法律Q&A

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リクルーターの残業手当

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年11月:掲載

リクルーターが新人の採用のために時間外や休日に学生と食事などの付き合いをした時間について休日手当や時間外手当を請求してきたら?

A社では、若手従業員Bをリクルーターとして後輩の学生と会食させたりして新人募集に必死だったのですが、ようやく新卒者の内定者を獲得できました。するとBがA社に対してリクルートのために時間外や休日に学生と付き合った時間について休日や時間外の各勤務手当を請求してきました。A社はどうすれば良いでしょうか?

上司の特命による場合以外には、休日・時間外手当などを支払う必要はありません。

1. 営業的接待業務の業務性
 リクルーターらの活動についての時間外や休日勤務手当の問題に関して参考となるのは、同様な接待業務の内、営業的なゴルフ接待や飲食に関して、裁判所や労働省が、労働災害に関して業務性があるかどうかという判断についてですが、かなり厳格に解して、原則として、業務性がないとしていることです。例えば、宴会については、「単なる懇親を主とする宴会は、その席において何らかの業務の話題があり、また業務の円滑な運用に寄与するものがあったとしてもその席に出席することは、特命によって宴会の準備等を命ぜられた者、又は、出席者の送迎に当たる自動車運転者等のほかは原則としてこれを業務とみることはできない」(昭和45・6・10裁決)とされています。
2.ゴルフコンペ参加が仕事と認められるか
 ゴルフ接待について、裁判所も、次のように同様の判断を示し、ゴルフ・コンペへの「出席が業務の遂行と認められる場合もあることを否定できないが、しかしそのためには、右出席が、単に事業主の通常の命令によってなされ、あるいは出席費用が、事業主より、出張旅費として支払われる等の事情があるのみでは足りず、右出席が、事業運営上緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたと認められるものでなければならない」、としています(高崎労基署長事件・前橋地判昭和50・6・24判例集未登載)。又、行政解釈も同様の判断を示しています。但し、近時、裁決例で(東京労働基準局・労災保険審査官平成9年3月11日、同日付読売新聞掲載)、商談ゴルフに向かう途中の交通事故死を、当初、労基署が任意参加として業務外としたのを労災と認めてマスコミを賑わせたことがありました。判断枠組み自体の変更ではないようですが、当該ゴルフコンペについて、【1】重要な商談も予定されていた、【2】上司からの参加命令で当日は出張扱い、【3】コンペの参加費用、高速道の料金は会社負担であった、【4】マイカー使用に当たり会社から自家用車業務使用許可が出ていたなどから、「ゴルフコンペは仕事の一環」と判断が覆されたようです。
 従って、ゴルフ・コンペ参加が業務上となるのは、本人がプレーをしない会社の担当者として準備接待、送迎等に当たる係員は別として、本人自身もプレーする場合は、最近の裁決例を参考にしても、そこで重要な取引の交渉が具体的に行われる場合とか、事業にとって具体的な課題と必要性がある場合など極めて例外的な場合に限られています。
3.リクルーターによる学生接待の場合
 これらの取扱を参考にしますと、その従業員(リクルーター)が人事担当者であったり、特別にリクルーターとして会社に命じられ、会社に対しその都度報告をしつつ、会社の指示の下に、会社からの命令による業務上の募集行為として、新人候補者への接待などをしていた場合で、あたかもヘッドハンティングのように特定の優秀な学生の獲得を指示された上での接待であり、その接待の程度・内容も高級クラブなどで二次会、三次会の梯子酒といったような社員(リクルーター)自ら楽しんでしまうようなものでなく、勧誘・説得のための落ち着いた場所を獲得するためにレストランを予約して、そこで簡単な食事程度をしたような場合には、説得に必要な時間の範囲内として労働時間にカウントされ、時間外や休日勤務手当の支払も問題となるでしょう。しかし、ここまでの特命によるリクルートは稀でしょう。

対応策

以上の検討によれば、設問の時間外や休日勤務手当については、BがA社の業務として行っていなければ通常は残業手当等を支払わなくても問題とならないでしょう。しかし新卒採用のための特命によるリクルーターなどについては、指定された新人を勧誘・口説くためにかかった一、二度の接待のための簡単な食事の時間などは労働時間に算入されることもあり得ますし、時間外や休日勤務手当の支払の必要がある場合も起るでしょう。しかし、特命もなく、これらの範囲を超す飲食時間などについては支払の必要はないでしょう。

予防策

 リクルート担当者としての特命による業務に付かせる者とそうでない者とを明確に区分して対処する制度を設けておく必要があります。前者の場合でも、飲食の 基準(場所、料金などの目安)を決めておき、それを超える部分については労働時間と認めない労働時間管理方法を決めておくことが必要でしょう。
 又、仮に労働時間として賃金を支払う場合も、その接待業務は本来の労働とは本質的に異なるため、研修時間などに対する対策と同様に、このような業務に関する特別手当や特別の時間当たり賃金を決めておき、それに対する割増賃金を支払うという方法を取ることも検討して良いでしょう。いずれにしても就業規則や賃金規程の整備が不可欠です。

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