法律Q&A

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破産手続の種類と効果

弁護士 菊地 健治 2000年10月:掲載
2008年11月:補正
弁護士 鈴木 みなみ 2016年 9月:補正

X社が、従業員の給与債権について仮差押えをしてきました。給与の支払いはどのようにしたらよいですか。

X社が、月給30万円の勤続10年の男性社員Aの給与債権について仮差押えをしてきました。Aから事情を確認したところ、ギャンブルで借金を抱え支払いができなくなったので、自己破産の手続き中であると言っています。給与の支払いはどうしたらよいですか。

破産手続開始決定後は仮差押えの効力が失われるため、AやAの代理人弁護士に破産の手続きの進行状況(申立ての準備をしているだけなのか、すでに破産手続開始決定が出ているのか等)等を正確に確認し、破産手続開始決定後の場合や免責決定が出ている場合にはAに給与を支払うことが可能です。

1.自己破産の手続について
 破産手続きとは、借金等の債務を自己の財産から返済することができなくなった場合に債務者(破産状態にある者)の財産を清算する手続きのことをいいます。破産手続の申立は債権者、債務者のいずれからも申し立てることができ、債務者本人が申し立てるものを自己破産といいます。
2.
 自然人(個人)の場合には支払不能の場合にのみ、法人の場合には、支払不能または債務超過の場合に破産手続きが開始されます。破産の申立があると、裁判所は、破産の申立書に記載されたような支払不能または債務超過の状態にあるかどうか債務者への審尋等を通して調査をしたうえで、支払不能または債務超過と認めた場合に破産手続開始の決定をします。
3.
 破産手続開始の決定後は、破産者の財産を金銭に換価し、これを破産者の債権者に公平に分配します。(これを配当といいます)。そして、配当が終了すると手続は終結します。
 このような破産者の財産を処分、換価し、破産者の財産を管理する者を破産管財人といい、通常は弁護士が就任します。破産管財人は、債務者の破産手続開始の決定時に就任し、債権者の債権額の調査など、債権者への配当手続全般にかかわる重要な役割を担っています。
 また、破産手続中では、破産者は居住地を離れる際には破産管財人への報告が必要になるほか、郵便物も破産管財人が管理するところとなります。

4.
 このようにして破産管財人の関与のもと、配当に向けて破産手続が進行するものの、配当が終了しても配当にあずかれなかった残りの債権は、そのままだとその後も債権として残ってしまいます。
そのため、このような債務に対する支払義務を免除する手続があり、これを免責手続といいます。

5.
 大部分の個人の自己破産は、この免責を得るために行われるものであるといえます。一方、会社等の法人の破産は、債務者の財産を債権者へ平等に配当するためになされるものといえます。
6.
 しかしながら、個人破産ではそもそも債権者への配当になるような財産を持っていない人が申し立てるケースが圧倒的に多く、そのような場合には破産管財人をつける必要はないといえます。そこで、個人である債務者は通常、破産手続開始の申立とともに免責許可の申立も行い、破産手続開始の決定をするのと同時に破産手続を終了させ、免責手続だけが残る形にする場合もあります。これを、破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定をすることから、同時廃止といいます。
 一方、破産管財人が就任する場合に、破産手続開始の決定のときと廃止の時が異なりますから、こちらを同時廃止に対して異時廃止といいます。
7.
 これまで、換価する価値のある財産(例えば不動産)を破産申立人が所有しているようなときに限って、破産管財人を選任し、配当事案にし、配当金のない場合には異時廃止にしていました。しかし、最近の東京地裁本庁では、不動産の担保設定の程度の如何を問わず破産者が不動産を所有している場合や、破産者を免責させるかどうか裁判所が第三者の調査を必要とすると判断した事案については、原則として破産管財人を選任し、管財人に破産者の資産調査や免責させるべきかの調査を行わせる実務が定着しています。同時廃止と異時廃止の相違は破産管財人が就くかどうかですが、破産申立人としては、異時廃止の場合には管財人の報酬の引当など手続を進めるに必要な額を負債に応じて予納しなければならない(東京地裁の場合は最低でも20万円。なお申立を弁護士に依頼せずに破産者本人が行うときには最低でも50万円)ところが大きな違いといえるでしょう。

対応策

1.
 社員の給料の仮差押がきたということですが、仮差押とは、金銭の支払いを目的とする裁判において、勝訴のときに本差押をして金員を回収するために、正式裁判の前に裁判の相手方の財産を仮に押さえて保全しておく手続です(民事保全法20条)。これがなされると会社は社員に対して仮差押にかかる部分の支払いをすることは許されません(仮に支払いをしても、仮差押えをしてきたに主張できませんから、二重に支払いをしなければならなくなります)。

2.
 支払いを禁じられる額は、仮差押命令書に記載されていると思いますが、通常は社員の給料の4分の3又は33万円のいずれか少ない方です(民事執行法152条)。
 Aさんの月給は30万円ということですから会社が支払いを禁じられるのは30万円の4分の3にあたる22万5千円ということになります。したがって仮差押えがあったとしても、この社員は、22万5千円について受け取ることができるため、会社は22万5千円をこの社員に支払必要があります。

3.
 仮差押の効力は、破産手続開始の決定時に失われるのですが(破産法42条)、社員の方が給料の仮差押を受けたということは不動産などの目ぼしい財産がないということでしょうから、同時廃止の手続になる可能性が高いと考えられます。旧法においては破産廃止後免責審理期間中には強制執行が可能であるとした判例がありましたが、免責制度の趣旨を没却しないよう制度が改正されました。すなわち、免責許可の申立があり、同時破産廃止決定があったときは、免責許可の申立についての裁判中に強制執行等はできず、すでになされているものは中止になり(破産法249条1項)、免責許可の決定が確定した後は、強制執行等は効力を失うことになりました(同条2項)。

4.
 したがって、社員が免責を受ければ、支払い債務がなくなるわけですから、仮差押えされている部分を社員の債権者が本差押えで回収することはできなくなります。その結果、仮差押えされている部分も社員に払うことになります。

予防策

1.
 このように誰に対して支払わなければならないかは、破産手続とりわけ同時廃止か異時廃止か、免責のときはいつかということと密接にかかわってきます。
 ですから、社員に対して手続がどの程度進行しているか、常に関心をもっておく必要があり、二重払いをしなければならない事態にならないよう注意してください。必要によっては、社員の破産申立てを行った弁護士や、破産管財人がいる場合には破産管財人とも連絡を取り、手続きの進行について確認することが望ましいです。

2.
 なお、社員が破産申立中であっても、破産手続開始の決定を受けても、破産者の権利制限は前述した居住地の制限などの限度にとどまるものであって、一般人と全く同じ生活ができますから、会社経営者としては社員が破産者である等の理由で他の社員と異なった取り扱いをすることのないよう、注意してください。

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