法律Q&A

分類:

役員・従業員の収賄

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

役員又は従業員が、その職務遂行にあたり取引先からリベートを受け取った場合は?

甲社の総務部に属する社員Aは、普段から会社の用度関係の業務に従事しておりますが、品物の仕入れ業者から時々リベートとして現金をもらっている事実が判 明しました。甲社とすれば、どのような対応を取るべきですか。もし、本設問のAが総務部の部長で取締役を兼務していた場合はどうでしょうか。

Aが社員の場合犯罪の成立は否定され、取締役の場合でも会社法967条以外には難しそうです。どちらにせよ社内における懲戒処分という形での対応で十分な事案でしょう。

1.問題の所在
 会社や業者から品物などを購入するにあたって、会社の経理や用度関係などの担当職員が品物を納入する業者からリベートやコミッションをもらうことがよくあります。要するに、賄賂の授受ともみられますが、会社の一般従業員は、公務員でなく、特別法によって賄賂罪を罰する規定がない以上、刑法の贈収賄の罪で罰せられる事はありません。ただし、株式会社や有限会社の取締役・監査役・支配人・事業に関するあらゆる種類又は、特定の事項の委任を受けた使用人(部・課長など)が、その職務権限に属することに関して、不正の請託を受けて財産上の利益を収受し、要求し、約束したときは、5年以下の懲役または500万円以下の罰金で処罰されることになっております(会社法967条)。
2.不正の請託とは
 不正の請託とは、依頼を受けた者がもつ権限事項に関して、違法もしくははなはだしく不当な行為を行ない、または当然なすべきことを行なわないことを依頼することです。たとえば、納入価格を市価に比べて著しく高価にさせることを依頼されて、そのとおりにした場合などが、これに当たります。しかし、不正の請託がなかったり、あるいは自己の権限に属さない事項を他人に斡旋して、リベートやコミッションをもらったりした場合には、この罪にはなりません。また、不正の請託は、その認識が必要とされています。したがって、贈賄者側に不正行為依頼の意思がなければならず、その意思がないのに、収賄者側が不正行為依頼と了解したとしても、不正の請託を受けたことになりません。このように不正の請託の立証が困難なため適用される例はあまりありません。
 更に、従業員がリベートやコミッションを受け取った分は、本来、会社のために値引きできたものですから、リベートやコミッションを受け取った会社の従業員は、会社に対して悪いことをしたと評価できます。従って、この様なことをする者は処罰すべきだとして、会社のために誠実に職務を行うべき任務に違背し、私欲のためリベート分だけ会社に損害を与えたという理屈で背任罪の成立を肯定することも理論的には可能です。もっとも、リベートやコミッションの額がそれほど多額でなく、また、とくに市価に比べて著しく高価なものを会社に買わせたとか、リベートやコミッションを受け取らなければ業者が当然値引きしたという事情が認められない場合は、リベートやコミッション分だけ会社に損害を与えたとは言い難いので、背任罪として処罰することはなかなか難しいとされています。なお、この場合、刑事事件として処罰されなくても、会社の服務規律違反としての社内での懲戒処分等が可能なことはいうまでもありません。

対応策

まず、Aが社員の場合は、犯罪は成立しそうにありません。Aが総務部の部長で取締役を兼務していた場合は、会社法967条での処罰以外には、せいぜい背任罪の成立の可能性が残るくらいです。ただ、解説で述べたように社内の場合にはリベートの額も小さいのが通常でしょうし、不正の請託も立証が困難なので、甲社としては、刑事事件として対応するよりも社内における懲戒処分という形でのAへの対応を考えるべきでしょう。なお、Aが取締役の場合には、任務懈怠に基づく損害賠償責任を追及できる場合もあります(会社法423条)。

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