法律Q&A

分類:

会社分割の際の労働者の理解・協力取得努力義務の内容

弁護士 織田 康嗣(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2018年10月補正:掲載

分割手続の円滑な実現のための分割会社の労働者の理解・協力取得努力義務とはどんなものでしょうか?

A社は会社分割により、そのA1事業部問を新設するB社に承継させようと考えています。その際、法律によって、分割手続の円滑な実現のためのA社の労働者の理解・協力取得努力義務があると聞きましたが、それはどのようなもので、どのように実行すれば良いのでしょうか?

回答ポイント

 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第7条により、分割会社は、会社分割に当たり、労働者の理解と協力を得るように努めなければならないとされています。
 具体的には、その全ての事業場において、当該事業場に労働者の過半数を組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(過半数組合がない場合には過半数代表者)との協議その他これに準ずる方法によって行い、①会社の分割を行う背景及び理由、②効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項、③労働者が承継対象事業に主として従事する労働者に該当するか否かの判断基準、④労働協約の承継に関する事項、⑤会社分割に当たり、労働者との間に生じた問題の解決手続について、労働者の理解と協力を得ることに努める必要があります。なお、この手続は、遅くとも5条協議の開始までに開始する必要があります。
解説
1.7条措置の趣旨
 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下、「承継法」といいます)第7条において、「分割会社は、当該分割に当たり、厚生労働大臣の定めるところにより、その雇用する労働者の理解と協力を得るように努めるものとする。」と定められています。

 会社分割は、当該分割会社の全労働者に少なからず影響を与えることになりますから、労働者保護の観点から、個別の労働者との協議である5条協議とは異なり、全労働者を対象にして、7条措置を行うことが義務付けられています。

2.7条措置の具体的方法
 7条措置は、分割会社が、その全ての事業場において、当該事業場に労働者の過半数を組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(過半数組合がない場合は過半数代表者)との協議その他これに準ずる方法によって行う必要があります(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則(以下、「承継規則」といいます)第4条)。
 前記のとおり、7条措置は全労働者を対象に行う必要がありますが、その方法については、5条協議とは異なり、個々の関係労働者ではなく、事業場の過半数代表者をもって足りることとされています。
 そして、7条措置の具体的方法ですが、「分割会社及び設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(以下、「承継指針」といいます)において、以下の通り、その詳細が定められています(承継指針第2の4(2))。
(1)「その他これに準ずる方法」の内容
 7条措置は、協議その他これに準ずる方法によって行うとされていますが(承継規則4条)、この「その他これに準ずる方法」の内容には、名称の如何を問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち、誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれます。
(2)理解・協力取得の対象事項
 分割会社がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、次のようなものがあります。
 ①会社の分割を行う背景及び理由
 ②効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
 ③労働者が承継対象事業に主として従事する労働者に該当するか否かの判断基準
 ④労働協約の承継に関する事項
 ⑤会社の分割に当たり、分割会社又は承継会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続
 ここに掲げたものはあくまで例示であって、分割会社がその雇用する労働者と7条措置が必要と認められる事項が他にある場合には、その事項についても、当該労 働者に対して7条措置を行うよう努めることが必要だとされています(厚労省「会社分割・事業譲渡・合併における労働者保護のための手続に関するQ&A(以下、「Q&A」といいます)」Q9参照)。
 なお、上記⑤の協議対象事項にいう「労働関係上の問題」について、「Q&A」Q12によれば、次のものが該当するとしています。
 ①主従労働者に該当するか否かの判断に関し、労働者と分割会社との間で見解の相違が生ずること
 ②分割会社と労働者との間の権利義務の内容となっていると認められる福利厚生については、分割後も労働契約の内容である労働条件として維持されるが、実際には設立会社等において同一のまま引き継ぐことが困難な福利厚生について、代替措置等を含め協議すること
 ③労働契約の内容である労働条件として維持されない恩恵的性格を有する福利厚生についての、会社分割後の取扱い
 ④分割会社以外の第三者が、各法令の規定に従い福利厚生の全部又は一部を実施している場合の、会社分割後の当該福利厚生の取扱い
(3)労働組合法上の団体交渉権等
 分割会社は、会社分割に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法6条の団体交渉の対象事項については、分割会社は、承継法7条の手続が行われていることをもって労働組合による当該分割に係る適法な団体交渉の申入れを拒否できません。
 また、団体交渉の申入れがあった場合には、分割会社は、その労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければなりません。
 さらに、承継指針によれば、団体交渉に応ずべき使用者の判断に当たっては、最高裁の判例や裁判例の蓄積に留意すべきとされています(承継指針第2の4(2)ハ)。
 すなわち、朝日放送事件(最三小判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)では、「雇用主以外の事業主であっても...その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」には、その限りにおいて、使用者に当たると解されています。
(4)開始時期等
 7条措置が、5条協議と密接な関係を有していることを考慮すれば、遅くとも5条協議の開始(分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日)までには、労働組合との協議に着手する必要があります。
 なお、労働組合等との協議は、会社分割に当たり分割会社と労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題について協議を通じて解決を図るものであることから、当該協議は、必要に応じて複数回行われる必要があります(「Q&A」Q13参照)。
(5)その他の留意事項
 会社分割に伴う労働組合法上の不当労働行為責任および使用者の地位が、承継会社等に承継されるとする裁判例や中央労働委員会の命令があることに留意すべきとされています。
 会社分割により、分割会社は、承継会社等の労働者との雇用関係は無くなり、原則的には団交応諾義務の前提として雇用関係の存在が必要とされていることから、通常の場合には、分割会社が承継会社等の労働者の問題について、団交応諾義務を負うことはありません(岩出誠『労働法実務大系』(民事法研究会・平成27年)784頁)。
 しかしながら、例外的に分割会社が承継会社等の組合に関して直接に団交応諾義務を負う場合があり、国・中労委(モリタほか)事件(東京地判平成20年2月27日・労判967号48頁)では、「本件会社分割前後で法人格に何らの変動もないM社と...分会員との間に、本件会社分割前において労働契約関係が存在し、しかも組合事務所等の貸与問題も、このような労働契約関係が存在していた時期において生起したものである以上、会社分割後の法律関係の変動を理由として、新M社が...分会員に対する関係で使用者たる地位を失うことはない」としています。

3.7条措置違反の効果等
 7条措置の意義やその違反の効果について、日本IBM事件(最二小判平成22年7月12日・労判1010号5頁)では、「分割会社は、7条措置として、会社の分割に当たり,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとされているが(承継法7条)、これは分割会社に対して努力義務を課したものと解され、これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由になるものではない。7条措置において十分な情報提供等がされなかったがために5条協議がその実質を欠くことになったといった特段の事情がある場合に、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題になるにとどまるものというべきである」とされています。
 なお、7条措置では、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めなければなりませんが、協議事項について必ずしも合意を得ることまでは求められていません(「Q&A」Q11参照)。

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