法律Q&A

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会社分割の際の通知義務違反の効力

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

会社分割の際に分割会社に義務づけられている労働者・労働組合への通知がなされなかったらどうなるのでしょうか?

A社は会社分割により、そのA1事業部門を新設するB社に承継させようと考えています。その際、法律によって、労働者及び労働組合への通知義務があると聞きましたが、それはどのようなものでしょうか?又、これに違反した場合はどのようなことになるのでしょうか?

回答ポイント

 承継法に基づく労働者又は労働組合への通知については、承継法2条第1項の規定による通知をすべき日(以下「通知期限日」という。)になされることが望ましいとされ、その書面による通知には、承継される事業の概要等承継規則所定の事項を掲載しなければなりません。通知義務違反の法的効果については、労働者への通知義務違反に関しては、承継指針が、承継事業主要従事労働者でありながら、通知を適法に受けなかった場合は、当該労働者は、当該分割後においても、当該承継会社等に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができるなど、一定の基準を示していますが、労働組合への通知義務違反の効果に関しては明確になっていません。
解説
1.通知の時期
 承継法第2条第1項及び第2項の労働者又は労働組合への通知について、承継法第8条に基づく「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」労働省告示平成 12年127号・改正18・4・28厚労告343号(以下、承継指針といいます)によれば、各通知は、次に掲げる会社法(平成17年法律第86号)に規定する日のうち、株式会社にあっては、イ又はロのいずれか早い日と同じ日に、合同会社にあっては、ハと同じ日に行われることが望ましいとされています。

  吸収分割契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置く日
  株主総会を招集する通知を発する日
  債権者の全部又は一部が会社分割について異議を述べることができる場合に、当該分割会社が、会社法に掲げられた事項を官報に公告し、又は知れている債権者に催告する日

 なお、承継法第2条第1項及び第2項の通知を郵便等により行う場合は、民法第97条第1項により、相手方に到達した時よりその効力が生ずることになりますので、承継法第2条第3項に規定する通知期限日までに当該労働者又は労働組合に到達する必要があります。この場合、承継法第4条第2項(第5条第2項において準用する場合を含む。)の「通知がされた日」とは、「通知が相手方に到達した日」をいうものであります(承継指針)。

2.労働者への事前通知義務
(1)承継法上の定め
 分割しようとする会社(以下、分割会社)は、分割をするときは、a「承継事業に主として従事するもの」として省令(平成12年12月27日労働省令48 号・改正平成18・4・28厚労令116号・会社分割に伴う労働契約の承継に関する法律施行規則。以下、承継規則という)第2条で定めるもの(以下、承継事業主要従事労働者)と、bそれ以外の者の内、分割契約等にその者が当該分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の記載があるもの(bを指定承継労働者という)に対し(判断基準に関しては企業組織の変動と労働関係[実務編]Q6参照)、承継法2条第1項の規定による通知をすべき日(以下「通知期限日」という。)までに、その分割に関し、分割会社がその労働者との間で締結している労働契約をその分割によって設立し、又は事業を承継する承継会社等が承継する旨の分割契約等中の記載の有無、転籍拒絶等に対する異議申出期限日(同法第4条第1項)その他、省令で定める後記(2)の事項を書面により通知(個人宛分割通知)しなければなりません。

(2)承継規則の定める「事前通知事項」の範囲

 即ち、「事前通知事項」の範囲・内容については、上記承継法自体の定める外に、承継規則第1条で以下の事項を追加しましたので、少し説明を加えつつ説明しておきます。

 a. 通知の相手方たる労働者が承継法第2条第1項各号の「承継される事業に主として従事する者」(承継事業主要従事労働者)かそれ以外(指定承継労働者)のいずれに該当するかの別。なお、分割会社が通知を行う労働者は、当該分割会社が雇用する労働者の内、いわゆる正社員に限らず、短時間労働者等を含みます(承継指針)。

 b.承継される事業の概要 (その範囲は会社法により分割契約等に記載された事項となりますが、これは承継事業主要従事労働者の具体的範囲を決定する際に重要となります)

 c.分割効力発生日以後の分割会社及び承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数

 d.分割の効力発生日(これが同時に転籍の効果の発生日ともなります)

 e.分割後の分割会社又は承継会社等において当該労働者について予定されている従事する業務の内容、就業場所その他の就業形態 (原則としては、後述の通り、特段の合意や異動の命令なき限り、分割前の場所等となります)

 f. 分割後の分割会社及び承継会社等のそれぞれがその負担すべき債務の履行の見込みがあること(特に、リストラがらみの会社分割においては、後述の異議申出権のある労働者にとって、その行使をするか否かの大きな要素となるでしょうし、後述の労働者との協議や、労働組合との協議や団交においても重要なテーマとなるでしょう。*)

 g.承継法第4条第1項(承継事業主要従事労働者が分割会社に残留を定められた際の承継会社等への転籍請求)又は同法第5条第1項(指定承継労働者が承継会社等への転籍を定められた場合の分割会社への残留請求)の異議がある場合はその申出を行うことができる旨及び異議の申出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び所在地又は担当者の氏名、職名及び勤務場所(各労働者の異議の取扱いについては後述します)*実務編Q5参照

(3)労働者への「事前通知」の法的意味・通知義務違反の効果等

 ここでの「事前通知」は、後述の転籍又は残留への異議申出期限日(同法第4条第1項)との関係などで重要な意味を持ってきます。そこで、この事前通知義務違反の法的効果について承継指針は以下のような基準を示しています。

 a.承継事業主要従事労働者への事前通知義務違反の場合
 承継事業主要従事労働者でありながら、分割契約等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の記載がないものが、承継法第2条第1項の会社分割に関する前述の事項を含む事前「通知を適法に受けなかった場合(当該分割会社が当該労働者を当該承継される事業に主として従事していないものとして取り扱い、当該通知をしなかった場合のほか、意図的に当該通知をしなかった場合を含む。)は、当該労働者は、当該分割後においても、当該承継会社等に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができ、また、当該分割会社に対してその雇用する労働者ではないことの確認を求めることができる」とされています。
 事前通知義務違反の法的効果については、承継法自体は触れていませんでした。そこで、承継法の解釈論として、従前から、例えば、承継事業主要従事労働者について、分割による自動的な転籍効果があるのか、という問題に関しては、労働者保護の観点からの会社分割法制の特例を定める承継法の立法趣旨からすれば、非承継事業主要従事労働者と同様の異議申出権が上記期限にかかわらず認められるなどが考えられていましたが(例えば、拙稿「労働契約承継法の実務的検討」<上>商事法務1570号9頁等参照)、指針はほぼ同様の立場を採用したものと解されます。

b.指定承継労働者への事前通知義務違反の場合
 a指定承継労働者が承継法第5条第1項に基づき分割会社への残留の異議の申出をした場合に、「当該分割会社が当該労働者を当該承継される事業に主として従事しているため当該労働者に係る労働契約を承継会社等に承継させたものとして取り扱うとき」、又は、b指定承継労働者が承継法第2条第1項の会社分割に関する前述の事項を含む事前通知を適法に受けなかった場合、「当該労働者は、当該分割後においても、当該分割会社に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができ、また、当該承継会社等に対してその雇用する労働者ではないことの確認を求めることができる」とされています。
 この点も、従前から、事前通知義務違反がある場合につき、指定承継労働者の異議申出権についても、異議申出期限にかかわらず分割会社への残留効果が認められるなどの見解が考えられていましたが(例えば、荒木尚志「合併・事業譲渡・会社分割と労働関係」ジュリスト1182-23、拙稿・前掲商事法務 1570-9等参照)、指針はほぼ同様の立場を採用したものと解されます。

3.労働組合への事前通知義務
(1)承継法上の定め

 分割会社は、労組法第2条の定める労働組合(労働組合)との間で労働協約を締結しているときは、その労働組合に対して、分割契約等を承認する株主総会等の会日の2週間前までに、分割に関し、労働協約を承継会社等が承継する旨の当該分割契約等中の記載の有無その他労働省令で定める事項を書面により通知しなければなりません。

 通知を要する「労働組合」の意義
 ここで事前通知を要する労働組合は、労組法2条の定める労働組合です。従って、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体」(同条本文)であること、つまり、いわゆる組合の団体性と自主性等に関する実質的要件を備えていれば、その名称のいかんを問わず、すべての労働組合が対象になります。従って、労組法第2条の組合の団体性と自主性等に関する実質的要件を備えていれば、労組法第5条の、組合規約の整備等に関する、いわゆる組合の民主性に関する形式的要件を満たさない組合に対しても通知は必要となります(労働組合の結成と活動[基礎編]Q1、同[実務編]Q1参照)。

(2)労働協約を締結している場合

 事前通知が必要なのは、以上の組合が分割会社と労働協約を締結している場合です(承継指針)。ここで労働協約とは、「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したもの」(労組法第14条)のことです(労働協約・労使委員会決議・労使協定・就業活動[基礎編]Q1参照)。

 なお、以上の通り、労働協約なき労働組合への通知は、承継法上の法的義務ではありませんが、会社分割法上の労働者との協議義務や、承継法上の労働者の分割等に関する理解・協力取得努力義務(承継法第7条)の履行の実効性を高める視点からも、このような労働組合にも通知をすることが望ましい、とされています(承継指針)。

(3)「事前通知事項」の範囲

 「事前通知事項」の範囲・内容についても、承継自体は、「労働協約を承継会社等が承継する旨の当該分割契約等中の記載の有無その他」と述べるのみですが、承継規則が以下の事項を追加しています。

(4)労働者の通知義務事項の前記2(2)のb乃至dとfの各事項

 その分割会社との間で締結している労働契約が承継会社等に承継される労働者の範囲及び当該範囲の明示によっては当該労働組合にとって当該労働者の氏名が明らかとならない場合には当該労働者の氏名

 承継会社等が承継する労働協約の内容(承継法第2条第2項の規定に基づき、分割会社が、当該労働協約を承継会社等が承継する旨の当該分割契約等中の記載がある旨を通知する場合に限ります)

(5)「事前通知」制度導入の理由等

 ここでの「事前通知」は、事実上、労働組合に分割に関する団体交渉や争議行為のチャンスを与える以上には、前述の個人宛分割通知以上に、その法的意味・効果については曖昧です。

(6)「事前通知」義務違反の法的効果

 労働組合宛分割通知義務違反の効力は、承継法自体のみならず、承継規則、承継指針も明確には触れていません。例えば、承継法第6条第3項の労働協約の承継会社等への当然承継との関係などいずれも未解明の問題です。その結論は、今後の通達や判例の集積を待たざるを得ません。

 しかし、組合への事前通知義務違反の場合には、前述2(3)の労働者への事前通知義務違反の効果としての労働契約の承継関係の選択権の個別労働者への付与のような効果を想定することは困難と解されます。私見ですが、想定できるのは、別に触れた協議義務や団交義務との関係で(企業組織の変動と労働関係[実務編]Q5、Q7参照)、事前通知違反の分割の強行に対する争議行為の正当性が対抗上広く認められたり、分割の効果発生後においても、分割計画書記載事項に関する分割会社・設立会社双方との労働組合との団交義務が当然に認められる余地があることなどでしょう。又、分割会社にAB複数組合が存する場合に、A組合のみに通知をし、B組合を無視したりした場合には、公平取扱い義務違反として、支配介入等の不当労働行為とされることはあります(労働組合の結成と活動[実務編]Q4)。但し、ここでの団交義務については、組合への事前通知義務違反の有無に拘らず存在するものとも解され(企業組織の変動と労働関係[実務編]Q7参照)、複数組合の問題も分割に特殊な問題という訳ではありません。

4.不当労働行為意思に基づく配転等について
 なお、事前通知義務とは関係ありませんが、分割会社が、不当労働行為の意図をもって会社の分割後の分割会社又は承継会社等から当該労働者を排除する等の違法な目的のために、当該分割前に配置転換等を行ってはならず、このような配置転換等は無効となるものであることは当然と解されます(承継指針)。

対応策

以上によれば、「回答」の通り、承継法に基づく労働者又は労働組合への通知については、「分割契約等の本店備え置き日」又は株主総会等を招集するための通知を発する日のうちいずれか早い日と同じ日に行われることが望ましいとされ、その書面による通知には、承継される事業の概要等承継規則所定の事項を掲載しなければなりません。通知義務違反の法的効果については、労働者への通知義務違反に関しては、承継指針が一定の基準を示していますが、労働組合への通知義務違反の効果に関しては明確になっていません。

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