法律Q&A

分類:

タイム・カードによる労働時間算出の問題

弁護士 山﨑 貴広(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2018年11月補正:掲載

企業は、タイムカードの打刻どおりに割増賃金を支払わなければならないのか。

会社は、必ずしも、タイムカードの打刻時間を、労働時間としなければいけないわけではありません。タイムカードの打刻どおりに残業代を支払わなければならないかどうかは、タイムカードが、会社の労働時間管理において、どのように位置づけられているかにより決まります。

1.労働基準法上の労働時間
 労働基準法(以下「労基法」といいます。)上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、この時間にあたるか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより、客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとされています(三菱重工業長崎造船所事件・最判平成12年3月9日民集54巻3号801頁等)。
2.タイムカードと労基法上の労働時間
 会社によっては、使用者の指揮命令下にない時間についてもタイムカードの記録がなされている場合があり得ることから、労基法上の労働時間の定義に照らすと、タイムカードの打刻時間が必ずしも労基法上の労働時間に該当することにはなりません。
 裁判例(三好屋事件・東京地判昭和63年5月27日労判519号59頁)も、「時間外労働賃金は管理者が時間外労働を命じた場合か、黙示的にその命令があったものとみなされる場合で、かつ管理者の指揮命令下においてその命じたとおり時間外労働がなされたときにのみ支払われるべきものである。」としています。
 そして、同裁判例は、タイムカードの打刻の意味について、「一般に使用者が従業員にタイムカードを打刻させるのは出退勤をこれによって確認することにあると考えられるから、その打刻時間が所定の労働時間の始業もしくは終業時刻よりも早かったり遅かったとしてもそれが直ちに管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない」としたうえで、「タイムカードによって時間外労働時間数を認定できるといえるためには、残業が継続的になされていたというだけでは足りず、使用者がタイムカードで従業員の労働時間を管理していた等の特別の事情の存することが必要である」と判断しました(同裁判例は、「就業開始前の出勤時刻については余裕をもって出勤することで始業後直ちに就業できるように考えた任意のものであったと推認するのが相当であるし、退勤時刻についても既に認定した営業係の従業員に対する就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労とが一致していたと見做すことには無理があり、結局、原告についてもタイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することはできない」、として労働者の残業手当の請求を斥けています。)。
 そして、同裁判例が「タイムカードによって時間外労働時間数を認定できるといえるためには、...使用者がタイムカードで従業員の労働時間を管理していた等の特別の事情の存することが必要である」と示したように、近時、多くの裁判例では、タイムカード等による客観的記録を利用した時間管理がされている場合には、特段の事情がない限り、タイムカード等の打刻時間により、労働時間が認定されています(三晃印刷時件・東京高判平成17年12月28日労判910号9頁、松屋フーズ(パート未払賃金)事件・東京地判平成17年12月28日労判910号36頁、ボス事件・大阪地判平成22年7月15日労判1014号35頁、プロッズ事件・東京地判平成24年12月27日労判1069号21頁等)。
 例えば、前掲プロッズ事件は、女性グラフィックデザイン従業者の労働時間が争われた事例につき、「使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である。ただし・・・他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である。」と判断しました。
 以上みてきたとおり、タイムカードの打刻どおりに労働時間として計算することとなるかどうかは、タイムカードが、会社の労働時間管理において、どのように位置づけられているかにより決まります。
 もしも、その会社がタイムカードによって労働者の労働時間を管理し、打刻どおりに残業手当を支払ってきた慣行があるのであれば、原則、それに従わざるを得ないでしょう。
3.労働時間管理の重要性
 (1)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
 平成27年の電通事件を契機に、厚生労働省から、平成29年1月20日付けで「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日基発0120第3号。以下「ガイドライン」といいます。)が発表されています。
 同ガイドラインは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録することと、この確認の方法としては、原則として、①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること、②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することなどを示しています。
 (2)働き方改革法による労働時間管理の立法化
 今般、戦後労働法にとって70年振りの大変革と言われる、働き方改革法が、平成30年6月29日に成立しました。労働時間管理については、同改革によって、労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます。)が改正され、法律上も使用者の労働時間把握義務が法令で明文化されたことが注目されます。すなわち、同法は、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者を除き、面接指導を実施するために、タイムカード及びパーソナルコンピューター等の電子計算機による記録等の客観的な方法その他適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと定めました(改正安衛法66条の8の3、安衛則52条の7の3)。
 また、働き改革によって、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、高度プロフェッショナル制度が設けられました。同制度の運用に際しては、その健康確保の観点から、使用者は、対象となる労働者の「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計を、改正労基則で定める方法によって把握する措置を、労使委員会で決議しなければなりません(改正労基法41条の2第1項3号)。そして、平成30年10月15日付けで厚労省労政審議会労働条件分科会にて公表された改正労基則素案では、「健康管理時間を把握する方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピューター等の電子計算機の使用時間の記録等客観的な方法とする。ただし、事業場外において労働であってやむを得ない理由があるときは、自己申告によることができる。」とされています。
4.おわりに
 働き方改革法の成立等により、タイムカード等の客観的記録による労働時間管理の重要性が増しています。これまでタイムカードによる労働時間管理を行っていなかった会社も、新たにタイムカードによる労働時間管理を行うことが想定されます。
そして、上記のとおり、タイムカード等による客観的記録を利用した時間管理がされている場合には、特段の事情がない限り、タイムカード等の打刻時間により、労働時間が認定されることとなります。
会社としては、タイムカードによる労働時間管理を行っている場合には、原則、タイムカードの打刻通りに残業代の支払いをしなければならないということに留意したうえで、変形労働時間制やフレックスタイム制の採用や、徹底した残業申請制の運用等(徹底した運用の例としては、ヒロセ電機事件・東京地判平成25年5月22日労判1095号63頁が、時間外勤務について、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外命令書によって命じていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握していたこと等を根拠に、時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであると判断したことが参考となります。)により、無駄な残業を発生させないよう心掛けることが肝要です。

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