法律Q&A

分類:

合併と労働契約関係の承継

弁護士 岩出 誠 2008年 5月:掲載
弁護士 鈴木 みなみ 2016年10月:補正

合併の場合、吸収合併と新設合併があると聞きましたが、いずれの場合も、就業規則等の労働契約関係や、労使関係、特に、労働協約や団交当事者、争議行為の相手などで何か変化があるのでしょうか?

A社は、B社と合併して、C会社となることになりました。AB両社にはa、b各労働組合があり、AB両社の就業規則にも差があります。そこで、合併の場合、吸収合併と新設合併があると聞きましたが、いずれの場合も、C社における、AB両社の就業規則等の労働契約関係や、ab労組との労使関係、特に、労働協約や団交当事者、争議行為の相手などで何か変化があるのでしょうか?

原則的には、合併の場合、就業規則等の労働契約関係や労働協約は消滅会社から存続会社・新設会社に承継されます。また、合併手続中に消滅会社の労働組合に対して存続会社・新設会社が支配介入や団交拒否などの不当労働行為上の使用者として、ひいては争議行為の対象としての責任などを負うこともあり得ます。

1. 合併における権利義務の承継の特徴(包括承継)
 合併においては、吸収合併と新設合併のいずれにおいても、合併の効力発生のときに現に存在する消滅会社のすべての権利義務は、存続会社(九州合併の場合)または新設会社(新設合併の場合)に包括的に承継されます(会社法750条1 項、756条1項等。菅野和夫「労働法」第11版717頁以下、拙著『労働法実務体系』785頁以下(民事法研究会、2015)等参照)。
2.合併における労働契約の承継について
(1)労働契約の承継について

 前述の通り、合併において、合併の効力発生時に現に存在する消滅会社のすべての権利義務が、存続会社または新設会社に包括的に承継されるため、消滅会社の全労働者の労働契約上の地位と内容(労働条件を含む。)も存続会社または新設会社に包括的に承継されます。また、民法625条1項の適用が排され、承継に際し、労働者の個別の同意は不要です。裁判例や学説も同様の考え方に立っています。なお、合併による承継を望まない労働者が労働契約解約(辞職)の自由を持つのは勿論です。

 しかし、実務的には、上記のように何らの手当もせずに合併を実行すれば、C社において、AB両社の就業規則に基づく複数の制度が併存する事態を迎え、人事管理上様々な困難を来すおそれがあります。そこで、合併の効果発生前に、合併契約の締結と並行して、合併の効力発生時に合わせてC社内が統一的な労働条件となるような労働契約や労働協約を締結する必要があります。具体的には、労働者の個別の同意を得る方法またはAB労組との労働協約における労働条件に関する条項(いわゆる規範的部分)を改正する方法等により、労働契約内容を合併の効力発生を停止条件として変更することを決めておくことによって合併の効力発生と同時に労働契約の内容が変更されることになります。注意すべき点は、この契約等は、あくまで合併とは別個の法律行為であり、合併によって当然にC社の労働条件の統一化がなされることにはなりません。

(2)合併における労働契約の承継の問題点等

 前述の通り、合併においては、民法625条1項の適用が排されるため、本人の意向にかかわらず、すべての労働者が承継されます。そのため、吸収合併の場合や新設合併の場合の消滅会社の労働者は、存続会社または新設会社にしか労働者の雇用を求めることができず、雇用継続という点において、合併自体から実質的に「承継される不利益」が生ずる場合はほとんど想定されません。

 また、すべての権利義務が包括的に承継されることから、前述の特別の合意なくしては、消滅会社の全労働者の労働契約も承継されるため、合併自体からは、「承継されない不利益」が生ずる場合も想定されません(石井照久「新版労働法」(第3版)217頁は、合併に当たり人員整理があり得るとしていますが、それは合併自体からの当然の効果ではありません。)。

 さらに、事業や労働契約を含めすべての権利義務が包括的に承継されることから、労働者において、これまで従事していた職務に継続して従事することが十分可能であるため、合併自体から個々の労働者が従事していた職務と切り離されてしまう等の事態が起こる場合もほとんど想定されません。

 以上のとおり、合併それ自体によっては、労働者に不利益が生ずる場合はほとんど想定されません。

3. 合併における労働協約の承継について
 次に、合併においては、すべての権利義務が包括的に承継されるため、消滅会社の労働協約はその内容を維持したまま存続会社又は新設会社に承継され、労働者にとって不利益が生ずる場合は想定されません。また、消滅会社の労働協約が承継されることから、存続会社や他の消滅会社に労働協約が締結されている場合、存続会社または新設会社に2以上の労働協約が併存することとなると解され、実務においても、前述の特別な労働協約の改正が実現できない場合には、このような事例がしばしば見られるところです。
4. 当面の立法措置は予定されていません
 会社分割の場合と異なり(9-6-10参照)、合併に伴う労働関係の承継については、包括的に承継されることが現行法制において明確であり、かつ、2、3に記載したとおり、理論的には合併自体から労働者に不利益が生ずる場合はほとんど想定されないため、会社分割におけると同様な立法措置は見送られました。
5.就業規則及び労働協約の統一
(1)合併前の統一的労働条件の実現の方法

 しかし、合併の一般的な目的である経営基盤・競争力の強化、AB両社の経営資源の合理的再配分等の経営の効率化、合併後の円滑なC社の運営実現のためには、前述のような事前の個別合意だけではなく、就業規則や労働協約の内容の統一が不可欠です。そのためには、まず、ab各労組との労使協議において、紛争解決のための平和条項等を含めた労働協約等の締結を目指すことになります。この交渉は、正に話し合いによるもので、労使双方の納得が行くような誠意ある労使協議が期待されます。

(2)合併前の存続会社相手の集団的関係

 労働組合法上の使用者は、直接の雇用関係に限定されません。例えば、朝日放送事件判決・最三小判平7.2.28民集49巻2号559頁は、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の具体的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主、労組法7条の使用者に当たると判示しています。そのため、近い将来における労働契約関係の可能性ある者も労組法7条の使用者に当たる可能性があります。例えば、合併の過程で吸収会社・存続会社が消滅会社の従業員を組織する労働組合に支配介入を行なった場合には、吸収会社・存続会社も使用者として不当労働行為責任を負担することはあり得ます(棄却例ではありますが、この可能性を説示する日産自動車事件・東京地労委昭41.7.26命令集34=35集365頁参照)。同様な事態は、団体交渉についてもあり得るでしょうし、引いてはその延長として争議行為についてもあてはまるものと解されます。

(3)合併後の就業規則の改正による労働条件の統一

 合併前の労使協議が整わず、合併後に労働条件の統一化を図る際に、就業規則の改正による労働条件の不利益変更の問題を生じる場合があります。その場合の不利益変更が有効とされた大曲市農協事件(最三小判昭63.2.16民集42巻2号60頁)では、「従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に、労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高い」と指摘されています。実務的にも、この事件で問題とされている次の諸要素を参考に、その統一化が図られることが必要でしょう。

 この事案では、合併後の退職金の支給倍率自体は低減されているものの、給与額は相当程度増額され、実際の退職時の退職金額は見かけほど低下しておらず、調整給与の支給などにより労働者の不利益の程度が相対的に少ないのに対し、前述の合併に伴う統一化の必要性が高く、会社側も労働条件の統一化のため合併前から調整について折衝を重ね協議を尽くしている上、合併前に比べて、定年の延長、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱い等の代償措置も提供されていること等に照らし、「不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと」、改正された就業規則は、合理性があり有効とされました。 (なお、この事案は、労働契約法施行前の判例であり、現在は、同法10条・11条によって就業規則の不利益変更の適法性が判断されますが、同条等は基本的に上記各判例法理に何らの変更を加えるものでないことが国会答弁や厚労省の通達でも確認されており、現在でも参考となるものです(契約法全体の逐条解釈に関しては、拙著『労働契約法って何?』(労務行政研究所、2008)、厚生労働省の通達「労働契約法の施行について」平成20年1月23日基発第 0123004号等参照)。)

 そのほか、合併後の不利益変更が有効とされた裁判例としては、クリスタル観光バス(賃金減額)事件・大阪高判平19・l・19労判937号135頁〔無効例〕宮古島市社会福祉協議会事件・那覇地判平20. 10・22労判979号68頁/日本郵便輸送(給与規程変更)事件・大阪高判平24.4・12労判1050号5頁などがあります。

対応策

理論的には上記2及び3のとおりとなります。しかし、実務的には、合併前の労使の誠意をもった協議により、AB両社の就業規則、労働協約などを統一・調整しておくことが望まれます。調整未了のままに合併となった場合にも、労働条件の統一的画一的処理の要請が重要な要素となり、一定の労働条件の不利益変更も、不利益の程度、代償措置等との関係でその有効性が認められる可能性があります。

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