法律Q&A

分類:

会社の責による休業後に解雇する社員に対する休業期間中の年休

特定社会保険労務士 村上 理恵子
2010年8月:掲載

会社の責による1カ月の休業後に解雇する社員に対し、休業期間中の年休申請に応じなければならないか

当社では、業績不振のため、複数の事業所を閉鎖することとなりました。同事業所の勤務者に対しては、他事業所への異動等、雇用継続のための措置を可能な限り講じますが、これに応じない社員については、事業所閉鎖の1カ月後をもって、会社都合退職となります(この1カ月間は、会社の責による休業として、平均賃金の6割を支払います)。ここでお尋ねですが、同休業期間中、年休申請がなされた場合、応じる必要はあるのでしょうか。(熊本県S社)

回答ポイント

会社があらかじめ指定した休業期間中の日を指定して年休申請がなされた場合には、そもそも休業期間については労働義務がなく、その年休申請に応じる必要はないと考えます。
解説
1 年次有給休暇の成立要件
 労働基準法による年次有給休暇(以下、年休という)の権利は、①労働者が6ヵ月継続勤務したことと、②初年度は6ヵ月、2年目以降は1年の勤務期間について全労働日の8割以上出勤したこと(労基法39条1項)という要件を充たすことで法律上当然に労働者に生ずるものであって、労働者の請求をまってはじめて発生するものではありません。そして、労働者がその有する年休の日数の範囲内で具体的に時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、労働者の時季の指定によって年休は成立することとなり、その具体的な権利行使に当たっても、年休の成立要件として使用者の承認という観念を入れる余地はないとされています(林野庁白石営林署事件・最二小判昭48・3・0民集27巻2号191頁)。
2 年休の法的効果
 労働者は、時季指定権を行使して年休日を特定し、年休日とされた労働日における就労義務の消滅と法所定の賃金請求権を取得することとなります。
3 休暇付与日について
 このように、年休は賃金の減少を伴うことなく就労義務が免除されるものであり、そもそも休日その他労働義務の課せられていない日については、時季指定権を行使する余地がないと考えられています。行政通達でも、育児休業をした日の取り扱いに関するものですが、次のような解釈が示されています(平3.12.20基発712)。すなわち、年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はない。また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協定に基づく計画的付与が行なわれた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日にかかる賃金支払日については、使用者に賃金支払の義務が生じるとするものです。
4 ご質問事項に対する検討
 本来年休については、日曜日などの休日のほかに毎年一定の年休を与えることにより、労働者の心身のリフレッシュ等を図ることを目的とするもので、上記の通達にもあるとおり、労働義務のある日について請求することが前提と考えられます。したがって、今回のご質問にあるように、使用者の責に帰すべき事由による休業期間、あるいは不可抗力的な事由による休業期間については、それらの事由によって既に労働義務のない状態が確定しているのであれば、当該日にさらに労働義務を免除する年休の申請に応じる必要はないと考えます。
 ただし、当該日について、本人がこのような休業になることを予知しないときに年休を請求し、これに対する使用者からの時季変更権の行使がなかった場合には、年休は有効に成立することとなり、当該労働者については年休として取得させる(100%の賃金を支払う)必要があるものと考えます。
5 年休の振替えについての検討
 休業手当を支払われる場合と年休を取得した日の賃金について比較すると、通常、年休を取得した日の賃金は、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、平均賃金または所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、もしくは労使協定によって健康保険法に定める標準報酬日額に相当する金額を支払うこととなりますが(労基法39条6項)、今回のように、使用者の責に帰すべき事由による休業期間中の賃金は、労基法上は平均賃金の60%以上を支払うことで足りますので、労働者にとっては,100%の賃金が支払われる年休取得が認められたほうが有利といえます。
 このため、休業日の任意の日と、100%の賃金収入が保障される年休との振替えを求める労働者が出てくることも考えられます。このようなことは、今回のケース以外でも、産前・産後休暇、育児・介護休暇、生理休暇、争議行為参加などの場合でも想定されることですが、100%の賃金取得を求める労働者の求めに応じて、任意に個別的に振替えを認めることは自由と考えられています(岩出誠著『実務労働法講義』第3版上巻453頁以下参照)。なお、会社都合による休業のように、労基法第26条により定める休業手当が支給されなければならない場合について、これを年休と振り替えた場合は、当該労働者については賃金が100%支払われる結果、別に休業手当を支払う義務を免れるものと考えられます(厚生労働省労働基準局編「改定新版 労働基準法 上」<労務行政>566頁参照)。
6 補足
 なお、ご質問で、事業所閉鎖の1カ月後をもって当然に会社都合退職となるかには問題があることは指摘しておきます(岩出・前掲書下巻1105頁以下参照)。

対応策

会社の対応としては、回答のとおりですが、補足で指摘したように、事業所閉鎖の1カ月後をもって、当然に会社都合退職となるかについては、使用者側の事業場の都合を理由とし、解雇される労働者の責めに帰することができないのに、一方的にその収入の手段を奪い、労働者に多大な不利益を及ぼすものであるところから、整理解雇の適法性については別途検討の余地があります。ご質問のケースでは、「複数の事業所閉鎖により、他事業所への異動等、雇用継続のための措置を可能な限り講じ」るとのことですが、本件における人員整理の前に、希望退職を募ることもなく、役員・管理職等の賃金カット等の他の手段を試みず、いきなり整理解雇を行った場合には、整理解雇4要件(又は4要素)や総合考慮説等の整理解雇制限法理に照らして、解雇に「客観的合理性なし」として無効と判断される危険性があります。人員削減の経営上の必要性に加え、従業員への説明、役員や管理職の賃金カット、希望退職を募るなどの行為は解雇回避努力義務履行の一要素となり得ますので、まずはそれらの検討を先になすべきであると考えます。

予防策

 年次有給休暇は、原則として労働者が指定した時季に与えなければなりませんが、労働基準法第39条第5項では、使用者は、労働組合または労働者の過半数代表者との書面による協定によって、年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について有給休暇を与えることができるとする計画年休制度を定めています。
 このような計画年休の採用は義務ではありませんが、退職前の集中的消化での引き継ぎ不良や、閑散期に休ませ繁忙期に働いてもらい、健康への配慮にも資するものですから、年休の取得率を向上させる(結果として年休を貯めない)ためにも、制度の利用をご検討下さい。

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