法律Q&A

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管理職と割増賃金

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載

管理職が残業、休日出勤、深夜勤務への各手当や年休が欲しいと言ってきたら?

A社のB課長が、平社員には残業手当などが付き、月によっては、自分の管理職手当より多く、給料の逆転現象が起きることや、A社では、課長に対しても出勤確認のためタイム・カードを打刻させていることなどを理由に自分は管理職ではないと主張して、A社に対して残業、休日出勤、深夜勤務への各手当や年休が欲しいと言ってきました。A社は、管理職にはこんな手当や年休など必要ないと思っていたのですが、このままBの要求を拒否しておいて良いのでしょうか。

名実共に管理職に対しては深夜勤務手当・年休を除いては、要求に応ずる必要はありません。

1.労基法上の管理・監督者に当たるか
 第一のポイントは、Bが労基法上の管理・監督者に当たるかどうかです。これに当たれば少なくとも労基法上、残業手当や休日出勤手当の必要はありませんが、年休や深夜残業手当については与えることが必要です。但し、深夜勤務手当については管理職手当で対応できる場合もあります。
 労基法41条2号は、管理・監督者に対して労働時間、休憩及び休日の規制を適用除外しています。その理由は、彼らは自らの時間管理については裁量権を与えられており、これらの労働条件に関しては法律による保護にはなじまないと考えられたためです。しかし、課長、係長あるいは主任など中間管理職については、管理・監督者に該当するかどうかが争われる例が少なくありません。そこで、行政解釈や裁判所の判断に基き、実務上の判断基準と取扱をみてみましょう。
2.管理・監督者の判断基準は
 先ず、管理・監督者とは、[1]労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者とされ、[2]これに該当するかどうかは、名称にとらわれず、実質的に管理・監督者としての権限と地位を与えられ、[3]出社退社等労働時間について厳格な制限を受けず、[4]このような地位にふさわしい賃金面での処遇が基本給や手当、賞与等の面でなされているかどうかなどの点を実態に即し総合的に判断する、とされています(昭和63・3・14基発150)。[4]の処遇面ではたまたま管理職に支払っている賃金が、平社員より少なくてもそれは直ちに管理職としての処遇をしていないことにはなりません。
3.裁判所での判断は
 裁判例としては、通常の就業時間に拘束されて出退勤の自由がなく、また部下の人事や考課に関与したり銀行の機密事項に関与することもなく、経営者と一体となって銀行経営を左右する仕事に携わるということもない銀行の支店長代理は、管理・監督者に該当しないとされ(静岡銀行事件・静岡地判昭和53・3・28労民29-3-273)、ファミリー・レストランの店長も出退勤時間を管理されているなどの場合にはこれに該当しないとされ(レストラン「ビュッフェ」事件・大阪地判昭和61・7・30労判481-51)、販売主任も出退勤時間を厳格に管理されているなどの場合にはこれに該当しないとされ(ほるぷ事件・東京地判平成9・8・1労判722-62)、紙幣偽造鑑別機の製造販売会社の「営業主任」が「営業部の従業員を統括する立場にあったとはいえ」「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と言えずこれに当たらないとされています(日本アイティーアイ事件・東京地判平成9・ 7・28労判724-30)。
4.スタッフ職の取扱は
 なお、最近では本社の企画調査等の部門にスタッフ職が多くみられ、これらの者に対する処遇の程度により、時間規制を適用除外としてもとくに労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられる場合には、管理・監督者に含めた取扱が許されています(前記基発)。
5.現実に即した判断基準は
 ところで、今日、労働省の通達の言うような時間的拘束の無い管理職などと言う概念はあり得ません。この現実に照らしても、又、専門職・スタッフ職にも処遇の面を重視して同号の適用を認める前記通達の趣旨からしても、「出退社について厳格な制限を受けていないといった時代離れした解釈基準を捨てて、管理職や専門職の高度な職務内容、高い責任に相応するだけの待遇=手当が支払われているかどうかを要件とすべき」でしょう(平岩新吾「管理職・専門職」季刊労働法別冊9号47頁)。そうすると管理職への時間管理の存在は一つの判断要素に過ぎず、それのみでは労基法41条2号の適用を否定することにはならないこととなります。
6.管理職のタイム・カード利用の意味は
 又Bにおいて、タイム・カードへの刻印がなされていましたが、これにより厳格な時間管理がなされていたことには必ずしもなりません(タイムカードによる厳格な時間管理がなされていたと認定された例として、ほるぷ事件・前掲参照)。Bの場合は、出勤そのものの確認・管理のためであり、時間管理のためではないからです。裁判例でも、管理職に対してタイム・カードによる打刻等がなされていても、それは、単に給与計算上の便宜上からなされているに過ぎず、それをもって管理職に該当しないものとは判断されていません(徳州会事件・大阪地判昭和62・3・31労判497-65、日本プレジデントクラブ事件・東京地判昭和63・4・27労判517-18)。
7.深夜勤務手当の取扱は
 注意が要るのは、仮に労基法41条2号の管理・監督者に該当すると判断されたとしても、適用除外となるのは、[1]労働時間、[2]休憩、[3]休日に関する規定だけということです。従って、深夜労働に関する割増賃金、あるいは年次有給休暇については適用除外がないので、管理・監督者もこれらの請求権を持っています。しかし、現実の会社で管理職に深夜勤務手当を支払っているというのは稀でしょう。これは労基法の誤解ということもありますが、一つには、管理職手当の中に一定の深夜勤務時間に関するみなし深夜勤務手当が含まれていると善解されているためと考えられます。
8.みなし手当としての解決も
 仮に、管理・監督者に該当しないとされた場合には、当該管理職に平社員より高い処遇として支払われている「管理職手当」が第1章138で述べたような「みなし割増し手当」として理解できるかどうかの問題となります。そう解釈できる場合は、その手当でカバーされている範囲を超えた時間外・休日・深夜労働には超勤分の割増賃金を支払うことが必要です。

対応策

以上によれば、A社でも決め手は、Bが管理職としての処遇と権限を与えられていたかどうかになり、Bに対する時間的な管理の程度も加味されますが、タイム・カードにBが打刻していたことだけでA社がBの要求に応じる必要はないということになります。但し、Bが管理・監督者と言えても深夜割増や年休の問題は別であることは前に述べた通りです。又、そもそも就業規則で管理職に対する残業や休日労働への割増賃金なしの規定がなければ、管理職からその支払を請求されることもあり得るので要注意です。労基法は管理・監督者への適用除外を認めているだけであり、それを義務付けている訳ではないからです。

予防策

そもそもは、管理職の経営マインドを喚起し、Bのような要求をさせない発想の転換をさせることが必要です。制度的には、第一に、管理職の実態が、処遇・権限・時間管理面で労基法上の管理・監督者の実質を持つような諸規程を整備し、かつ、そのような運用を行うことです。第二に、管理職に対しては、平社員の労働時間・休日・休憩の規定の適用除外を(できれば異なる処遇の内容も)明示します。第三に、管理職手当の中に深夜勤務手当の割増分もみなし手当として加味されていることを明文化します。第四に、管理・監督者に該当するかどうかが争われ易い中間管理職の係長クラスに対しては、残業手当などに関しては、管理職としての取扱を廃止するか、そこでの管理職手当が残業等の基準外賃金へのみなし手当であることを明文化しておくことです。

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