法律Q&A

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賞与の支給日在籍要件

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年11月:掲載

従業員がボ―ナスの支給時期の前に退職するのにボ―ナスを支払って欲しいと言って来たら?

A社では、給与規程で、ボ―ナス(以下、賞与)の支払時期を原則として毎年6月上旬と12月上旬と定め、その支払時期に在職している従業員に対してだけ賞与を支払うこと(これを支給日在籍要件といいます)になっていて、冬期賞与の査定対象期間は、5月21日から11月20日とされ、夏期賞与の査定対象期間は10月21日から5月20日までとされていました。そんな中で、A社の従業員Bは、11月20日付をもって退職したいと10月20日に申し出て、自分は会社の冬期賞与査定期間一杯は働いているのだから、冬期賞与は勿論、夏期賞与分についても6分の1の請求権はある筈なので、その分を支払って欲しいと言って来ました。A社はBのこんな要求に応じる必要があるのでしょうか。

ボーナスの支給は支給日に在職している社員に限るとの給与規定などの規定があれば支払は要りません。

1. 支給日在籍要件は多くの企業で採用されています
 少なくとも自己都合退職者については、賞与の支給日在籍要件が定まっている以上、基本的には支払う義務はありません。
A社のような支給日在籍要件、つまり賞与の査定対象期間の全部又は一部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱いは、多くの会社に見られます。毎月の賃金については、このような取扱が許されないことは当然で、賃金支給日前に退職した者についても労働した日数分の賃金を支払わなければなりません。
 賞与に対してこのような支給日在籍要件が定められるのは、賞与が過去の労働に対する報償としての意味だけではなく、将来の労働に対する意欲向上や在籍日までの就労の確保の狙いが込められているからと思われます。A社でも賞与査定対象期間の満了日と賞与支払日が約1カ月程ズレているのも、大企業などの場合は繁雑な査定期間の必要のためもありますが、後者の目的によるものでもあるでしょう。
2.判例も支給日在籍要件の有効性を認めています
 裁判所は、この賞与の支給日在籍要件について、古くは無効としていましたが(日本ルセル事件・東京高判昭和49・8・27労判218-58)、現在ではこれを有効とするようになっています(大和銀行事件・最一小昭和57・10・7労判399-11、カツデン事件・東京地判平成8.10.29労経速 1639-3、日本テレコム事件・東京地判平成8.9.27労判707-74、須賀工業事件・東京地判平成12.2.14労判780-9)。これに対し、有力学説は、退職日を自ら選択できる自発的退職の場合は有効としますが、会社都合の整理解雇(設問9-5-1参照)や定年の場合には公序良俗違反により無効であり、勤務期間に対応した賞与請求権があるとしています(菅野和夫「労働法」第5版補正版213頁)。
 しかし、現在までの多くの裁判例は、この学説のような区分を意識することなく支給日在籍要件を有効としているようです(定年退職の場合にも有効としたカツデン事件・前掲、三光純薬事件・東京地判平成14.9.9労判838-89はこれを明示しています)。しかし、裁判所も、賞与の支給日が、例年より大幅に遅れたような場合にはこの支給日在籍要件は適用されないとしています(ニプロ医工事件・最三小昭和60・3・12労経速1226-25、須賀工業事件・前掲)。
 もっとも、支払時期が決まっていても、賞与の支払基準(例えば、基本給の何カ月分等)などが明確になっていなければ、中途退職者の具体的な賞与請求権は発生しないということになります。裁判所も、賞与について、「定期賞与及び臨時給与は、支給の都度、細部を決めて支給する」との定め以外には就業規則に定めがなく、支給の都度組合と金額、算出基準、支給者の範囲等支給についての具体的な協定がなされない限り、賞与等の具体的請求権は発生せず、その協定に懲戒解雇者に対する支給について定められていない場合には、懲戒解雇者に賞与等を支給しなくてもよいとしています(ヤマト科学事件・東京高判昭和59・9・27判時1133-150)。

対応策

以上を踏まえて設問を検討しますと、A社では、支給日在籍要件が給与規程で定められていて、Bはこのような規定のあることを知りながら、支給日より前に自分の都合で退職したのですから、A社はBの要求に応ずる必要はありません。但し、A社の支給日在籍要件が明確に定められていない場合は、このように直ちには解決できません。基本的には、支給額や支給日自体が決まっていないような場合には(前掲ヤマト科学事件)、支払いに応ずる義務はないことになります。ところが、退職金のところで触れたような労使慣行として、賞与の支給時期や基本給との間の最低の係数などが決まっていて、今までにも支給日前に辞めた人にも賞与を支払っていたような場合には、慣行に従った賞与を支払う必要があることがあります。しかも、その慣行によっては、賞与査定対象期間中の一定割合以上の出勤者のみへの支払い等の賞与受給欠格要件などを定めておかないと、冬期賞与のみならず、夏期賞与についての1カ月分相当も支払えなどと言われかねないので注意が要ります。もちろん、逆に労働慣行としてこのような欠格要件が定着していれば、冬期分のみとなります。

予防策

設問のような問題を起こさないためには、全く賞与の規定をおかない方法もあります。しかし、これでは近代的な経営とは言えず、従業員のモラ―ル(士気)の向上も望めません。従って、結局、賃金規程を必ず定め、その中の賞与に関する規定の中に、明確に支給日在籍要件や賞与査定対象期間中の一定の出勤日数を欠く者(例えば、対象期間中一カ月以上欠勤した者、出勤停止以上の懲戒処分を受けた者等)に対し賞与を支給しない、とするような賞与受給欠格条項などを置くことが必要です。そして、その運用に当っても、誤解を招くような労使慣行を作らないように厳正に適用することです。

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