法律Q&A

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取引先の任意整理と債権回収

弁護士 菊地 健治
2000年10月:掲載

取引先が任意整理を始めた場合の対処方法について教えてください。

当社の取引先のY社が手形の不渡を出したところ、債権者集会を開催するとの通知がきました。当社はY社に1000万円位の債権をもっております。私はY社はどうも計画倒産であり、資産を隠しているのではないかと考えております。どのように対処したらよいのでしょうか。

債務者集会に出席して情報収集をします。委任状の提出には慎重な判断を。

1.
 Y社から債権者集会の通知があったということですが、これは、任意整理手続(裁判所による法的な手続によらない倒産処理方法を指します)で倒産処理をすることを意味します。
2.
 任意整理手続は法律に定めがなく、手続の進行方法は同じものがないという位に多種多様ですが、通常は以下のような流れで進みます。
 まず、本件のように通知が債権者宛に届けられます。これには債権者集会の日程などの知らせが入っています。また、債権調査のための債権届出書が同封されていることもあります。債権の届け出によって債権額が把握できないと債務者(倒産会社側)も、整理手続を進行させることができませんから、早めに債権の内容を証明する証拠(契約書、請求書など)の写しを添付の上、債権届出書を提出するとよいと思います。
 そして債権者集会が開かれます。債権者集会では債務者側代表者や代理人弁護士から会社の倒産に至る経過などの報告があります。この席上で債務の集団的な画一的な処理や権利の統一的な行使による債権回収を図るために債権者委員会が組織され、そのまとめ役ともいえる債権者委員長が選出されます。委員長は債権者の中から選出されます。また、債権者の足並みが揃わないときには債権者委員会が組織されないことがあります。
 そして債権者委員会によって整理の方針が決定されますが、決定に際しては、債権者集会によって債権者の賛成を得ているか、あるいは債権者委員長に処理方針を一任しているかどうかなど、他の債権者の意向を確認しながら行われます。
 債権者委員長は、債務者の代理(代理かどうかは厳密には法律的に問題がありますが、代理という言葉を用いることにします)として、債務者の財産の換価、処分そして保全、管理し、一方で債権者がより高い配当にあずかれるように債務者の財産が散逸するのを防止するという二面的な役割を担います。
 そして、配当資源をある程度確保できたところで中間配当、そして最終配当を行って任意整理は終了します。最終段階の配当を受けるときには、配当金を受けるのと引換えに残債を放棄するという書面を差し入れます(これにより債務者の配当を受ける債権者に対する残債務がなくなるわけです)。

対応策

1.
 債権者集会に臨むべきか、欠席するかは各債権者の自由です。ただし、債務者の倒産に関する情報が少ない時は積極的に参加して情報収集に努めるべきであろうと思います。債権者集会に参加するだけでは何ら債権者委員会に拘束されることはありません。
 特に企業の倒産のときには、どの債権者も、他の債権者よりもより速く、より多額の債権回収をしようと躍起になっています。情報において遅れをとることは、それだけ債権回収が遅れることにもなりかねませんから、集会への出欠はその点を十分考慮して下さい。

2.
 債権者委員会は、全く任意の制度でありますから個別の債権者の権利行使を制限するものではなく、集会の出欠にかかわらず、各債権者が個別に債権回収手段を講ずることは可能です。
 一方債権者集会の席などで、債権者委員長に処理を一任するという内容の委任状の提出を求められることもあります。 委任状を提出したときには、以降は個別に権利行使をして債権回収を図りますと、債権者委員会に対する債務不履行を構成します。
 したがって、債権者委員長に委任状を提出した場合には個別に回収はできなくなります。
 このように、個別回収を図るか、債権者委員会に一任するかの判断は、あなたの会社が十分な担保をとっているとか、他の債権者の知らない債務者の財産を知っているとかなどで個別の権利行使で回収の見込みがあるかどうか、債権者委員長が債権者全員のために公平に手続を行う人物であるかなどの委員長の人望などから判断するのがよいと思います。

3.
 本件では、債務者が隠し財産を持っているとの疑いをあなたが持っているようですから、債権者委員会とは別に発見できて、そこから回収が図れるかどうかが個別回収を図るかどうかの見分けのポイントになると思います。

4.
 なお、個別に債権を回収する場合には、倒産した会社やその代表者から任意に弁済や財産の提供を受けたりすると、他の債権者を害する行為として債権者委員会から詐害行為として取り消されるおそれがありますから(民法424条)、十分注意してください。
 任意の提供ではなく、訴訟を提起して、判決を得て、それに基づいて強制執行をすることで回収を図る方が良いでしょう。

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