法律Q&A

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育児休業への対応

弁護士 岩出 誠 2000年10月:掲載
社会保険労務士 深津 伸子 2007年12月:校正
弁護士 結城 優 2016年 7月:補正

育児休業を請求されたら?

A社の女子従業員Bが来月から産休を取る際に「産休明けから残っている年休を使い、使い切った翌日から子供が一歳になる前日まで育児休業を取りたい」と言ってきました。A社では未だ育児休業に関する規程をおいていませんでした。A社はどう対応すれば良いでしょうか。

労使協定で除外された労働者でない限り、育児休業法に従って休業させる必要があります。

1.育児休業の適用対象者とは
 育介休法は、平成7年4月から育児休業制度についてはすべての事業所で義務化され、平成9年の改正を経て、平成17年4月1日施行の改正法では、休業期間の一定期間の延長、適用対象者の一定の期間雇用者への拡大、その他看護休暇の義務化等が定められました。平成21年には、①子育て中の短時間勤務制度及び所定外労働(残業)の免除の義務化、②子の看護休暇制度の拡充、③父親の育児休業の取得促進、④法の実効性の確保などを内容とする改正がなされ、これを支援する雇用保険法の改正もなされています。さらに、平成28年改正(平成29年1月1日施行)により、①有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和、②育児休業等の対象となる子の範囲の拡大、③いわゆるマタハラ・パタハラなどの防止措置なども新たに規定されました。以下は、平成29年1月1日施行後の解説となっています。
 育介休法は、原則として、1歳未満の子供を育てる男女労働者が、事業主に対して一定の要件を満たした申し出をした場合に休業を認めています(2条、5条)。対象者には日雇い労働者など日々雇用される労働者や期間を定めて雇用される労働者(期間雇用者)は含まれていません(2条1号)。しかし、改正法により、下記の一定の期間雇用者にも適用されることとなりました。すなわち、申出時点において、次の[1]、[2]のいずれにも該当する労働者です(5条1項但書)。

[1]同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること。

[2] 子が一歳六ヶ月に達する日までに、その労働契約が満了することが明らかでないこと
(ただし、労働契約が更新される場合にあっては、更新後の期間を含む)。

 従って期間を定めて雇用されることが多い、いわゆるパートタイマーやアルバイトについては、一律対象外とするのではなく、上記に沿って判断することが必要です。
このほかにも、事業主は、事業場の過半数代表者などとの労使協定を結ぶことによって、一定の範囲の労働者に育児休業を与えないことができます(6条1項)。労使協定で除外できるのは、[1]雇用されてから1年未満、[2]休業を申出てから1年以内に雇用関係が終了することが明らかな場合、[3]週所定労働日数が2日以下の従業員などです(6条1項、育介休則7条)。
 なお、子が1歳を超えても休業が必要と認められる下記の場合には、子が1歳6ヶ月に達するまで育児休業を取得できます。1歳6ヶ月まで育児休業ができるのは、[1]保育所に入所を希望しているが、入所できない場合、[2]子の養育を行っている配偶者が、死亡、負傷、疾病等の事情により子を養育することが困難になった場合のいずれかの事情がある場合です。

2.育児休業の申し出を拒否したら
 こうした要件を満たす労働者が、男女を問わず、育児休業を申し出てきた場合、事業主はこれを拒否できず(6条1項)、育児休業の取得を理由に解雇その他不利益な取扱いをすることはできません(10条)。また、男女雇用機会均等法9条4項でも、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主が妊娠や出産等による解雇でないことを証明しない限り、無効としています。従って事業主が育児休業を認めない場合でも、労働者は自分から仕事を中断して育児休業することができます。たとえ事業主が休業の取得を理由にその労働者を解雇しても裁判になれば解雇は無効と判断されることになります。但し、育児休業取得以外の理由の解雇が禁止されているわけではありません(平成21・12・28職発第1228第4号/雇児発第1228第2号)。
3.看護休暇、時間外労働・深夜業の制限、勤務時間の短縮等の措置もある 
 育介休法は以上のような育児休業のほか、下記の制度を設けていますので、概要をあげておきます。それぞれ制度によって、協定による対象除外制の有無や内容その他手続等が異なり、複雑ですので、できれば専門家のアドバイスを得た方が良いでしょう。

[1]子の看護休暇(育介休法16条の2、16条の3)
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、申し出ることにより、小学校就学前の子が1人であれば1年に5日まで、2人以上であれば1年に10日まで、病気・けがをした子の看護のために、休暇を取得できます(これを子の看護休暇といいます。)。この場合、事業主は、業務の繁忙等を理由に、子の看護休暇の申出を拒むことはできません。
 平成28年改正により、平成29年1月1日の施行日からは子の看護休暇について半日(所定労働時間の2分の1)単位での取得も可能となります。

[2]所定外労働の制限(16条の8)
 3歳までの子を養育する労働者は、請求すれば所定外労働(残業)が免除されます。ただし、雇用期間が1年未満の労働者等一定の労働者のうち労使協定により対象外とされた労働者は適用除外となります。

[3]子育て中の短時間勤務制度
 3歳までの子を養育する労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度(1日原則6時間)を設けることが事業主の義務になります。ただし、雇用期間が1年未満の労働者等一定の労働者のうち労使協定により対象外とされた労働者は適用除外となります。

[4]父親の育児休業の取得促進(9条の2、5条2項、6条1項2号)
 母だけでなく父も育児休業を取得する場合、休業可能期間が1歳2か月に達するまでの間に、1年間育児休業が取得できます(パパ・ママ育休プラス制度)。また、配偶者の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくとも、再度、育児休業を取得できます。

[5]時間外労働を制限する制度(17条)
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者がその子を養育するために請求した場合においては、事業主は制限時間(1月24時間、1年150時間)を超えて労働時間を延長してはなりません。

[6]深夜業を制限する制度(19条)
 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者がその子を養育するために請求した場合においては、事業主は午後10時~午前5時(深夜)において労働させてはなりません。

4.賃金その他の条件はどうなるのか
 育介休法は、育児休業中や時間短縮の措置の場合の賃金、賞与、退職金計算上の勤続年数への算入、復職後の条件をどうするかなどについては触れていません。このためこれらは労使の交渉に委ねられています(通達)。実例としては、例えば、休業期間中の一定の賃金相当部分を貸し付け、復職後1年継続勤務した場合にその返済義務を免除するなどの方法も取られることもあるようです(このような方法が許されることについては通達)。しかし銀行のように完全に無給とする例も少なくはありません。その他の労働条件については千差万別でしょう。また、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚労省告示第509号)が厚労省の判断を示し、これに沿った指導がなされています。例えば、「休業期間中に賃金を支払わないこと、退職金や賞与の算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合に休業した期間分は日割りで算定対象期間から控除すること等専ら休業期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いには該当しないが、休業期間を超えて働かなかったものとして取り扱うことは」ここでの不利益取扱い禁止に該当します(同旨の判例として、学校法人東朋学園事件・平成15・12・4労判862-14)。
 なお、雇用保険から、賃金の50%相当の育児休業給付が(雇用保険法61条の4第4項、附則12条)、育児休業開始前2年間で通常の就労を行っていた期間が12カ月以上あれば、最大1年6ヶ月間支給されます(同法61条の4第1項参照)。なお、平成26年4月1日から育児休業給付について、男性の育児休業取得を促進することなどを目的に、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得する場合、休業開始後6か月について、休業開始前の賃金に対する給付割合が67パーセントに引き上げられました。
 又、育児休業期間中の労働・社会保険料については、事業主負担分及び従業員負担分とも社会保険料については、申し出により免除を受けられることになっています。
5.年休について
 年休算定の基礎日数については、平成7年の労基法の改正により、育児休業日を出勤したものとして取扱うべきとし、欠勤扱いを禁じています(39条8項)。これによると、1年丸々育児休業した従業員も翌年フルの年休が取得できることになります。又、設問のように、育児休業に入る前に残っている有給を使い切るなどの方法は許されています(通達)。しかも、会社側で時季変更権を行使できる場合は別であるとしても、実際には、相当事前の年休申請となることから事前調整がある程度可能な筈のため変更権の行使は難しいでしょう。
6.就業規則等の定めは必要
 厚労省は、労基法89条1項1号に定める就業規則の記載事項の「休暇」の中に育児休業も入り、別規則を設けることはかまわないが、育児休業などに関する取扱いの詳細を定めなければならないとしています。そして育児休業等の場合に無給とする場合にはそのことを記載しなければならないとしてます。特に休暇はみんな有給としている会社ではそれらの休暇との取扱いの区分を明確にする必要があります(通達)。
7.待遇等は書面で
 又、育介休法は、育児休業中の待遇、従業員が負担する社会保険料の支払い方法等や復職後の賃金、配置などの労働条件についてあらかじめ定めるとともに、これを労働者に周知させるための措置を講ずること、書面で明示することを努力義務としています(21条、育介休則32条以下)。

対応策

設問のA社が育児休業に関する規程をおいていなくても、Bが右一の適用対象者であり、労使協定による除外理由がない限り、Bに育児休業を与えなければなりません。但し、その場合の賃金については支払う必要はありません。しかし厚労省の右六の解釈を利用して、就業規則で無給の取決めがない限りは有給であるなどといった主張が持ち出される危険(厚労省はそのようにリードしたいのかも知れない)があるので、そのようなトラブルを避けるためには、実際に育児休業が始まるまでに、育児休業規程や労使協定を締結することです。モデル規程や協定の書式や実例もかなり紹介されており、それらを手に入れてA社に合ったものを作成することは可能です。しかし、複雑な法律なのでできれば専門家のアドバイスを得た方が良いでしょう。そしてそれらの規程や協定に従って処理することです。又、育児休業に入る際には前に七で述べた通知を行うのが親切でしょう。但し、復職後の配置や条件を余り厳密に書くことは危険です。ある程度変更のできる書き方が必要でしょう。

予防策

 育児休業の問題は育介休法自体では解決されず、労使協定や就業規則などの定めにより解決すべき事項を多く含み、協定などの適切な利用により会社の負担を軽減することも可能な問題です。従って、会社としては速やかに、遅くとも従業員が妊娠したことを知ったら、出産までの間に以上の注意を念頭において、各社の実情に応じてこの規程や協定を整備することです。
 又、平成11年4月から介護休業制度も全面適用となっており(育介休法11条)、時間外労働の制限(18条)、深夜業の制限(20条)、その他事業主が講ずべき措置(23条3項)が定められています。また、平成21年改正では、労働者が申し出ることにより、要介護状態の対象家族が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日、介護休暇を取得できるようになりました。さらに、平成28年には、介護休業の分割取得が認められるなどの改正がありました。これらの制度についても合わせて諸規程の改正・整備する必要があるでしょう。

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