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経歴詐称

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2014年9月:掲載

採用した従業員の履歴書記載の学歴に嘘があったり、前科があることが分ったら?

A工務店が去年「高卒」の募集条件で大工として採用したBについて、最近になり、採用の際、提出した履歴書の記載が嘘だらけで、真実は大学卒で、前職も別の会社であり、しかもそこで横領を理由にして懲戒解雇・告訴され、執行猶予付きとはいえ前科があることがわかりました。こんな社員をおいておく訳にはいかないので辞めさせたいのですが、その場合には、どんな理由により、どんな手続でどうしたら良いのでしょうか。

解雇理由や懲戒解雇理由に、経歴詐称が明記されていれば、重要な事項の嘘の場合にはやめさせることもできます。手続としては、労基法21条に従い解雇予告および解雇予告手当が必要です。

1.重要な経歴の詐称は解雇理由として認められる
 採用時に提出された履歴書の記載や採用面接への応答に虚偽があり(これを、「経歴詐称」といいます)、それが重要な経歴に関する場合には、その会社に就業規則があり、その懲戒に関する規定の中に経歴詐称が懲戒解雇理由としてあげられていれば、懲戒解雇が、また、そのような規定がなければ、一般的な解雇(これを、「普通解雇」といいます)が可能でしょう。
 裁判所の多くは、「重要な経歴」に限定していますが、学歴や犯罪暦などに関する経歴詐称を懲戒解雇理由として認めています(炭研精工事件・最一小判平成3・9・19労判615号16頁)。一つには、従業員が会社を騙したという不正行為があったことが会社と従業員との間の信頼関係を壊してしまということが根拠とされます。さらに、わが国の多くの企業では、従業員の配置、賃金などの人事管理体制が、特に学歴や、中途採用者については職歴などを大きな要素としているのに、その秩序を経歴詐称により乱されることが指摘されています(スーパーバッグ事件・東京地判昭和55・2・15労判335号23頁)。そこで、学歴を高く偽った場合だけでなく、大卒なのに高卒という場合のように低く偽った場合にも問題とされることになります(日本鋼管事件・東京高判昭和56・11・25労判377号30頁)。
2.「重要な経歴詐称」かどうか
 「重要な経歴詐称」かどうかについては、一般的には、職歴(ただし、細かな部署までは問えないでしょう)や学歴、犯罪歴はこれにあたりますが、それ以外の記載事項については微妙なところもあります。資格でも業務と直接関係のない資格について虚偽があったような場合には、解雇までは難しいでしょう。また、会社が学歴や職歴に応じた人事管理体制をとっていない場合や、とっていても採用にあたりそのような条件を明示せず、学歴に関し質問しなかった場合も同様です(西日本アルミ工業事件・福岡高判昭和55・1・17労判334号12頁)。
3.採用面接での経歴に関する申告について
 採用面接での経歴に関する申告について、裁判所の中には、犯罪歴については、その前科が労働力の評価に重大な影響を及ぼすような特別な場合を除いて、会社が質問してこれに正しく答えなかった場合しか懲戒解雇にはできないという見解を示すものもあり、注意が必要です(マルヤタクシー事件・仙台地判昭和60・9・19労判459号40頁)。ここでの特別の場合としては、たとえば、宅地建物取引主任者のように一定の前科のあることが欠格要件となっている公的資格を取得することが採用の条件となっている場合がまず想定されます。さらに、経理部門の採用にあたって業務上横領や背任の前科がある人や、たとえば役員付きの運転手の採用にあたり交通事件の前科が多い人などを採用するわけにはいかないでしょうから、このような担当業務と前科内容の関係も問題となるでしょう。
 なお、裁判所は、犯歴に関係して、世間感覚よりは、経歴詐称への該当性を制限的に見る傾向があることにも留意してください(社会的には、刑事罰を受けた前科と嫌疑を受け逮捕・勾留され起訴猶予で不起訴となったような前歴を含むでしょうが、炭研精工事件・最一小判平成3・9・19前掲は、「履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは,一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべきであり」、公判係属中の事件はこれに含まれないとし、「履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般に確定した有罪判決を意味するから,使用者から格別の言及がない限り同欄に起訴猶予事案等の犯罪歴<いわゆる「前歴」>まで記載すべき義務はな」く,刑の消滅<刑法34条の2参照>した前科についても,「その存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼさざるを得ないといった特段の事情のない限りは,労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないという見解を示すマルヤタクシー事件・仙台地判昭和60・9・19前掲もあります)。
4.採用後の時間の経過の影響は
 他方、経歴詐称したまま採用した従業員が大過なく数年間にわたり勤務したような場合についても、その責任を認める裁判所もあります(神戸製鋼所事件・大阪高判昭和32・8・29労民8巻4号413貢)。しかし、この考え方については反対の判例・学説も多く、その従業員の勤務期間が長期にわたるような場合には微妙となるでしょう。たとえば、6年間の経過により会社に順応したとして解雇を認めなかった裁判例や(東光電気事件・東京地決昭30・3・31労民6巻2号164頁)、経歴詐称があったものの会社としては試用期間を経てともかく採用することができると考えて当該従業員を採用したのであるから、当該従業員の詐欺によって会社は重要な部分の錯誤に陥っていないとして、契約を取り消すべき詐欺にも要素の錯誤にも当たらないとした例もあります(第一化成事件・東京地判平成20・6・10労判972号51頁)。

対応策

A工務店は、「高卒まで」の募集条件を明示して採用していましたし、前科の内容も前の職場での横領事件であって職業人としての適格性・信頼性を疑わせるに十分と考えられ、その職場で懲戒解雇までされていることなどを総合すれば、Bには判例がいう「重要な経歴についての経歴詐称」があったことは明らかなようです。この程度の重大な詐称については、わずか1年程度の勤務によって、Bの責任が消えることは判例のうえからもないと考えてよいでしょう。そうすると、前に述べたとおり、A工務店に従業員に掲示等で周知している就業規則があり、その懲戒に関する規定の中に経歴詐称が懲戒解雇理由としてあげられていれば懲戒解雇が、また就業規則がなく、あるいはあっても上記のよう定めがなければ、一般的な解雇が可能ですが、いずれの場合も労基法20条の解雇予告または予告手当の手続は必要でしょう。ただし、前に触れたように裁判所の考えにもブレがあることや、紛争になった際のコストを考えると、他の解雇の場合も同様なのですが、Bに対して、退職を促し、退職の勧告に応じない場合には(懲戒)解雇とすることを説明し、これを拒否した場合に解雇するというような配慮は必要でしょう。

予防策

 まずは内定などについて、従前以上に厳しい採用段階の選別・審査が必要でしょう。予防策として、また、仮に採用後経歴詐称がわかったときの対処をしやすくするためにも、前にも述べたように会社の人事管理体制を整備し、募集条件を明確化しておくことが必要です。たとえば、どんな学歴、経歴・資格が必要であり、それに応じた人事管理がなされているということを明確にし、かつ、実行し、これに違反する従業員に対して公正に対処できる懲戒規定をおいた就業規則を整備することです。
 また、中途採用の場合では、職歴について、元の勤務先には、労基法22条1項により使用証明書の提出義務があるのですから、元の勤務先での職歴、退職理由を明示した証明書の提出を求めることです。記載内容も重要ですが、もし、これが円滑に取れない場合には、何らかのトラブルが元勤務先との間であったことを示し、そのような応募者の不採用の判断要素になるでしょう。

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