法律Q&A

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取引先の破産と債権回収(その2 手形の満期前遡求)

弁護士 菊地 健治
2000年10月:掲載

満期日前に振出人が破産したときの手形金の回収方法は?

約束手形の振出人甲が破産しました。甲の振り出した約束手形には乙が裏書をしていますが、満期日がまだ到来していません。甲には資産がありませんが、乙は広大な土地を持っています。どうしたらよいでしょうか。

担保があれば独自に回収を図ること。隠し財産には刑事告訴もできます。

1.
 約束手形は、手形に記載されている満期日に支払うことを振出人が「約束」した「手形」です。振出人からすれば満期日までに資金の準備をすればいいということですから支払の延期を受けたのと同じことになります。
 受取人がこのような支払いの延期に応じるのは、手形の不渡が会社にとって死活問題になる位信用に影響するからにほかなりません。その制裁があるからこそ、振出人は手形の不渡を避けるべく必死に手形決済資金を集めるのです。
2.
 約束手形の受取人は、満期日を待たずに自らの債務の支払いの手段にこの手形に裏書し、債権者に譲渡することもできます。
 しかし、手形の裏書人は、振出人が満期日に手形の決済ができなかった場合に手形の所持人からの手形金請求に応じなければなりません(これを遡求といいます。手形法77条1項4号、同43条)。つまり、裏書人は振出人の支払を保証したのとほぼ同様の責任を負うことになります。
3.
 手形の所持人とすれば、このように満期において支払不能の場合は裏書人に対して遡求ができますが、満期日以前に振出人が支払いをすることができないことが明らかな状況があれば、満期日まで手形の所持人に遡求を待たせる必要はありません。そこで手形法は、振出人の破産や支払停止(例えば手形の不渡による銀行取引停止処分)があった場合には、満期日前でも裏書人に対し遡求をすることができるものとしました(手形法77条1項4号、同43条)。これを満期前遡求といいます。
4.
 遡求の際に裏書人がすぐに現金で支払いをしてくれれば問題はありませんが、現金の持ち合わせがなく、なかなか遡求に応じてくれない場合には、訴訟を起こして、判決を得、判決に基づいて強制執行をして回収することになります。
 しかし、訴訟の最中に裏書人の財産がなくなってしまうと、せっかく得た判決も絵にかいた餅に終わってしまいます。
 このような事態にならないよう、裁判を起こす前に強制執行をする財産を仮に差し押さえ、相手方の財産の処分を禁止する手続があります。これを仮差押といい、民事保全法に詳細な規定があります。

対応策

1.
 本件では、振出人甲が満期日前に破産をしたということですから、手形の所持人は、すぐに裏書人乙に対して満期前遡求をして手形金の回収をはかることができます(手形法77条1項4号、43条2号)。

2.
 乙が支払いをしないときには、訴訟を提起しなければなりません。そして、訴訟提起の前に、乙の財産が減少しないよう乙の財産(本件では乙の土地)の仮差押を行っておくべきでしょう。仮差押の決定においては、原則として供託しなければならない保証金が明示されます(民事保全法14条)。この保証金は、訴訟が終了したとき、あるいは相手方が取り戻しに同意したとき等に供託所から返還されます。不動産の仮差押の場合の保証金ですが、請求する債権額か不動産の時価の20ないし25%程度を考えておけばよいと思います。

予防策

 振出人からの支払いが受けられないときには、このように裏書人に対する遡求によって回収することができますが、遡求に応じない裏書人だと回収にとても時間と費用がかかることになります。
 このようなことにならないようにするには、約束手形を譲り受けるときに注意をする必要があるかと思います。例えば、振出から満期日までの期間が通常もらう手形より長いものは、振出人の資金繰りがそれだけ苦しいということ(約束手形は満期日まで支払いを待ってくれということ)ですから、そういう手形をもらい受ける際には注意をすべきでしょう。
 また裏書の数が多い手形も、それだけ遡求に応じてくれる人が多いとも言えますが、振出人の支払能力に問題があるために、他人への支払に回した手形とも言えるので注意をしておく必要があるでしょう。
 なお、遡求は手形の裏書が連続していることが前提ですから、手形を取得する際には必ず裏書の連続に注意してください。

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