法律Q&A

分類:

採用内定・試用

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2014年10月:掲載

採用内定・試用社員にした従業員が使いものにならないことが分ったら?

 【1】採用内定通知を出した学生Aが、その後の健康診断や、採用前の研修会で採用試験や面接の時にはみせなかった粗暴な態度をみせるようになりました。また、【2】この学生Aを採用内定してみたものの、内定したときには予想もできなかった不況の深刻化で会社の人員計画は大幅に変更せざるを得ず、中高年の管理職にも辞めてもらわなければならない事態になってしまいました。このような事態になってもこのような学生を採用する必要があるのでしょうか。
 【3】従業員Bは、内定後にA学生のような問題点は見当たらず、入社の時期を迎え、試用社員となりましたが、社内に入ってみると、どうもコミュニケーションスキルに欠け、会社内の雰囲気・社風に溶け込もうとしません。また、Bは採用時に行った教科書的なペーパーテストは得意であったようですが、実務的な知識の応用力には欠けているようで、勤務成績が悪く、戦力としてはいま一つで困ってしまいます。
 いずれも会社としては正社員になっている訳ではないですから、内定取消しや、本採用拒否をして辞めてもらいたいのですが、簡単に解決できるのでしょうか。

正社員の場合ほどでないにしても、相当高度に「使いものにならない」ことが客観的かつ明白でないとやめさせられません。

1.就職協定廃止の影響
 就職協定が平成9年度から廃止となり、会社説明会などの採用活動の前倒しは相当に進み、平成23年1月12日には一般社団法人日本経済団体連合会から、「新卒者の採用選考の在り方について」が示され、やや抑制されたとはいえ、依然として内定の早期化傾向は続いています。そうすると、内定(内々定)時と実際の入社時の間隔が開いてきますので、企業からの採用拒否としての内定取消しが増えることが考えられます。
 ここではあわせて、試用期間についても説明しておきます。
2.合理的理由があれば可能
 結論としては、設問のような場合には、採用内定・試用社員のいずれも合理的な理由があれば辞めてもらうことは可能ということになります。しかも、その合理性の程度は、正社員に比較すれば弱いものでもよいということになっています(試用社員に関する三菱樹脂事件・最大判昭和48・12・12民集27巻11号1536頁)。言葉を変えれば採用内定・試用社員については、正社員よりは簡単に辞めてもらえるということになります。
 しかし、そこで求められている合理性の内容はそれほど簡単なものではありません。設問のようなケースではかなり微妙な問題となります。
3.採用内定とは
 まず、「正社員になっているわけではない」採用内定や試用社員という身分が法的にはどのような状態なのかを確認しておく必要があります。「判例」といわれる今の裁判所の判断や、多数学説の理解に従って説明してみましょう。採用の順序に従って卒業予定者の「採用内定」からみてみますと、内定とは、会社からの採用内定の通知がA学生のところに届いた時点で会社とA学生との間に「一定の条件付き」の労働契約がすでに成立している状態と考えられています。契約が成立している以上、「一定の条件付き」の範囲による場合は別として、何らの理由なく一方的な内定の取消しはできないことになります。そこで、この「一定の条件付き」の内容が問題となりますが、それは、「就労または労働契約の効力の発生始期付きで解約権留保付き」であるとされています(大日本印刷事件・最二小判昭和54・7・20民集33巻5号582貢、電電公社近畿電通局事件・最二小判昭和55・5・30民集34巻3号464頁)。つまり、大学や高校を卒業して働き始める時期である4月1日を「就労または労働契約の効力の発生の始期」として、それまでに卒業できなかった場合や病気、けがなどにより正常な勤務ができなくなった場合に「解約できることを条件としている」労働契約が成立したものとする考えです。ただし、合意されていればどんな解約権でも認められるのではなく、「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています。
 具体的には、設問のような場合や、本人が学生時代に暴力的な刑事事件で逮捕されていたような場合以外は、内定取消しは簡単には認められず、内定者がグルーミー(陰鬱)な印象で困るといった程度では認められません(前掲・大日本印刷事件・最二小判昭和54・7・20)。近時の例として、ヘッドハンティングによりマネジャー職にスカウトした労働者に対する同職の廃止を理由とする内定取消しを、信義則に反し、社会通念上相当な理由なく、整理解雇の4要素に照らしても無効とした事例も出ています(インフォミックス事件・東京地決平成9・10・31労半貯26号37貢)。
4.試用社員とは
 次に、試用社員とは、会社が試用期間中の従業員の身元調査の補充や、その期間中の勤務状態の観察により、会社の職務についての適格性を判断し、それらにより適性がないとされる場合には、本採用拒否ができるという解約権が付いた労働契約であるとされています(前掲・三菱樹脂事件・最大判昭和48・12・12)。しかし、その解約権の具体的内容について、裁判所は、内定の場合と同様に「客観的に合理的な理由」の存在を求め、試用社員がすでに会社内にいったん入っている関係もあり、正社員に対してよりは緩やかとしても(語学力などの点でAランク職員としての適格性なしとして、本採用拒否が有効とされたEC委員会(1審)事件・東京高判昭和58・12・14労民34巻5・6号922貢)、内定の場合よりは厳しく判断する傾向にあります。実際には本採用前の暴力的事件への関与の発覚や欠勤、遅刻等の勤務不良の程度が平均的な労働者より悪く改善の可能性が少ない場合(小人数の会社の営業担当者として、協調性に欠けた言動等から対人折衝能力を求められる営業職としての適性を欠くなどを理由として本採用取消し、試用期間中の解雇が有効とされた事例として、サンホーム事件・東京地判平成12・4・14労判789号79頁)や、会社の業況の悪化等の理由が必要でしょう(前述のとおり、内定取消しの場合においてすら、整理解雇の4要素に照らしても無効とした事例として前掲・インフォミックス事件・東京地決平成9・10・31が現れています)。

対応策

 以上に解説したことを踏まえて、設問1の場合は、「粗暴な態度」の程度によることになります。多少の学生用語の乱発程度では入社後に研修等で改善の余地ありとされかねません。しかし、それが暴力的様相を帯びていれば取消し可能とされるでしょう。前者の場合の一つの対策として、入社前研修の反復によりその改善の可能性を探る方法があります。これにより後者の暴力的な様相に進むかもしれないし、特に幹部候補の内定者の場合については、そこで改善の余地のないことを固めてから取消しに踏み切れば取消しの認められる可能性はあるのではないかと考えられます。
 今日、依然として景気の低迷が続く中で、前述した就職協定の廃止もあり、内定取消しがますます問題となってくると考えられますが、法的には、設問2のような場合には、正社員ですらいわゆる雇用調整の対象となっている状況であるとの前提に立てば、取消しの合理的理由があるとされるでしょう(ただし、この場合でも前掲・インフォミックス事件・東京地決平成9・10・31のとおりそう簡単ではない)。ただし、内定取消しを行った企業の公共職業安定所の求人票への明記や公共職業安定所への事前通知などの行政上の措置はあり得ます。
 次に試用社員に対する【3】の場合のうち、性格的な問題については上記で説明した内定の場合の事件ですら認められなかった以上(前掲・大日本印刷事件・最二小判昭和54・7・20)、この程度では本採用拒否は困難でしょう。勤務成績不良については、平均をはるかに下回ることが明らかでもない限り、会社内での人材育成の問題とされかねません。対処としては、試用期間中での一定の資格取得や会社で求められている能力を客観的に数値化すること、少なくとも本採用前の登用試験などの実施があり得ます。

予防策

これらの問題を避けるためには、何といっても採用段階の選別を厳しくするのが第一です。次善の策としては、内定契約の内容を明確にして、その中で、内定段階での選別の機会を多く得られるように、内定における解約権を合理的な範囲でできる限り広げ、入社の前に、学生の勉学に影響のないように配慮しつつ研修等の機会を多くつくったり、一定の公的乃至権威ある民間資格の取得やレポート提出を義務づけることでしょう。試用社員の場合も同様に、上記でも触れたとおり本採用前に客観的な基準で選別が可能なような資格制度、登用試験等の仕掛けをつくっておくことでしょう。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら