法律Q&A

分類:

会社分割と社会保険、年金等の関係

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

会社分割に伴う労働契約承継法による転籍に伴って発生する社会保険等の問題はどうなるのでしょうか?

A社は会社分割により、そのA1事業部門を新設するB社に承継させようと考えています。その際、分割に伴い、厚生年金基金や、適格年金制度などはB社の規模などによって影響を受けないのでしょうか?

回答ポイント

厚生年金基金や健康保険組合に関しては、新しい基金・組合の設立や規約の改正の必要があり、適格年金などに関しても基本的に承継・維持されますが、分割によって規模の縮小・業種転換がある際などには、各基金・組合・年金等の要件を欠く場合などの問題が起こる場合もあります。
解説
1.転籍に伴う社会保険の問題
(1)社会保険等の問題の存在
 別の個所でも言及しましたが(労働協定・労使委員会決議・労使協定・就業規則[実務編]Q5参照)、分割に独自の問題ではありませんが、分割に伴う重要な問題として、社会保険の承継関係の問題が起こる場合があります。

 例えば、A分割会社とB設立会社等が同じ健康保険組合や厚生年金基金に属することができれば、あるいは、AB各社がそれ自身で基金や組合を設立できる大企業なら、事務的手続以外には問題は少ないでしょう。しかし、後者の場合にも保険関係の承継関係に関する手続が必要となります。

 又、分割によりいずれかの会社が各基金や組合の加入要件を欠くことになる場合には、規約等の改正をするなどして対応したり、他の基金や健保組合に加入しないと、双方又はいずれかが人数要件等により基金等の利益を受けられず、健康保険も政府管掌健保に加入せざるを得ないことが起こります。この場合、労働者個人負担分が上昇する場合があり、これらへの手当ての有無・要否・程度・内容が検討されなければなりません。

(2)承継指針における厚生年金基金の処理
 これらの点につき、承継法第8条に基づく「分割会社及び設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」労働省告示平成12年127号(以下、承継指針といいます)は、例えば、厚生年金と健康保険について、以下の通り指摘しています。即ち、 厚生年金基金(以下この(1)において「基金」という。)は、厚生年金保険法第9章第1節の規定に基づき、任意に設立される法人であり、会社分割がされても、当然には分割会社の雇用する労働者を加入員とする基金から承継会社等の雇用する労働者を加入員とする基金に変更されるものではありません。

 この場合において、基金の加入員たる分割会社の雇用する労働者であってその労働契約が承継会社等に承継されたものに対する基金が支給する年金又は一時金たる給付を継続する方法としては次のようなものがありますが、いずれも基金の規約の変更又は基金の分割若しくは新設が必要なため、主務大臣の認可が必要となるものであります。

a 吸収分割の場合

(a) 承継会社に基金がある場合
 分割会社に係る基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を会社法第2条第29号の規定による吸収分割(以下「吸収分割」という。)によって事業を承継する会社(以下「承継会社」という。)に係る基金に移転させる方法又は分割会社に係る基金と承継会社に係る基金が合併する方法

(b) 承継会社に基金がない場合
 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、承継会社を当該基金の設立事業所に追加する方法又は承継会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法

b 新設分割の場合

(a) 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、会社法第2条第30号の規定による新設分割(以下「新設分割」という。)によって設立する会社(以下「設立会社」という。)を当該基金の適用事業所に追加する方法

(b) その労働契約が設立会社に承継される労働者に関して分割会社に係る基金を分割し、設立会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法
 なお、承継会社が企業年金基金を設立している場合には、分割会社に係る厚生年金基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を当該企業年金基金に移転することが可能です。

(3) 基金型企業年金
 確定給付企業年金のうち基金型企業年金は、確定給付企業年金法第2章第3節の規定に基づき任意に企業年金基金を設立して実施するものであり、基本的には上記(1)の厚生年金基金の場合と同様の対応となります。

 なお、確定給付企業年金のうち規約型企業年金については、分割会社以外の第三者がその全部又は一部を実施している場合に該当せず、当該規約型企業年金の内容である給付の要件、水準等を規定する規約が労働協約に該当する等その給付の支給に関する権利義務が労働契約の内容となっている場合には、会社分割によって分割会社から承継会社等に労働契約が承継される労働者の給付に関する権利は、労働条件として維持されます。

 また、承継会社が厚生年金基金を設立している場合には、分割会社に係る確定給付企業年金の加入者の年金給付等の支給に関する権利義務を当該厚生年金基金に移転することが可能です。

(4) 健康保険組合
 健康保険組合は、健康保険法第2章第2節の規定に基づき対象事業所を基礎として任意に設立される法人であり、基本的には上記(1)の厚生年金基金の場合と同様の対応となります。

2  分割に伴う財産形成貯蓄契約等の問題
 財産形成貯蓄契約等(財産形成貯蓄契約、財産形成年金貯蓄契約及び財産形成住宅貯蓄契約をいう。以下同じ。)は、勤労者と金融機関等が当該勤労者の財産形成に関し締結する契約であり、その契約の締結の際勤労者は、勤労者財産形成促進法第6条第1項第1号ハ等により事業主と賃金控除及び払込代行について契約を締結するものとされており、当該契約は、労働契約の内容である労働条件として維持されます。したがって、会社分割によって分割会社から承継会社等に労働契約が承継される場合、当該契約に基づく賃金控除及び払込代行を行う義務も承継会社等に承継されることとなるため、当該承継される労働契約に係る労働者は、当該財産形成貯蓄契約等を存続させることができます。なお、この場合、当該承継会社等の事業場において労働基準法第24条第1項の労使協定があることが必要となります。また、承継会社等は金融機関等との間で所定の手続を行う必要があります。
3  分割に伴う中小企業退職金共済契約の問題
 中小企業退職金共済契約は、中小企業退職金共済法第2章の規定に基づき、中小企業者(共済契約者)が、各従業員(被共済者)につき、独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「機構」という。)と締結する契約であり、当該中小企業者が機構に掛金を納付し、機構が当該従業員に対し退職金を支給することを内容とするものであります。また、当該従業員が機構から退職金の支給を受けることは、当該中小企業者と当該従業員との間の権利義務の内容となっていると認められ、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであります。また、会社分割により事業主が異なることとなった場合であっても、当該会社分割によって労働契約が分割会社から承継会社等に承継される従業員について、共済契約が継続しているものとして取り扱うこととなります。なお、この場合、承継会社等は機構との間で所定の手続を行う必要があります。
4 分割に伴う社宅の貸与制度、社内住宅融資制度等の福利厚生に関するものについて
 社宅の貸与制度、社内住宅融資制度等の福利厚生に関するものについても、労働協約又は就業規則に規定され制度化されているもの等分割会社と労働者との間の権利義務の内容となっていると認められるものについては、労働契約の内容である労働条件として維持されます。この場合、その内容によって承継会社等において同一の内容のまま引き継ぐことが困難な福利厚生については、当該分割会社は、当該労働者等に対し、効力発生日以後における取扱いについて情報提供を行うとともに、承継法7条及び商法等改正法附則5条の労使協議等により、代替措置等を含め当該労働者との間の協議等を行い、妥当な解決を図るべきものであります。

対応策

以上によれば、社会保険、年金、福利厚生等の処理については、「回答」の通りとなります。

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