法律Q&A

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企業秘密の漏洩

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

従業員が、競業他社に重要機密を漏洩した場合はどうなりますか。

 甲社の企画部長Aは、甲社の製品企画の責任者として社内の重要機密を管理する立場であることを奇貨として、競業他社数社の製品企画担当者に対して、来年度に発売する予定になっている甲社の新製品に関する情報を流してその対価を競業他社から得ていたようです。具体的にどのような形でAが甲社の企業秘密を漏洩していたかは現在調査中ですが、Aの刑事責任はどうなりますか。
 今後の対応策も教えてください。

窃盗・業務上横領・背任罪の成立が考えられ、対内的には「情報管理規定」の整備に努めるべきです。

1.企業秘密と刑事責任
 会社の部課長ともなると会社の企業秘密・ノウハウ等を管理している場合が多いでしょう。この様な場合に、これらの部課長が上司に対する恨みや自己の金銭欲に負け企業秘密を持ち出したり他社に売り渡したりした場合の刑事責任は、次のようになっています。

(1)業務上横領罪(懲役10年以下)
 部課長が占有・保管している書類や図面を持ち出した場合には、業務上占有する他人のものを横領したことになります(刑法253条)。

(2)窃盗罪(懲役10年以下)
 部課長が占有・保管していない書類や図面を持ち出した場合には、他人の財物を窃取したということになります(同法235条)。

(3)背任罪(懲役5年以下、又は50万円以下の罰金)
 書類や図面以外の企業秘密を持ち出した場合、例えば、その場で写真撮影したりメモして持ち出した場合などについては、それを犯した部課長が秘密の保管義務のある責任者の場合であれば、他人のために事務を処理する者が自己もしくは第三者の利益を図り、または本人(会社)に損害を加える目的でその任務に違背する行為をして本人(会社)に財産上の損害を与えたということになります(同法247条)。

 しかしながら、秘密の保管責任者以外の者が犯したばあいには背任罪にもあたらず、刑事処罰は出来ません。この様な行為態様では、「財物」を横領あるいは窃取したとは言えないのであり、「電気窃盗」(同法245条)のような規定を設けない限り、現行刑法上での処罰は困難です。
 刑法改正草案の中では、「企業の役員又は従業員が、正当な理由が無いのに、その企業の生産方法その他の技術に関する秘密を第3者に漏らした時は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」という内容の規定を設けようとしていますが、消費者運動や公害反対運動、更には、企業に関する取材や報道の自由が制限される恐れがあることなどを理由として反対意見の強いところです。

2.会社のとるべき対策
 企業秘密の対象となる情報やノウハウや技術などは、社内の各部門の就労者がそれらを利用して物を生産・販売し、サービスを供給して事業活動を行っているので、秘密だからといって社内的に非公開では事業活動が出来ません。有用な秘密も特定少数の人にはこれを知らせたり、活用してもらわなければなりません。そこで、企業秘密が対外的に漏れないよう自己防衛の為の社内管理規定の整備が不可欠となります。
3.管理規定整備の留意点
(1)企業秘密を利用させながら確実にそれがもれない防止規程
→利用と漏洩防止の止めには、企業秘密対象情報やノウハウ、技術などを特定し、保管・管理の万全をはかり、利用する者の特定や限定の必要性があります。保管方法については、対象となる企業秘密によって様々であり、特に最近では秘密情報がフロッピーディスク1枚に入ってしまう時代ですから、これの保管にはとりわけ注意が必要でしょう。

(2)企業秘密を利用して職務を遂行していた就労者が転職や退職した以後の漏洩を防止する規程
→退社後の企業秘密に関する守秘義務を退職後一定期間義務づけた上(職業選択の自由に反しない程度に)で他方、現に在職する就労者には、社外秘の徹底、保管責任者の特定、社外公表者に対する罰則規定などを設ける必要があります。

(3)社外からの企業秘密侵害対策
→侵害の実態の把握の為の調査と弁護士との相談で使用差止め請求や損害賠償請求の可否を検討することになります。

対応策

とりあえずは、Aの漏洩の行為態様を早急に調査した上で、甲社の被ったあるいは被る可能性のある損害額やAの甲社における地位やこれまでの甲社における貢献度等を総合考慮した上で、懲戒処分を選択しましょう。もし、極刑である懲戒解雇を妥当と判断したのであれば、Aに対する損害賠償請求を考慮すべきですし、Aの行為態様によっては刑事告訴も可能でしょう。

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