法律Q&A

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E-MAILへのモニタリング

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月:補正掲載

企業のコンピュータ・ネットワークを私的に利用している従業員に対して、機密漏洩等の違法行為の抑制や懲戒処分の調査のため、モニタリングができるでしょうか?

A社では、IT(情報技術)化に対応するため、社内LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)で接続されたパソコン(PC)を全従業員に使用させています。勿論、PCはインターネットに接続され、業務のためのE-Mailやホーム・ページの利用も推奨されていました。ところが、最近通信費とサーバーへの情報蓄積量の異常な増加に気づき調査したところ、従業員Bらが、就業時間中や、休憩時間中に、PCを合コンサークルの連絡などの私的通信や、アダルト・サイトの閲覧や画像のダウンロードに使用していることが判明しました。更に、そのような不正利用は、企業秘密の漏洩の温床にもなりかねないところからBらに対して、違法行為の抑制や懲戒処分の調査のため、モニタリングができるでしょうか?その場合には、どのような点に注意したら良いでしょうか?

ネット利用とモニタリングに関する規定があればそれにより、少なくとも、一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止や機密漏洩禁止規定に等に基づき、十分な警告・告知の上で、それらの違反に関する合理的な疑いがある場合には、許されると解されます。ただし、調査目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮した上で、モニタリングを行なうことが望まれます。

1.企業内コンピュータ・ネットワーク化の急速な進展・普及に伴う諸問題
 前述の通り(2実務編Q8参照)、質問のようなネットの私的利用等の人事管理上等の様々なトラブルが多発し、これらに対応するため、さらには、最近では、の個人情報保護法上の個人情報や不正競争防止法上の営業秘密の保護態勢の整備の一環としてもルール作りの必要性の指摘がなされています(以下につき、拙著「実務労働法講義」改訂増補版上巻399頁以下参照)。
2.モニタリングと労働者個人情報保護との関係
  他方で、社内ネットの不正私的利用の監視のためのモニタリングは従業員のプライバシーへの侵害との批難を招く虞があります。
3.モニタリングが許される場合は-裁判例の立場
 米国でも、一時期は、社内ネットへのモニタリングに関して、プライバシー侵害の成否が問題とされていましたが(この点に関しては、山田省三「職場における労働者のプライヴァシー保護」学会労働法78号53頁)、最近では、前述のように、ネット化の普及とその私的私用等の濫用が進むにつれ、一定の合理性を要件としながらも、会社設備のPCへのモニタリングについては許容する方向に向かっているようです。
 我国においても、いずれもモニタリング規定や事前の警告なしになされたE-Mailのモニタリングが適法とされた裁判例が現れましたが、ここでも同様の方向が示されています。
先ず、セクハラに絡んだ調査の過程で、異常な私的利用が発覚した事案で、F社Z事業部事件(東京地判平13.12.3 労判826号76頁)は、先ず、プライバシー侵害について、前提として、「会社のネットワークシステムを用いた電子メールの私的使用に関する問題は、通常の電話装置におけるいわゆる私用電話の制限の問題とほぼ同様に考えることができる。すなわち、勤労者として社会生活を送る以上、日常の社会生活を営む上で通常必要な外部との連絡の着信先として会社の電話装置を用いることが許容されるのはもちろんのこと、さらに、会社における職務の遂行の妨げとならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、これらの外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、会社の電子装置を発信に用いることも社会通念上許容されていると解するべきであり、このことは、会社のネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信に関しても基本的に妥当するというべきで‥社員の電子メールの私的使用が前記‥の範囲に止まるものである限り、その社員に一切のプライバシー権がないとはいえない」として電子メールに関してもプライバシー保護が及ぶ旨の一般論を述べた上で、「通信内容等が社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に記録されるものであること、社内ネットワークシステムには当該会社の管理者が存在し、ネットワーク全体を適宜監視しながら保守を行なっているのが通常であることに照らすと、利用者において、通常の電話装置の場合とまったく同程度のプライバシー保護を期待することはできず、当該システムの具体的状況に応じた合理的な範囲での保護を期待し得るに止まる。」として電子メールに関する保護の限界を指摘しています。その上で、電子メール閲読行為の相当性について、「X1らによる社内ネットワークを用いた電子メールの私的利用の程度は、...限度を越えているといわざるを得ず、Yによる電子メールの監視をいう事態を招いたことについてのX1側の責任、結果として監視された電子メールの内容およびすでに判示した本件におけるすべての事実経過を総合考慮すると、Yによる監視行為が社会通念上相当な範囲を逸脱したものであったとまではいえない。」としています。
 続いて現れた、社内の誹謗中傷E-Mailへの調査の過程で発覚したE-Mailの濫用的私的利用に関するモニタリングが適法とされた日経クイック情報事件(東京地判平14.2.26労判825号50頁)では、「企業秩序に違反する行為があった場合に、違反行為の内容等を明らかにし、乱された秩序回復に必要な業務上の指示、命令を発し、または違反者に対し制裁としての懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができるが、その調査や命令は、企業の円滑な運営上必要か都合理的なものであること、方法、態様が労働者の人格や自由に対する行き過ぎた支配や拘束ではないことを要し、調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限度を超えていると認められる場合には労働者の精神的自由を侵害した違法な行為として不法行為を構成することがある」との一般論を述べた上で、「社内における誹謗中傷メールの送信という企業秩序違反事件の調査を目的とし、その送信者であると疑われる合理的理由がある以上、原告労働者に対して事情聴取を行う必要性と合理性が認められる」とし、「その結果、Xが誹謗中傷メールの送信者であるとの疑いを拭い去ることができなかったのであるから、更に調査をする必要があり、事件が社内でメールを使用して行なわれたことからすると、その犯人の特定につながる情報がXのメールファイルに書かれている可能性があり、その内容を点検する必要があった」こと、「私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することによりその間職務専念義務に違反し、私用で会社の施設を使用する企業秩序違反行為になるばかりか、私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害し、受信者が送信者からの返信メールの求めに応じてメールを作成・送信すれば、そのことにより受信者に職務専念義務違反と私用企業施設使用の企業秩序違反を行わせることになる」こと、「多量の業務外の私用メールの存在が明らかになった以上、新たに...調査する必要が生じ...、業務外の私用メールであるか否かは、その題名から的確に判断することはできず、その内容から判断する必要がある」こと等からモニタリングの必要性を認めます。その上で、「Xのメールファイルの点検は、事情聴取によりが送信者である疑いを拭い去ることができず、また、Xの多量の業務外の私用メールの存在が明らかになった以上行う必要があるとし、その内容は業務に必要な情報を保存する目的で会社が所有し管理するファイルサーバー上のデータ調査であることから、社会的に許容しうる限界を超えてXの精神的自由を侵害した違法な行為とはいえない」としました。モニタリングの事前告知のなかったことに関しても、「事前の告知による調査への影響を考慮せざるを得ないことからすると、不当なこととはいえない。」などとしたものです。
 つまり、これらの裁判例はいずれも、E-Mailに関する規定等がなかった事案であるところから、E-Mailの特殊性と、労働者によるE-Mailの私的濫用が判断の大きな要素になっているものと解されます。
 そこで、これらの裁判例を踏まえますと、ネットの私的利用は、それに関する規定があればそれにより、なくとも一般的な就業規則中の企業施設の私的利用禁止規定に基づき、休憩時間中であっても同禁止違反として、就業時間中であれば、それに業務懈怠が加わり、いずれにせよ懲戒処分の対象になり得る行為ですので(ただし、最近の東京地裁八王子支判平成15.9.19労判859号87頁 リンクシードシステム事件では、勤務時間中に会社のコンピュータ、電話回線を利用した株取引につき、超解雇は無効とした。ただし、普通解雇事由には当たる旨付言しています)、特に、その私的利用が濫用に亘るような頻発した場合や、セクハラへの利用や、従業員や企業への誹謗中傷に使用されている合理的疑いがある場合等には(東京地判平成16.9.13労経速1882号14頁 労働政策研究・研修機構事件でも、週刊誌に掲載された勤務先に対する批判的な内容を含む記事への関与が疑われていた原告の使用するパソコンに関する調査は、調査目的が正当である上、調査態様も妥当であり、原告の被る不利益は大きくないから、プライバシーの侵害に当たらないとされています)、モニタリングはこれらの規定の実効性を保つため、違反の有無に関する必要な調査として合理性があり、適法とされると解されます。
4.労働者の個人情報保護に関する行動指針とその解説への留意の必要
 労働者の個人情報保護に関する行動指針とその解説への留意の必要 しかし、余計な紛争を回避するためにはネット管理規程の整備が望ましいでしょう。その際には、労働者の個人情報保護に関する行動指針(H12.12.20労働省。以下、行動指針)とその解説(H12.12.20労働省。以下、解説という)に留意して作成するころが望まれます。解説も、「行動指針は、民間企業等が労働者の個人情報の保護を図る上で必要となる社内規程等を整備する際のよりどころとして活用されることを通じて、各企業等において個人情報保護のため自主的な取組みが促進されることを期待するものである。」と指摘しています。
 そして、E-Mailのモニタリングについても、行動指針は、その第2の6の(4)で、「使用者は、職場において、労働者に関しビデオカメラ、コンピュータ等によりモニタリング(以下「ビデオ等によるモニタリング」という。)を行う場合には、労働者に対し、実施理由、実施時間帯、収集される情報内容等を事前に通知するとともに、個人情報の保護に関する権利を侵害しないよう配慮するものとする。ただし、次に掲げる場合にはこの限りでない。/(イ)法令に定めがある場合/(ロ)犯罪その他の重要な不正行為があるとするに足りる相当の理由があると認められる場合」との原則を示した上で、その(5)で、「職場において、労働者に対して常時...モニタリングを行うことは、労働者の健康及び安全の確保又は業務上の財産の保全に必要な場合に限り認められるものとする」として、これにつき、解説は「最近話題になることが多い電子メールやインターネットの接続状況のモニタリングについては、私用の防止や企業等の機密情報の漏洩による損害防止、企業内の情報システムの安全確保等の目的で行われるものについては、『業務上の財産の保全』のために行われるものに当たると考えられる。/電子メール等のモニタリングのあり方については、なお今後の議論に待つところもあるが、その実施に当たっては、電子メール等の利用規則にその旨を明示すること等により、あらかじめその概要を労働者に知らせた上で行うことが適当と考えられる。具体的な運用に当たっては、例えば、電子メールのモニタリングでは原則として送受信記録あるいはこれにメールの件名を加えた範囲について行うこととし、必要やむを得ない場合を除いてはメールの内容にまでは立ち入らないようにするなど、あくまでも目的の達成に必要不可欠な範囲内で行い労働者等の権利利益を侵害しないよう十分配慮することが望ましい。」と指摘しています。
 なお、モニタリングの実施は、他方で、社内ネット利用のセクハラ等の人格権侵害などに対しての企業の責任(使用者責任による損害賠償責任等)を招き易いため、ネット利用上の規制がより必要となります。

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