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執行役員の海外出向

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
弁護士 竹花 元(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2011年01月:掲載

執行役員の海外出向

執行役員を当社の海外現地法人に出向させ、その法人の取締役に就任させることを検討しています。執行役員を出向させて出向先の取締役にすることは可能なのでしょうか。また、出向先が海外である場合に特に注意すべき点はありますか。

出向させることができるかについて、就業規則等を確認したうえで、海外での労災に備えて、「海外派遣者特別加入制度」を利用するべきです。

1 執行役員と会社の契約関係
日本の会社では、大企業を中心に「執行役員」という立場で会社に所属している場合があります。この執行役員制度は、会社法等に基づく法的制度ではないため、執行役員の法的地位は、各社の規程により、委任契約と定められている場合もあれば、労働契約と定められている場合もあります(この点、取締役・執行役と会社との関係が委任契約であることは、会社法に明定されています(会社法330条、402条3項))。
ただし、執行役員と会社との関係が、就業規則では「委任契約」と規定されていても、委任としての実態(業務遂行の自主性、独立性等)を備えていない場合、契約の名称が「委任契約」であっても、会社と執行役員との法律関係は労働契約であると判断されることがあります。そうすると、代表取締役・代表執行役(CEO)等の業務執行権限を有する者等の指揮命令の下で、企業組織の中で諾否の自由なく業務を執行する執行役員は、労基法及び労契法上の労働者に該当すると考えられています(詳細は岩出誠「実務労働法講義(第3版〕」<民事法研究会平成22年>(上)38頁以下参照)。
たとえば、就業規則において、「会社と執行役員との関係は委任契約による」と明記してあっても、就業規則の他の条項において、「執行役員は、分掌する業務の担当取締役、代表取締役及び取締役会の指揮監督に服する」と定めてあるとします。このとき、就業規則によれば、執行役員は、代表取締役等の業務執行権限を有する者の指揮命令の下にあり、さらには、通常の担当取締役の指揮命令にも服していることは明らかです。
最終的には、執行役員が代表取締役等の指揮命令下にあるといえるか、諾否の自由があるか否かを、実態に即して判断することになりますが、就業規則において上述のように定められていながら、執行役員に諾否の自由があるとは考えにくいと思われます。そうすると、実態も、執行役員は代表取締役の指揮命令の下にあり諾否の自由はなく、結局のところ、会社と執行役員との関係は労働契約関係にあると判断される可能性が高いものと考えます。
2 出向先で取締役に就任する場合
以上より、執行役員についても、労働者である場合には、通常の従業員と同様に出向させることができます(ただし、出向命令の有効性については、労契法14条により、①出向命令権の存在、②権利濫用の非該当という2段階のチェックがなされることに注意してください。)。
さらに、本件では、出向先の「役員」に就くという特殊な事情があります。このような場合について、未だ裁判例はないものの、取締役と会社との関係は、忠実義務・競業避止義務・利益相反取引の制限などがあり、取締役は種々の規制に服することを理由として、通常の出向よりも少し厳格に、出向について対象者の同意を要求する考え方も存在します。しかし、取締役としての責任は、会社役員賠償責任保険等でカバーされる部分があり、役員の関与の程度等も影響することから、一律には論じられません。そこで、「出向先の役員に就く」という事情は、出向の有効性判断(上述した①出向命令権の存在、②権利濫用の非該当)の枠内における②権利濫用性の該当要素として考慮すれば足りると考えます(詳細は岩出・前掲書(上)588頁)。

対応策

本件は「出向先の役員に就任させる」ということですが、役員ではなく通常の労働者として海外出向させる場合については、労災との関係で、使用者が注意しておくべき事項があります。すなわち、日本の労働者が海外で就労する場合、企業は事前に「海外派遣者特別加入制度」に加入の手続をとっておかなければ労働者が労災保険給付を受けられない可能性があります(労災保険法34条7号、36条)。海外で業務中の社員が現地で労働災害にあった場合に労災給付を受けられるか否かは実務上よく相談を受けることがあります。裁判例では、国・淀川労基署長(商工経営センター・中国共同事務所)事件(大阪地判平19・7・4労判943号98頁)が、「海外で業務に従事する者が、海外派遣者の特別加入の手続を経ずに、労災保険の適用対象になるか否かは、国内の事業に所属し、その使用者による指揮監督の下で海外の業務に従事していたか否かによって判断されるのが相当であり、その判断は、業務従事者の勤務実態及び諸般の事情を綜合考慮して行うのが相当である」と判示しました。 そして、「海外出張」ではなく(この場合は通常の労災保険の対象になる可能性があります)、海外へ「出向」させるのであれば、労災給付の対象とするためには、海外派遣者特別加入制度を利用することが必要となります(詳細は岩出・前掲 (下)1401頁以下)。

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