従業員が深夜勤務や残業をしたいと言ってきたら?
女性労働者が、時間単価の高い深夜勤務のシフトに入れて欲しいと申し出てきました。女性には深夜労働が禁止されていたと思っていました。また、禁止されていなくても防犯やセクハラ防止の観点から女性労働者に深夜勤務させるのは不適当と考えますので断れないものでしょうか?
請求があれば、妊産婦については深夜業及び時間外労働につき、又、家族的責任を有する労働者については深夜業と当面時間外労働時間の上限の制限がありますが、それ以外の場合、男性並みに働いてもらえます。女性であることのみを理由として深夜勤務や残業.に就かせないことは均等法6条1号の配置における性差別禁止に抵触します。
- Ⅰ 一般的な女子の時間外・休日労働の制限女子の深夜労働の禁止の廃止
- 平成11年3月31日までは、以下の業種にそって、女性労働者に対しては時間外労働が制限され、休日労働、深夜労働も原則禁止でした。
【1】工業的業種
【2】非工業的業種
例外としては、管理監督者(旧労基法41条【2】)と、適用除外者(旧労基法64条の2【4】)として定められる、指揮命令者、専門業務従事者、及び、 タクシー運転手で申し出て労基署の承認を得たものへの深夜業務の許可の場合(旧労基法64条の3【1】但書)のみでした。
しかし、平成11年4月1日以降はこれらの制限が廃止になりました。原則として、後述の妊産婦や激変緩和措置の対象となる女性労働者以外は、男性と同様に、改正労基法にしたがって、深夜や時間外労働に従事させることができることになりました。
逆に言えば、女性労働者は、原則として、男性と同様に、労基法にしたがって、深夜や時間外労働に従事しなければならないということです。
- Ⅱ 一般的規制廃止への企業の対応策
- 女性労働者のみ男性より低い労働時間数・日数を適用したり、深夜勤務の対象外とするのは均等法6条1号の配置における性差別禁止に抵触し違法とされる危険がありますので、直ちに、就業規則の女性労働者の例外規定を削除する必要があります。
1 就業規則の女性労働者の例外規定を削除する必要
一部に混乱が生じているようですが、均等法では、労働者の配置について、性別を理由として差別的な取扱いをすることが 禁止されます。したがって、就業規則や労働協約において、女性であるが故に、一律に交替制の深夜勤務をさせない旨の定めをすることは、一定の職務から女性 を排除することになり、配置に関して均等法に違反することとなります。また、就業規則や労働協約において、女性であるが故に、深夜に及ぶ時間外労働をさせ ない旨の定めをすることは、一定の職務から女性を排除しているとまではいえないものの、均等法の趣旨に反するものと考えます。なお、このような定めを理由 として、募集・採用、配置・昇進等について男女異なる取扱いをすることは、合理的な理由がない限り、均等法に違反します。2 36協定で男女に差を設けることには違法とされる危険
同様に、36協定や労働協約において、時間外労働の上限を「男性300時間、女性150時間」というように異なる定めをした場合、その労使協定が均等法に違反するものとされる危険があります。
例えば、時間外労働について、「男性300時間、女性150時間」というように、女性であることのみを理由として、36協定や労働協約によって男女異なる取扱いをすることは、労働基準法に違反するものではありませんが、均等法の趣旨に反するものと解されます。また、このような定めを理由として、募集・採用、配置・ 昇進等について男女異なる取扱いをすることは、合理的な理由がない限り、均等法に違反します(以上につき、厚労省HP等参照)3 個別の事情を考慮しての深夜・時間外労働の免除
但し、深夜業を望まない女性労働者を、個別契約により、これに配置しないことは違法とは言えません。つまり、個々の労働者の健康や家族的責任の状況を理 由として他の労働者と異なる取扱いをすることは、均等法上の問題となるものではないことから、深夜業 を希望しない労働者について就業規則において配慮することや、深夜業を望まない労働者と十分な話し合いをした上で、深夜業のある職場に配置しない旨の労働 契約を締結することは可能です。
むしろ家族的責任の状況を理 由として他の労働者と異なる取扱いをすることは、現在では育介休法の要請となっています(後述Ⅲ、3-1-7参照)。4 就業規則の削除・改正
そこで、女性従業員に対する、時間外・深夜・休日労働を全面的に排除する特別規定を削除する必要があります。5 女性労働者が深夜勤務を拒否した場合
ここで、今後の女性の労働関係を想定する時に参考となる判例があります。それは、タクシー会社が、女性タクシー運転手を、上記例外規定(旧労基法64条の3の第1項但書)を使って、昼間勤務から深夜を含む効率の良い勤務へと移行させようとしたところ、その使用者の業務命令を拒否した女性タクシー運転手の解雇が 無効とされた草加ダイヤモンド交通事件(浦和地越谷支判平成8・8・16労判703号39頁)です。ここでは、前述の本人の「申し出」が問題となり、当該女 性タクシー運転手は深夜勤務の希望がないのですから、当時の労基法上は深夜勤務の命令は要件を欠くものとして当然に無効とされたのです。
しかし、現在では、これとは逆に、深夜勤務を拒否した女性労働者に対して、家族的責任や健康状態の問題ない限り、懲戒処分や解雇をすることもできる可能性が高くなります。6 女性労働者を男性と同様に深夜労働してもらうためには就業規則の改定等が必要
特に、深夜勤務そのものには、労基法36条の36協定の必要もなく、もっぱら、就業規則の規定を主な内容とした労働契約により、深夜勤務が義務付けられているか否かが決め手となります。
そこで、今までの、「女性労働者は深夜勤務させない。」などの規定が残っていると、この規定は前述の均等法6条1号の配置における性差別禁止違反で企業名の公表等の制裁の対象となり得ても、企業が自ら深夜勤務させることができる権限を制限したもので、必ずしも無効とは言えない、などと変な弁解の余地を与えかねません。法的な解釈としては、そのような規定は無効とされる可能性の方が高いと考えますが、少なくとも、労働契約の上で、今まで、深夜勤務がない条件で採用されたのが、深夜勤務につくことは労働条件の変更になり、その根拠が必要となります。逆に、従前の規定のままでは、女性労働者に当然に深夜労働をする権利があるとは必ずしも言えません。
実際には、例えば、今まで、女性のみが昼間勤務で、男性はシフト制で、必ず深夜勤務を含んでいたとすれば、労基法の適用と上記規定の削除に加え、配置等における性差別禁止(均等法6条1号)との総合的解釈で、女性労働者に、従前からの男性への深夜勤務を命じる就業規則を適用して、女性労働者に深夜勤務を 命じることができることになるでしょう。
しかし、男性にも、深夜勤務なしの条件で採用されている者がいれば、これは、処遇における性差別禁止の問題ではなく、いわゆる配置転換 (配転)の問題となります。このような場合に、女性労働者を深夜勤務に就けるには、深夜勤務のシフト制の下で働く地位・職場への異動命令(配転命令)を発する権限が就業規則に規定され、その規定の手続にしたがって命令する必要があります。
このような規定がなくとも使用者の人事権で可能との解釈もあり得ますが、実務的には、紛争を回避し、トラブルになった場合の有利な解決のための対策としても就業規則での異動規定の整備が必要です。7 女性労働者を男性と同様に時間外・休日労働してもらうためには就業規則の改定に加えて36協定の締結が必要
これに対して、女性労働者の時間外・休日労働に関しては、少なくとも、それが週40時間等の法定労働時間や週1日又は4週4休を超えて就労させる限り、 単に、就業規則の女性への労働時間の特別扱い規定の削除等の就業規則の改正に留まらず、労基法36条に基づく時間外・休日労働協定(いわゆる36協定)の 締結が必要です。
- Ⅲ 家族的責任を有する者への取扱い
- 1 家族的責任を有する労働者とは
小学校就学前の子を養育する労働者(同19条1項)または要介護状態にある対象家族を介護する労働者(20条1項。いずれも日々雇用される者は除かれる。両者を一括して「家族的責任を有する労働者」という)は、下記のような深夜業の免除は時間外労働の制限を求めることができます。
2 深夜業の制限
男女共に家族的責任を有する者に深夜勤務を免除するのは請求がある限り法的義務ですが、この点については別に説明します(3-1-6,7参照)。
3 家族的責任を有する労働者の時間外労働の制限
(1)時間制限
育介休法により、家族的責任を有する労働者は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1カ月当たり24時間、1年当たり150時間を超える時間外労働の免除を請求できます(同法17条1項、18条1項)。なお、所定外労働の制限期間と重複しないようにしなければなりません(同条17条2項)。
(2)適用除外
概ね、深夜業の制限の場合と同様、次の場合には、労働時間の制限は受けられません(育介休法17条1項、18条1項)。①当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者、②配偶者が常態として当該子を養育することができる者として厚生労働省令で定める者に該当する場合(育介休則31条の2)、③当該請求できないことに合理的な理由があると認められる労働者(1週間の所定労働日数が2日以下の労働者等。育介休則31条の3)。ただし、②の適用除外は、介護の場合については適用されない(同則31条の7、同条の3第1号)。
(3)時間外労働時間制限の請求方法
制限の請求は、1回につき、1カ月以上1年以内の期間について、その開始の日および終了の日を明らかにして制限開始予定日の1カ月前までにしなければなりません。
4 不利益取扱いの禁止
育介休法により、事業主は、労働者が深夜業の制限の請求をし、深夜において労働しなかったことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(20条の2)。
対応策
以上の通り、労基法及び育介休法により、質問の場合、請求があれば、妊産婦については深夜業及び時間外労働につき、又、家族的責任を有する労働者については深夜業の制限と時間外労働の上限設定がありますが、それ以外の場合、男性並みに働いてもらえます。
予防策
対策としては解説の各所で指摘したように、前述の例外的な場合以外の女性労働者にも男子並み扱いとなったことを、女性保護規定の削除などにより明確化するために就業規則を整備し、これを確実に適用することです。