法律Q&A

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退職金支給を「後任者への引継を完了した場合のみ」に限定できるか

弁護士 難波 知子(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年05月:掲載
2015年10月:補正

退職金支給を「後任者への引継を完了した場合のみ」に限定できるか

当社では、これまで退職金を支給してきませんでしたが、人事制度の改定を機に、退職金制度の導入も検討しています。対象者を「勤続5年以上の正社員」とすることに加えて、「後任者への引き継ぎを完了した者」との要件(=引き継ぎを行わず、一方的に退職した場合、一切支給しないものとする)を付したい考えですが、こうした定めをした場合、退職金を全部不支給とすることは、認められるでしょうか。

退職金規定等に明確に規定すれば、引き継ぎを完了しなかった場合に、退職金の一部を支給しないという条件を付けることは認められますが、一律に全額不支給とすることは難しいといえます。

1 退職金の性質
 退職金は、通常、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されますので、一般に賃金の後払い的性格を有するとされています。
他方で、退職金の算定基礎賃金が退職時の基本給であること、支給率が勤続年数に応じて増していくこと、また、支給基準において自己都合退職と会社都合退職を区別したりされていること等から、退職金は、賃金の後払い的性格に加え、功労報償的性格も併せ持っているといえます。
2 退職金不支給規定の必要性
 従業員には退職の自由があり、会社を自由に退職できますので、会社は、退職することに決めた従業員に対し、できる限りの引継ぎを行わせることが、大きな問題となってきます。
 そこで、退職する従業員に引継ぎを行わせるために、就業規則等で退職金不支給ないし減額規定を定める必要性が出てきます。
3 退職金不支給ないし減額規定の法的問題点
 退職金不支給ないし減額規定を定めると、退職金の賃金後払い的性格から、賃金の全額支払いの原則(労基法24条1項)に反するのではないか、という問題が生じますが、退職金には、労働者の貢献に応じた成果配分的側面や、勤務成績についての効果査定による功労報償的な側面もありますので、一部減額しても直ちに反するといえないと考えられます。その他、以下のとおり、規定への明記、減額の度合いと、労働者の非行、非違行為との間の合理性の程度に着目し、規定を制定する必要があります。

① 規定への明記の必要性
 まず、退職金の賃金後払い的性格、労働者の予見可能性の観点から、退職金不支給ないし減額条項を就業規則、退職金規程等に明確に規定し、退職時に引継ぎを行わない場合には、退職金が支払われない可能性があることを明確に労働契約の内容とする必要があります。

② 規定の合理性判断
 また、上記のとおり、退職金は、功労報償的な性格も有しているので、退職金不支給ないし減額規定を、一般的に公序良俗違反(民法90条)等で無効とすることはできません。他方、退職金が賃金の後払い的性格を有していることからは、退職金不支給規定の効力を無限定に認めることも相当ではありません。

 そこで、退職金を不支給ないし減額規定については、退職金の各性格を反映し、労基法の諸規定やその精神に反せず、社会通念の許容する範囲で、その規定の合理性が判断されることになります。
 裁判例の中には、引継ぎ自体を争ったのではなく、そのためを含みとした「退職願いを提出した日より7常務(14日間)正常に勤務しなかった者」には退職金を支給しない条項が有効とするものもありますが(大宝タクシー事件・大阪高判昭和58・4・12労民34巻2号231頁)、学説の批判もあり、全面的にこの裁判例に依拠するのは危険でしょう。
 そこで、具体的には、退職金不支給ないし減額規定の有効性と、減額規定の具体的適用の相当性とから判断されることになります。そして、規定の有効性は、目的、内容、減額の範囲、退職金の性格等から判断されます。
 上記のとおり、会社にとって、引継ぎを行わせる現実的必要性は高いといえます。他方、引継ぎ業務は、従前自己の行っていた業務を引き継ぐのみであるので、労働者の負担は重いとはいえません。また、労働契約を結んだ当事者間において、信義則上適切な引継ぎをすることは必要といえます。したがって、支給を制限する規定自体は、合理的といえます。もっとも、引継ぎをしなかった場合に即座に退職金を全額支給しないとの結論にするのは、退職金の賃金の後払い的性格からしても問題が大きいといえます。
 したがって、引き継ぎを行わず、一方的に退職した場合、退職金を一切支給しないという条項を定めたとしても、相当性の観点からも、この規定が、全面的に有効となる、ないし有効に適用される可能性は低いといえます。

対応策

まずは、退職金不支給規定ないし減額規定があるか確認して下さい。規定が無ければ減額はできません。規定がある場合には、どの程度、減額できるのか、具体的事情をもとにその都度検討していくことが重要となります。

予防策

 退職金不支給ないし減額事由を定めなければ、減額は認められませんので、まず、就業規則にあらかじめ退職金減額規定を定めることは必須です。
 そして、具体的規定としては、就業規則、退職金規程等の退職金支給要件として、「社員が退職又は解雇されたときは、会社が指定する日までに、会社が指定した者に業務の引き継ぎをしなければならない。この引継ぎをなさない社員に対しては、退職金を一部(または全額)支給しないことがある。」等の定めが考えられます。
 もっとも、業務の性質上、引継ぎを行わせる必要性が高く、規定に全額支給しないことがある可能性を定めた場合でも、これがそのまま有効に適用され、退職金を全額不支給とできる可能性は低いと考えられますので、注意が必要です。実際には、その会社の退職金の性質、引継ぎ業務の重要性、その他引継ぎに関する情状を考慮し、退職時に引継ぎを行わなかった者に対し、退職金を一部、相当額減額することになるといえるでしょう。

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