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転職先での退職金

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002年5月:掲載

転籍先により退職金額が異なる場合、グループ会社への転籍を想定した場合の金額を補償しなければ従業員の不利益となるのでしょうか ?

A社では、従来グループ間での転籍を行ってきましたが、グループ内で共通の退職金制度であったため、引当金を転籍先に移して転籍先で退職金を清算していました。ところが、グループ会社間での転籍はこれ以上困難な状況になったため、新たにグループ外への転籍を検討しています。給与はある程度保証するとしても、退職金は転籍時に支払い、減額しようと考えています。このように、転籍先により退職金額が異なる場合、グループ会社への転籍を想定した場合の金額を補償しなければ従業員の不利益となるのでしょうか?

「新たにグループ外への転籍」という点から、転籍義務の存在が問題となり、仮に、これをクリアしても、「退職金…減額」の点は労働条件の不利益と解され、基本的には、当該労働者の承諾がないと、実行は困難でしょう。実行には、代償措置の検討を踏まえた、粘り強い説得が必要となるでしょう。

1. 転籍出向の意義
 そもそも、転籍出向とは勤務する会社と異なる会社に就労することであり、勤務する会社との雇用契約上の地位・身分を失って異なる会社の社員として就労(転籍)することをいいます。つまり、従前の会社の関係でいえば雇用関係の終了(解雇又は転職)であり、移動先の会社との関係では雇用関係の成立(雇用契約の締結)ということになります。元の会社の身分を有したまま他の会社に就労する在籍出向と異なり、元の会社の身分・籍を失うことが転籍の最大の問題です。
 転籍出向先の会社には、設問にもありますように、系列・関連会社等が多いようですが、その他の会社に転籍出向になる場合もあります。労働条件が従前の会社の労働条件との関係で同一なのか変更されるのかも重大な問題となります。
2.従業員の同意
 先ず、転籍出向には、従業員の同意が原則的には必要となります。裁判例は、労働契約が一身専属的性格から転籍出向が従前の会社の退職と新会社との雇用契約の締結という行為を一度に行う内容を持つことから労働者の承諾の必要性を指摘してきました。つまり、このような業務命令は労働者の承諾をもってはじめて効力を生ずるとしています(日立製作所横浜工場事件・最一小判昭48.4.12最判集民事109-53、ミクロ製作所事件・高知地判昭53.4.20労判 306-48等)。
3.事前の包括的合意による転籍の可否
 転籍については、事前の「包括的同意」の可能性について議論があります(例えば、三和機材事件・東京地決平成4.1.31判時1416-130では、就業規則の包括的規定による転籍命令権を否定しています)。これが認められる余地があるのは、事前の転籍先・労働条件の明示・一定水準維持への配慮や、それらに基づく採用時又は中途での同意や(入社時の包括的同意があったことを指摘する日立精機事件・東京高判昭63.4.27労判536-71)、転籍先と転籍元が同一会社と同一視できる程度の密接な人事交流がなされているような系列企業グループ内の異動の場合に限られます(日立精機事件・千葉地判昭 56.5.25労判372-49)。
 この法理の延長として、転籍の場合に、転籍先との重要な労働条件は確定していないことを理由に転籍の効果が否定されることがあります。例えば、生協イーコープ事件(東京地判平5.6.11労判634-21)では、移籍元法人が別法人との間で従業員を同法人に移籍させることを合意し、当該従業員が移籍元法人に対し右合意に基づく移籍を承諾した場合でも、その時点で移籍時期、移籍後の雇用条件について何も決まっていなかったことから、右従業員の移籍承諾と同時に雇用契約上の地位が別法人に移転したとみることはできないとされています。
4.転籍者への退職金の処理
 転籍者への退職金の処理をめぐる係争も見られます。例えば、大日本ユニプロセス事件(東京地判平12.22労判800-87)では、グループ企業内の転籍者に対し、勤続年数を通算して退職金を算定し、その際、転籍元企業退職時に支給された退職金の中間利息を控除するとの退職金規定の変更(労使協定)について、退職金規定の内容は不合理ではなく、転籍労働者に対して不利益は生じていないとして有効としています。

対応策

以上の裁判例に照らし、先ず、包括的転籍義務の観点からは、従来の同義務の存在が推認される状況とは異なり、今回の転籍は、「新たにグループ外への転籍」という点から、同義務の存在は認めにくく、前述の原則通り、転籍自体に当該労働者の承諾が必要と考えられます。仮に、これをクリアしても、「退職金…減額」の点は労働条件の不利益と解され、基本的には、当該労働者の承諾がないと、実行は困難でしょう。

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