法律Q&A

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債権譲渡

弁護士 相川 泰男
1997年4月:掲載

債権譲渡の具体的手順

当社は、A社に商品を卸していて、未収の代金がかなりありますが、最近A社の経営が悪化しているようです。A社にはかなりの売掛債権があるようなので、そこから回収したいと考えています。債権譲渡を受けるとよい聞きましたが、どのような手続をとればよいのでしょうか。

譲渡契約を締結し、譲渡人から債務者に宛てて内容証明郵便で通知するか、債務者から公証印のある承諾書をとります。

1.債権譲渡とは
 A社の有する売掛金債権から回収を図るには、債権差押命令を申立ててその売掛金債権を差押えるという方法もありますが、この方法によるにはA社に対する債務名義が必要です。しかし、取引先に対する債務名義を前もって取得していることは稀でしょう。そこで、A社の同意がとれれば、A社から売掛金債権の譲渡を受け、その売掛先から直接支払を受けて自己の債権を回収するという債権譲渡の方法によるのが迅速かつ簡便です。
 債権譲渡とは、法律的には、債権の同一性を失わせることなく、譲渡人から譲受人に譲渡契約によって移転させることで、このため、譲受人は譲渡人が持っていたのと全く同じ債権を取得することになります。そこで、A社の売掛先に信用と財産があり、債権の弁済を受けることができる状態になるのであれば、債権譲渡による方法は自己の債権回収のために有効な手段となるのです。
 なお、債権譲渡の目的とされる債権で主に問題となるのは、債権者が特定し、債権の成立・譲渡のために債権証書の作成・交付を必要としない指名債権で、売掛金債権もこれにあたりますので、以下では指名債権の譲渡について説明します。
2.指名債権の譲渡性
 債権譲渡に際してまず問題となるのは、譲渡の目的となる債権が譲渡可能であるかどうかですが、民法は指名債権は原則として譲渡できると定めています(民法466条1項)。ただ例外として、扶養請求権のように債権の性質から譲渡の認められない債権、賃借権のように法律上譲渡が禁止されている債権、譲渡禁止特約のある債権など、譲渡が制限されているものもあります。
 このうち、トラブルになりやすいのは譲渡禁止特約のある債権で、譲受人がその特約のあることを知らなかった場合には、債務者はその特約のあることを主張できず、債権譲渡は有効となるのが民法の建前ですが、判例は、譲受人がその特約の存在を知らないことにつき重大な過失のあるときは、その債権を取得しえないとしています(最判昭和48.7.19判時715ー47)。したがって、預金債権や請負代金債権のように一般に譲渡禁止特約の付されている債権の譲渡を受けるには、あらかじめ債務者の承諾を取り付けることが必要です。
3.指名債権譲渡の方法
 A社から債権譲渡を受けるには、まず、A社との間で債権譲渡契約を締結する必要がありますので、A社がこれを拒絶する場合にはこの方法によることはできません。次に、この債権譲渡を第三者に対抗するためには、確定日付のある証書による、債務者への通知または債務者の承諾が必要です(民法467条1項、2項)。そこで、債務者の承諾書には公証人役場で公証印を押してもらい、債権譲渡通知によるときは必ず内容証明郵便の形式にします。
4.債権譲渡の競合
 A社は資金繰りに困って債権を二重、三重に譲渡することも考えられます。このような場合、譲受人同士の優劣は債権譲渡の日の先後ではなく、第三者対抗要件を具備した日の先後で決めることになります。したがって、A社との間で債権譲渡契約を早期に締結し、債務者の承諾をもらったとしても、その承諾に確定日付を取っておかないと、後から確定日付ある通知をした譲受人に対抗できなくなります。次に、重複譲渡の譲受人がどちらも確定日付のある通知または承諾を得ている場合は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時または確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によって決められます。更に、複数の確定日付ある通知が同時に債務者に到達した場合は、判例の考え方に従えば、各譲受人は、譲受債権の全額の弁済を第三債務者に請求できる事となります。また、最近の判例の考え方に従えば、差押の通知と債権譲渡の通知の到達の先後関係が不明な場合について、第三債務者が執行供託(民事執行法156条1項)したときは、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものとしています(最判平5.3.30民集47.4.3334)。

対応策

1.債権譲渡の具体的手順
 具体的にA社の有する債権を譲受けるには、A社と交渉してその合意を取付け、債権譲渡契約書を作成するとともに、あらかじめ債務者に対する債権譲渡通知書を準備しておき、速やかにA社の記名・捺印を徴求するようにします。債権譲渡通知書は、譲渡人が作成して発送しなければならないものですが、A社が速やかに手続してくれるとは限りませんので、当社のほうで通知書の書式を用意し、債権譲渡契約と同時に通知書にも記名・捺印をもらうようにするのです。更に、債務者の承諾をもらうことができるときは、売掛先に出向いて債権譲渡契約書に債務者の承諾印をもらい、これに公証人役場で公証印を押してもらいます。この承諾をもらうことができないときは、債権譲渡通知書を直ちに発送するようにします。

2.譲受債権の特定
 債権譲渡通知書には、譲渡の対象となる債権を、他の債権と混同するおそれがない程度に特定する必要があります。債権を特定する要素としては、債権の種類ないし発生原因、金額、弁済期などが考えられますが、これらの要素がすべて確定していなければ債権の特定として不十分というわけではなく、例えば代金額が未定でも契約年月日や商品名、数量などにより債務者が債権譲渡の対象となった債権を識別できる程度に特定できればよいでしょう。

予防策

1.債権譲受に際して留意すべき点
 A社からせっかく債権譲渡を受けても、売掛先から現実に支払を受けられなければ何にもなりません。そこで、売掛先から確実に回収できるよう、債権譲渡に際して以下のような点に留意する必要があります。

(1)譲渡禁止特約などの調査
 譲渡禁止の特約を含め、A社と売掛先との間の売買契約の内容を調査し、万一、譲渡禁止の特約があれば、売掛先の承諾を受けなければなりません。また、売掛金の額はもちろん、支払日、支払方法についてもチェックする必要があります。売掛先がA社に対して、既に約束手形を振出しているような場合には、債権譲受の目的を達し得ないからです。

(2)売掛先の信用調査
 売掛先の信用状態の調査も欠かせません。売掛先もA社と同様に支払不能に陥れば、譲受債権も結局回収不能に終わるからです。このように、A社から債権譲渡を受けても、売掛先に支払能力がなければ回収が功を奏さないのです。そこで、債権譲渡にあたり、あくまでも債権担保(譲渡担保)として譲り受けることにします。代物弁済として譲り受けると、その時点で当社のA社に対する債権が消滅することになるので、売掛先から回収できないときに再度A社に請求することができなくなってしまうからです。

(3)相殺などの抗弁の有無の確認
 更に、A社の有する売掛金債権に、売掛先から相殺を主張されるなどの抗弁権が付着していないかを確認する必要があります。債務者に債権譲渡通知を出したにとどまるときは、債務者がその通知を受けるまでに譲渡人に対して抗弁することができた事由をもって、譲受人に抗弁することができるので(民法468条2項)、売掛先がA社に反対債権を有しているときは、相殺により譲受債権も消滅してしまうことになるからです。このような債務者からの抗弁の対抗を阻止するため、債権譲受にあたっては、単なる債権譲渡通知ではなく、債務者から異議なき承諾を取るほうが望ましいのです。

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