法律Q&A

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プロジェクトリーダーに任命されている社員の管理監督者性

弁護士 難波 知子
2010年3月:掲載

プロジェクトリーダーに任命されている社員の管理監督者性

当社の社内プロジェクトでは、一般社員からプロジェクトリーダーを任命し、当該リーダーには、メンバーの選定権、メンバーの評価を行う人事考課権のほか、プロジェクトの運営スケジュールの決定権を与えています。また、毎月一定額のプロジェクトリーダー手当も支給しています。このような場合、プロジェクトリーダーを管理監督者として取り扱い、時間外手当の支給対象外としても問題ないでしょうか。

メンバーの選定、評価、スケジュール決定への関与度合い、労務管理、経営への関与や労働時間の裁量の有無、手当の趣旨や額等の事情にもよりますが、相当厳格な裁判例の態度を考慮すると、プロジェクトリーダーに任命されただけでは管理監督者性を否定される可能性が高いでしょう。

1 管理監督者性
(1)労基法上の扱い

労基法41条2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については労働時間、休憩、休日に関する規制を適用しないと定められていますので、労働者が管理監督者に該当すれば、使用者は時間外・休日手当を支払う必要がありません。この趣旨は、管理監督者は職務の性質上、一般労働者と同様の労働時間規制になじまず、勤務や出退社について自由裁量を持つため、厳格な労働時間規制が無くとも保護に欠けることはない点にあります。そこで、管理監督者とはいかなる者をいうのかが大きな問題となります(以下につき、岩出誠著『実務労働法講義』[民事法研究会、第3版]上巻466頁以下参照)。
 この点、通達は、「『監督若しくは管理の地位にある者』とは一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。」「管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要がある」「その地位にふさわしい待遇がなされているか」にも着目すべき(昭22.9.13発基17号、昭63.3.14基発代150号)としています。
 裁判例も、①労務管理上使用者と一体の地位にあるか②労働時間決定に裁量性があるか③その地位にふさわしい処遇を受けているかについて総合的に考慮し判断しているといえます。

(2)裁判例

上記基準を用い、管理監督者性を否定した裁判例は多数存在し、例えば、役職手当を支給されている銀行支店長代理(静岡銀行事件 ・静岡地判昭53・3・28労判297号39頁)、レストラン店長(レストラン「ビュッフェ」事件・大阪地判昭61・7・30労判481号51頁)、工場の営業開発部長(岡部製作所事件・東京地判平18・5・26労判918号5頁)、ホテルの料理長(セントラル・パーク事件・岡山地判平19・3・27労判941号23頁)、ファーストフードチェーンの店長(マクドナルド事件・東京地判平20・1・28労判953号10頁)、課長代理(東和システム事件・東京地判平21・3・9 労判981号21頁)、カラオケ店の店長(S社事件・大阪地判平21・6・12 労判988号28頁)等があります。
 他方、管理監督者性を肯定した裁判例は多くはなく、例えば、医療法人の人事第二課長について、求人、業務計画等を立案実施する権限や採否、人事関係職員に指示を指揮、命令する権限があり、特別調整手当てが支払われていた場合(徳州会事件・大阪地判昭62・3・31労判497号65頁)、旅行目的のクラブ運営会社の総務局次長について、総務、経理、人事、財務の全般にわたって管理的業務を行い、役職手当が支払われていた場合(日本プレジデントクラブ事件・東京地判昭63・4・27労判517号18頁)、工場の製造部部長について管理職手当12万円年収682万円余が支払われていた場合(ハヤシ事件・福岡高判平21・1・30労判978号98頁)タクシー会社の営業次長について、多数の乗務員を指導・監督する立場にあり、採否に重要な役割を果たし、出退勤管理もなく、高額の報酬が支払われていた場合(姪浜タクシー事件・福岡地判平19・4・26労判948号41頁)に管理監督者性が肯定されています(他に、日本ファースト証券事件・大阪地判平20・2・8労経速1998号3頁等)。

(3)現実の問題点

このように、管理監督者性の判断においては、行政解釈、裁判例ともに職務権限、勤務態様、賃金等待遇の三点に着目し、相当厳格な判断を行っているといえます。
 しかし、現実には、上記三点を無視し、「店長」「課長以上」というように機械的に管理監督者として扱い、いわゆる「名ばかり管理職」として長時間労働をさせている例が多く見られますが、大きな問題であり、企業はこの点について十分留意する必要があります(「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平20.9.9基発第0909001号と「『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平20.9.9基発第0909001号)』に関するQ&A」についても参照)。

2 本件の検討

 本件の「プロジェクトリーダー」について管理監督者として取り扱うことに問題がないか否かについては、上記基準をもとに個別具体的に検討していくことになります。

①労務管理上の使用者との一体性

 本件の、メンバーの選定権、メンバーの評価を行う人事考課権のほか、プロジェクトの運営スケジュールの決定権がある点は、管理監督者性を肯定する一要素にはなりえます。もっとも、具体的に当該労働者が当該事項にどの程度関与し、どの程度の影響力があったのか、その他労務管理や経営方針の決定等に関する権限の有無を検討し、それらが小さいもしくは無い場合には労務管理上使用者との一体性は無いとされる可能性は十分にあります。

②労働時間についての裁量の有無

 本件は労働時間がどのように管理されているのかが不明です。この点、例えば、出社時刻○時、昼休み○時から○時まで、退社時刻○時と決まっている、遅刻早退に届出の必要がある、出退勤を記録する必要がある、遅刻早退が給与の減額や査定に響く等の場合には、労働時間について裁量が無いといえるでしょう。

③地位にふさわしい処遇

 本件では、プロジェクトリーダー手当てが支給されているとのことですが、この点のみでは地位にふさわしい処遇がなされているとは言い切れません。
 当該リーダー手当ての具体額の多寡、支払の趣旨(単に職務に対して支払われるものではなく時間外手当相当分が含まれているといえるか等)、管理職手当ての有無、額等を検討した結果、それらが少ないもしくは無い場合、地位にふさわしい処遇がなされていないとされることも十分に考えられます。
 以上を踏まえて、実情に即した慎重な判断が必要ですが、本件事情及び裁判例の傾向等をからすると一般社員がプロジェクトリーダーに任命されただけでは上記要件を満たすとは考え難く管理監督者性を否定される可能性が高いでしょう。

対応策

 上記のとおり、管理監督者性の判断においては、行政解釈、裁判例ともに職務権限、勤務態様、賃金等待遇の三点に着目し、相当厳格な判断を行っているといえますので、会社としてもそれを踏まえた対応が必要となります。
管理職扱いにしたい者がいる場合には、管理職の実態が、処遇・権限・時間管理面で労基法上の管理・監督者の実質を持つような規程を整備し、それに即した運用を行うこと、管理職に対しては、平社員の労働時間・休日・休憩の規定の適用除外を明示することとします。さらに、管理職手当の中に深夜勤務手当の割増分もみなし手当として加味されていることを明文化する等して、十分な対策をとっておく必要があるでしょう。

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