従業員(リクルーター)が人材をみつけて来たので特別手当を支払って欲しいと言って来たら?
A社では、人手不足で困っていたのですが、従業員Bが、「採用して欲しい人が居る」と言って友人Cを連れて来たので、A社は渡りに船とばかりにCを採用しました。するとBがA社に対して、「Cを見つけるのに、色々費用がかかっているし、新聞などに広告を出すよりは安く済んだのだから手当を支払って欲しい」と言って来ました。中小企業向けの雑誌などでもこのように従業員をリクルーターとして手当や報償金を払って人集めをするのがもっとも確実で経済的な方法と言っていますが、これらの手当などを支払っても本当に何も問題はないのでしょうか。
実費以外については、金額の性質や額によって職安法との関係で問題があるので断るべきです。
- 結論として言えば、特別の手当に関しては、従業員に渡す金額の性質や額によっては職安法との関係で問題となります。
- 1. 求人方法については職安法が規制
- 会社が求人する場合の方法については、職安法が規制しています。募集というのは、「労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして、労働者となろうとする者に対し、被用者となることを勧誘すること」とされています(職安法4条5項)。そして、職安法は、公共職業紹介所を通じての募集(17条以下)以外については、第三者への委託募集や、民間職業紹介所を介する募集については様々な規制をしています。例えば、刊行物やホームページ等の文書募集についても、応募者に誤解を与えないよう広告内容として適確な表示をなすように求めている外(42条)、直接募集についても通常の通勤圏又は近接地域から募集するよう努めるべき義務を定め(38条)、第三者への委託募集については委託について許可を求め(36条)、民間職業紹介所については、平成11年12月からは職業の範囲は拡大され、原則自由となりましたが、依然として、許可がなければできない(30条)、とするなどの規制です。
- (2) 従業員による募集にも規制
- 会社がその従業員を使ってこの募集をすることは、第三者に対する委託募集ではなく会社自らによる直接募集の問題とされますが(職安法40条)、職安法は、募集を担当する従業員に対する報酬や給与に関しても規定を置いているのです(40条)。これによると、会社は、募集を担当する従業員に対しては、「賃金、給料その他これらに準ずるもの以外は...与えてはならない。」ことになっています。しかもこの違反には、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という罰則まであります(65条)。
対応策
以上の検討を踏まえますと、設問のように、Bや従業員リクルーターが新人Cをみつけて来てA社に紹介して、その新人Cを採用できたとしても、A社としては、通常Bやリクルーターに支払っている賃金を支払う以外は(旧41条は「実費弁償…給料及びこれらに準ずるものを除いて」としており、この点は現行法でも解釈上維持されるものと解されます)、交通費やその新人を勧誘・口説くためにかかった一、二度の接待のための簡単な食事の費用程度については支払えるでしょうが、それ以外となると法的には微妙です。先ず、特別手当や特別賞与などは直接右の「財物」の提供となり、困難でしょう。Cを口説くための接待も、高級レストランや高級クラブなどでの酒食や、海外旅行などへの招待などと度を越したものとなると、それ自体がリクルーターらに対して恩典を与え、右の「利益」を与えたこととされかねません。但し、職業安定所のこの点に関する規制は現実にはほとんどなされていないようで、指導もなく突然刑事罰が課されるようなことは、さほど心配する必要はないでしょう。又、BがA社の業務命令による募集をしたのではなく、たまたま友人に自分の勤務先を紹介した場合にA社が単発的に心ばかりのお礼をすることは法律の関与することではないでしょう。
予防策
在一時的に不況・低成長のため緩和されたとは言え、構造的な人手不足は長期的なトレンドで、とりわけ3Kなどと言われる企業では、今後も人手・人材確保への対処が必要ですから、従業員(リクルーター)の活躍を期待せざせるを得ません。そこで、合法的に実質的なリクルートへの報償を実現するためには、次のような施策を総合的に実施するしかないでしょう。[1]賞与の査定に大きく反映させる。[2]交通費、日当に関する規程を整備して実費の範囲を最大限利用する。[3]解釈の余地のある利益の供与に関し直接的な報償的性格を弱めた一定時期経過後の海外研修への査定を踏まえた優先的派遣等の方法を取るなどの迂回策を取るか、コスト面でのアップは覚悟して、[4]リクルート活動を特命による業務として明確に位置付け、その活動に費された時間を把握した上で、賃金、時間外勤務・休日勤務手当等を正式に支払うこと、などでしょう。この④の問題については設問9-1-6で又触れることにします。。