法律Q&A

分類:

会社分割と就業規則・労働協約の効力

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

会社分割がされた場合、今までの就業規則や労働協約はどうなるのでしょうか。

分割契約等に記述された内容によって、承継会社等に承継されます。又、承継会社等に転籍される労働者の労働条件に関する労働協約は分社についても承継されます。

1 承継会社等に転籍する労働者の労働条件に関する労働協約中の規範的部分は分割契約等に記載がなくとも当然に承継されます。
 会社分割法(会社法の分割に関する規定)のみによれば、会社分割の際に作成される分割契約等に記載されない一切の権利義務関係は、労働協約を含めて、会社分割により分社される設立会社等には承継されないことになるはずでした。

 なお、平成18年5月施行の商法の全面改正により新たに立法化された会社法は(同法による組織再編の概要については、神田秀樹「会社法」第8版286頁以下等参照)、簡易組織再編要件の緩和、略式手続の新設等により、企業再編をより機動化させており、これに伴う労働問題の発生の可能性はより高まったといえます。ただし、この点への会社法自体には特別な手当はなされていません。例えば、後述の分割に伴う労働契約の承継に関する事前協議義務や労働契約承継関係の定め、会社法の本則には組み入れられてはいません。しかし、従前の保護は新法でも前提とされています(神田・前掲書319頁)。ただし、技術的な改正の他にも、重大な変更がありますが、その点は別に論ずることにします。なお、同法の施行に伴い、労働契約承継法の正式名称が「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に改称されるとともに、各条文に会社法の施行に伴う改正がなされています(同法1条、2条、4条乃至6条の引用会社法条文の改正や、「承継される営業」が「承継される事業」に変更された同法2条、3条等。以下は、原則として、改正後の同法を「承継法」という)。そして、これに伴い同法の施行規則も改正され(以下は、原則として、改正後の同規則を「承継則」という)、「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成十二年労働省告示第百二十七号)」も改正されています(以下は、原則として、改正後の同指針を単に「承継指針」という)。

 しかし、会社分割に伴う労働契約承継法(以下、承継法といいます)は、元の会社である分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約については、労働組合の組合員である労働者と分割会社との間で締結されている労働契約が承継会社等に承継されるときは、分割の効力が生じた時に、分割契約等で特約無い限り、いわゆる債務的部分に関する労使間の合意に係る部分をも含めて、設立会社等と労働組合との間で労働協約と同一の内容の労働協約が締結されたものとみなされることになりました(承継法6条3項)。

 つまり、承継会社等に承継される労働者の労働条件に関する労働協約の部分(規範的部分)は、会社分割法に従い分割契約等に記載されない場合でも、当然に承継会社等において維持され、転籍前に分割会社との労働協約で守られていた当該労働組合員たる労働者の労働条件は、承継会社等においても維持されることが法律で確認されています。従って、分割自体により承継会社等において労働条件の切り下げ等のいわゆるリストラ効果を期待することはできず、承継された労働協約の変更は、例えば、会社分割法・承継法の定める組合が労働者への事前通知後の協議や労組法15条4項に従った解約手続をなすなどの中で改定する方法を取る外ありません。
2 労働協約の分割契等への記載による労働協約中の債務的部分の承継
 他方、労働同協約中の平和条項や組合事務所の使用協定等の債務的部分についても、以下のような手当てがなされています。即ち、分割会社は、分割契約等に、分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約のうち承継会社等が承継する部分を記載することができます(承継法6条1項)。

 そして、その記載の効果として、分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約に、労働組合法16条の労働条件等の規範的部分以外のいわゆる債務的部分等が定められている場合において、債務的部分の全部又は一部について分割会社と労働組合との間で分割契約等の記載に従い承継会社等に承継させる旨の合意があったときは、その合意に関する部分は、分割契約等の記載に従い、分割の効力が生じた時に、設立会社等に承継されます(承継法6条2項)。
3 承継法6条の要約
 要するに承継法6条は、労働協約については、承継会社等に承継する部分を分割契約等に記載することができることを規定するとともに、労働条件に関する規範的部分以外のいわゆる債務的部分については、労使間で合意した部分につき、分割契約等の記載に従い、承継会社等に承継されるものとし、労使間の合意に係る部分以外の部分については、組合員の労働契約が承継会社等に承継される場合に、承継会社等と労働組合との間で同一の内容で締結されたものとみなすこととしたものです(厚生労働省「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律案逐条説明」)。
4 労基法等により効力発生要件が定められている労使協定の効力
 労基法上の36協定(労基法36条)、賃金控除協定(同 24条1項)、事業場外みなし労働時間協定(38条の2第2項)、フレックスタイム協定(32条の3)、裁量労働協定(38条の3)、計画年休協定(39 条5項)等の労使協定や育児・介護休業法上の休業対象者の除外協定(6条1項、12条2項)等の様々な労使協定については、たとえ、労働組合との間の労働協約として承継されたとしても、労基法等の法規制上の免罰効や、育児・介護休業の勤続1年未満者の適用除外等の効果については、承継会社等の事業場における労働組合の組織状況等に従うこととなります。即ち、当該事業場での、各条文上の過半数代表者の要件を満たさなければ、当該事業場における各協定の免罰効は失われます。

 なお、上記免罰効とは、例えば、36協定の締結・届出により使用者がその有効期間中、協定に従い8時間・週休労働制等の基準を超える労働をさせても、それらの基準違反の刑事責任(労基法119条1項で、36協定なき時間外労働には6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則があります)を問われない、という効果のことです。
5 新たな設立会社等における過半数代表の選出の必要な場合
 勿論、元々、分割会社に労働組合がなく、あるいはあっても各事業場において従業員の過半数を組織していない場合には、分割会社における上記各労使協定における従業員の過半数労働者代表を選出しなければなりません(従業員の過半数代表の選出方法については、拙著「改正労働法への対応と就業規則改訂の実務」<日本法令>150頁以下参照)。
6 転籍に伴う社会保険等の福利厚生の問題-法律により要件が定められている福利厚生に関する留意事項
 なお、分割に独自の問題ではありませんが、分割に伴うその他の問題として、社会保険等の承継関係の問題が起こる場合があります。この点も、ある程度は、指針で示されてはいます。

 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第9章第1節の規定に基づく厚生年金基金、確定給付企業年金法(平成13年法律第50号)第2章第3節の規定に基づく企業年金基金、健康保険法(大正11年法律第70号)第2章第2節の規定に基づく健康保険組合、勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号)第6条の金融機関等、中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)第6章の規定に基づく独立行政法人勤労者退職金共済機構等分割会社以外の第三者が、各法令の規定に従い福利厚生の全部又は一部を実施している場合においては、効力発生日以後における当該福利厚生の取扱いについては、会社法第5編第3章並びに第5章第2節及び第3節並びに法の規定によるもののほか、各法令の規定に従った取扱いが必要であるため、当該分割会社は、次のことに留意して、労働者等に対し、当該効力発生日以後における取扱いについて情報提供を行うとともに、法第7条及び商法等改正法附則第5条並びに下記4により、当該労働者等との間の協議等を行い、妥当な解決を図るべきものです。

(1) 厚生年金基金

 厚生年金基金(以下この(1)において「基金」という。)は、厚生年金保険法第9章第1節の規定に基づき、任意に設立される法人であり、会社分割がされても、当然には分割会社の雇用する労働者を加入員とする基金から承継会社等の雇用する労働者を加入員とする基金に変更されるものではありません。

 この場合において、基金の加入員たる分割会社の雇用する労働者であってその労働契約が承継会社等に承継されたものに対する基金が支給する年金又は一時金たる給付を継続する方法としては次のようなものがありますが、いずれも基金の規約の変更又は基金の分割若しくは新設が必要なため、主務大臣の認可が必要となるものであります。

a 吸収分割の場合

(a) 承継会社に基金がある場合
 分割会社に係る基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を会社法第2条第29号の規定による吸収分割(以下「吸収分割」という。)によって事業を承継する会社(以下「承継会社」という。)に係る基金に移転させる方法又は分割会社に係る基金と承継会社に係る基金が合併する方法

(b) 承継会社に基金がない場合
 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、承継会社を当該基金の設立事業所に追加する方法又は承継会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法

b 新設分割の場合

(a) 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、会社法第2条第30号の規定による新設分割(以下「新設分割」という。)によって設立する会社(以下「設立会社」という。)を当該基金の適用事業所に追加する方法

(b) その労働契約が設立会社に承継される労働者に関して分割会社に係る基金を分割し、設立会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法

 なお、承継会社が企業年金基金を設立している場合には、分割会社に係る厚生年金基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を当該企業年金基金に移転することが可能です。

(2) 基金型企業年金

 確定給付企業年金のうち基金型企業年金は、確定給付企業年金法第2章第3節の規定に基づき任意に企業年金基金を設立して実施するものであり、基本的には上記(1)の厚生年金基金の場合と同様の対応となります。

 なお、確定給付企業年金のうち規約型企業年金については、分割会社以外の第三者がその全部又は一部を実施している場合に該当せず、当該規約型企業年金の内容である給付の要件、水準等を規定する規約が労働協約に該当する等その給付の支給に関する権利義務が労働契約の内容となっている場合には、会社分割によって分割会社から承継会社等に労働契約が承継される労働者の給付に関する権利は、労働条件として維持されます。

 また、承継会社が厚生年金基金を設立している場合には、分割会社に係る確定給付企業年金の加入者の年金給付等の支給に関する権利義務を当該厚生年金基金に移転することが可能です。

(3) 健康保険組合

 健康保険組合は、健康保険法第2章第2節の規定に基づき対象事業所を基礎として任意に設立される法人であり、基本的には上記(1)の厚生年金基金の場合と同様の対応となります。

(4) 財産形成貯蓄契約等

 財産形成貯蓄契約等(財産形成貯蓄契約、財産形成年金貯蓄契約及び財産形成住宅貯蓄契約をいう。以下同じ。)は、勤労者と金融機関等が当該勤労者の財産形成に関し締結する契約であり、その契約の締結の際勤労者は、勤労者財産形成促進法第6条第1項第1号ハ等により事業主と賃金控除及び払込代行について契約を締結するものとされており、当該契約は、労働契約の内容である労働条件として維持されます。したがって、会社分割によって分割会社から承継会社等に労働契約が承継される場合、当該契約に基づく賃金控除及び払込代行を行う義務も承継会社等に承継されることとなるため、当該承継される労働契約に係る労働者は、当該財産形成貯蓄契約等を存続させることができます。なお、この場合、当該承継会社等の事業場において労働基準法第24条第1項の労使協定があることが必要となります。また、承継会社等は金融機関等との間で所定の手続を行う必要があります。

(5) 中小企業退職金共済契約

 中小企業退職金共済契約は、中小企業退職金共済法第2章の規定に基づき、中小企業者(共済契約者)が、各従業員(被共済者)につき、独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「機構」という。)と締結する契約であり、当該中小企業者が機構に掛金を納付し、機構が当該従業員に対し退職金を支給することを内容とするものであります。また、当該従業員が機構から退職金の支給を受けることは、当該中小企業者と当該従業員との間の権利義務の内容となっていると認められ、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであります。また、会社分割により事業主が異なることとなった場合であっても、当該会社分割によって労働契約が分割会社から承継会社等に承継される従業員について、共済契約が継続しているものとして取り扱うこととなります。なお、この場合、承継会社等は機構との間で所定の手続を行う必要があります。

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