては、競売の時と同じように配当すべきなのでしょうが、本来競売であれば配当にあずかれなかった様な債権者や不法占拠者にもある程度は考慮しなければならず、非常に頭の痛い問題となる可能性があります。

3.任意処分の事前準備
(1)資金繰りに困っている債務者の実態の把握
 債務者が本当に行き詰まる前に、任意処分がうまくいくような状態なのか検討しておく必要があります。

(2)抵当不動産の調査
 まず、登記簿を調査して新たな利害関係人の出現の存否を確認し、街金等が入り込んでいるような場合は、競売に付した方がいい場合もあります。次に、現況調査をして不法占拠者がいないか確認します。競売手続に移行した場合の売却のための保全処分(民事執行法55条)のことを考慮して現場の写真を撮っておくことも必要でしょう。

(3)所有者及び利害関係者の意向の検討
 債務者は利害関係がありますので問題はないですが、物上保証人や第三取得者は債務を負っていないのに物件を処分することになるので、明渡し料等の対価を出さないとなかなか応じてくれません。そこで、物上保証人には連帯保証人を兼ねさせておくという方法もあります。なお、所有者が行方不明の場合は、速やかに競売の申立を行って一応不動産の保全を図った上で、任意処分の可能性を所有者の出現を待ちながら考えるべきです。申立は、買受申出人が出るまでは債権者の一方的判断で為し得ます(同法188・76条1項)。更に問題となるのは、不法占拠者の存在です。この様な人たちは暴力団関係者が多いですが、物事を損得で考えている人達なので、怖がらずに「競売になったらこうなりますよ」ということをきちんと説明して「それならこうした方が得じゃないですか」という形で説得すれば意外とうまく協力してくれます。滞納処分による差押債権者については、交渉を早めにして無益な差押の解除(国税徴収法48条2項・79条1項2号)の規程を活用しながら行政庁と交渉すべきです。

(4)抵当不動産の売却価格の検討
 現地調査をして価格資料を収集します。

(5)買受希望者の有無の調査
 仲介業者を入れて探すことが多いようです。

4.任意処分の具体的手続
(1)合意書の作成
 必ず期限を入れて合意書が一人歩きしないように気をつけるべきです。

(2)抵当不動産の売買
 仮に売買が売主の担保責任等の問題から契約解除になっても、抵当権者に対して売買代金の返還を買主が求めてくることは出来ませんし、売買代金から無担保債権の回収をしない限りは、詐害行為(民法425条)となることもありません。

(3)売買代金からの弁済
 弁済者が誰であるかしっかり確認してください。債務者であれば時効が中断します(同法147条3号)が、物上保証人では中断しませんし、物上保証人が弁済すれば法定代位が生じる(同法500条)等その効果に違いがあるからです。また、弁済金の充当方法については、通常金融機関が特約で弁済充当指定権を持っていますので、完済にならない時には、弁済者との間で確認して充当通知を出しておくことが大切です。

(4)抵当権の解除
 売買後に弁済がなされるのと引換に抵当権が解除されるのが原則です。どうしても解除を先行させないとならないような場合でも、売買代金について何らかの保全措置を施しておく必要があります。更に、任意処分で抵当物件を処分した場合にも、抵当権者の担保保存義務違反(同法504条)が問われる可能性がありますので、抵当権者としては、保証人とか他の担保提供者に対して異議が無い旨の一筆を入れてもらった方が無難でしょう。

(5)売却代金の配分方法
 あくまで、抵当権の順位及び額による配分を基本とすべきで、優先債権者・準優先債権者・劣後債権者という区分をして、優先債権者の抵当権の範囲内での配当はやむをえないものと考えます。

対応策

以上のことから、早急に甲社とすれば抵当物件を調査し乙社の状況を確認の上、抵当権を任意に処分した方がいいのかどうか検討すべきです。ただ、この作業は高度に専門的な作業であることから、弁護士に依頼することも検討してください。

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