法律Q&A

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子会社の倒産と親会社の責任-法人格否認の法

弁護士木原康雄
2024年12月:補正

息子に任せていた子会社が倒産せざるを得ない事態になりました。親会社である当社が責任を負うことはありますか。

私は、製造販売会社であるX株式会社の社長ですが、後継者を養成するという考えもあって、販売部門を分社して100パーセントの子会社であるY株式会社を設立して、同社を息子に任せていました。当初、Y社はX社の商品しか扱わなかったのですが、息子独自の判断で、他社の製品も販売するようになっていました。しかし、たまたま大量に仕入れた製品に欠陥があり、全国的な消費者問題にまで発展し、製造会社とともにY社も多額の負債を抱えてしまいました。Y社は倒産必至の状況なのですが、親会社であるX社が、Y社の債務について責任を負うことはあるのでしょうか。

子会社の法人格が形骸化していたり、それを濫用していると評価される場合や、同一の商号の使用を許諾していた場合など以外は、親会社は責任を負わないものと考えられます。

1 別の法人の責任は負わないのが原則
 債権者等の取引先にとって、相手方が株式会社である場合、当該株式会社の財産のみが最終的には引き当てとなるのであって、株主の財産から債権回収することはできません(株主の有限責任。会社法104条)。
 したがって、子会社と取引を行っている会社は、子会社の株主である親会社に責任追求することも、親会社の財産から回収することもできないのが原則です。
2 法人格否認の法理
 親会社と子会社は法律的には全く別の法人ですが、しかし、例えば子会社とはいえ全くの形だけのものであり、すべての経営・業務を親会社の役員・従業員が行っている場合には、親会社に責任を負わせることができないかという理論があります。
 これを法人格否認の法理といい、最高裁判例でも採用されています(最一小判昭和44年2月27日民集23巻2号511頁)。
 親子会社の裁判例では、下記のいずれかの場合には、子会社の法人格を否定し、背後にある親会社の法人格と同一視して子会社の行為による責任を直接親会社に問い得ることがあるとしたものがあります(大阪地判昭和47年3月8日判時666号87頁)。
 1  両社間にその業務内容、人的物的公正の混同、経理上の区分の不明確性、子会社の株主総会、取締役会の不開催など手続面の無視などの事実があり、子会社が独立の法人としての社会的経済的実体を欠き、全く親会社の営業の一部門にすぎないと認められるような場合
 2   子会社がこの独立性を有しているときにおいても、一人会社のように親会社が子会社の株式の全部若しくはそのほとんどを保有することなどにより、子会社をその意のままに自由に支配できる関係にあって、しかも親会社が競業避止義務など法規の禁止規定の潜脱、契約上の義務の回避をはかる等の目的で、一応法律上別会社である子会社によって右禁止行為を行わせるように、違法ないし不当な目的を達成するために子会社を利用する場合
3 名板貸人の責任
 もし子会社が親会社と同一の商号を用いて取引をしており、この同一商号を使用することを親会社が許諾していた場合には、親会社は、子会社を親会社であると誤信して取引し損害を被った債権者に対して、子会社と連帯して責任を負う場合があります。
 この場合の親会社の責任を名板貸人の責任といいます(商法14条)。
4 本件へのあてはめ
 本件では、息子独自の判断でY社の経営を行っていたということですので、X社が、何らかの法律の適用を回避するためにY社を設立して自由に支配していたといった事情はないようです。そのため、Y社が社会的経済的実体を欠いていて、X社の一部門にすぎないというべき特段の事情がない限りは、法人格否認の法理の適用は難しいでしょう。
 したがって、X社がY社に、同一の商号を使用することを許諾していたような場合でなければ、X社は、Y社の債務について責任を負わないものと考えられます。

対応策

 

予防策

 

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