私が所属する派遣会社は、私を営業職の契約社員として採用し、派遣先との間で業務委託契約や請負契約を結んで派遣先で働かせていますが、こんな形の労働は許されているのですか?
B労働者が所属するA派遣元会社は、Bを営業職の契約社員として採用し、派遣先C社との間で業務委託契約や請負契約を結んでC社で働かせています。このため、派遣法で定められ派遣先や派遣元各企業に求められている“派遣就業の条件の明示”(同法第34条)等の様々な義務が守られていません。こんな形の労働は許されているのですか?
回答ポイント
- 派遣元会社、派遣先会社と貴方の契約関係・就労状況の実態が、厚生労働省の定める「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。以下、区分基準という)に定められた基準(要するに、労働者が派遣先の指揮命令に服してないこと)を満たす限り、いわゆる業務委託等によるアウトソーシングは禁止されてはいません。逆に、これをクリアしない場合については、派遣法の適用を受け、派遣元には派遣法違反に伴う罰則・行政処分の制裁等が、貴方には派遣法に基づく権利が認められるものと解されます。
解説
- 1.業務委託等と区分基準の関係
- 質問の場合のA社とC社の間で問題とされたように、いわゆるアウトソーシングの一環として、形式上はいわゆる業務処理請負や業務委託等の契約(以下、業務委託等という)となっていても、実態として下請業者が下請労働者を自己の指揮命令下で仕事をさせていないことになると、派遣法違反の責任を問われることになってしまいます。この点、労働省告示の区分基準は、業務委託等の契約形式によっていても、当該業務の処理が次のような方法によっていない限り、労働者派遣事業を行うものとしています。
即ち、下記に引用した区分基準の通り、[1]業務の遂行、労働時間等及び企業における秩序を維持、確保する等のための指示その他の管理を自ら行うことにより、自己の雇用する労働者の労働を自ら直接利用するもので、かつ、[2]資金を自ら調達し、民法・商法等の責任を自ら負い、自ら提供する機械・設備もしくは器材又は材料・資材により業務を処理し、又は専門的な技術・経験を必要とするもので、単に肉体的な労働力を提供するものでなく、当該契約の相手方から独立して処理するもの、以上の要件を満たさない限り、業務処理請負とは認められなくなり、派遣法の適用を受けることになります。
逆に、以上のいずれにも該当する場合は請負や業務委託となる訳で、派遣法の適用を回避できることになります。
<区分基準>
次の各号のいずれにも該当する場合を除き,労働者派遣事業を行う事業主とする(告示第2条)。
1. 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。イ. 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。ロ. 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日,休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。ハ.次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。2. 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手から独立して処理するものであること。
イ. 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ. 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ. 次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。なお、区分基準の具体的内容については、厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領(以下、「業務取扱要領」という。同省のHP参照)が詳細に定めていますので、これを参考にして下さい。
- 2 偽装請負への規制の強化
- また、平成15年の労働者派遣法改正にあたっての国会での附帯決議でも、同法の物の製造の業務等への労働者派遣事業の拡大にあたっては、請負等を偽装した労働者派遣事業に対し、その解消に向け労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準等の周知徹底、厳正な指導監督等により、適切に対処するとしています。また、それとともに、請負にかかる労働者の保護のため、国は、請負により行われる事業に対し、労働基準法等、労働諸法令が遵守される取組みを強力に進めることが求められており、事業者もこれまで以上に、同基準の遵守が求められています。とくに「偽装請負の解消に向けた当面の取組について」(平成18年9月4日基発0904001号、職発0904001号)の通達により、上記の区分基準に違反するいわゆる偽装請負に関しては労働基準行政と職業安定行政との情報交換・共同監督が強化されていることにも留意する必要があります。
その後も、偽装請負問題に関しては検討が続き、厚労省の平成19年6月29日「製造業の請負事業の適正化及び雇用管理の改善に関する研究会報告書」が発表され(全文については、こちらを参照)、同研究会においては、「製造業の請負事業の雇用管理の改善及び適正化の促進に取り組む請負事業主が講ずべき措置に関するガイドライン」、「製造業の請負事業の雇用管理の改善及び適正化の促進に取り組む発注者が講ずべき措置に関するガイドライン」、「製造業の請負事業の雇用管理の改善及び適正化の促進に取り組む請負事業主が講ずべき措置に関するガイドラインのチェックシート」、「製造業の請負事業の雇用管理の改善及び適正化の促進に取り組む発注者が講ずべき措置に関するガイドラインのチェックシート」が報告され、同日付けにて正式な「製造業の請負事業の雇用管理の改善及び適正化の促進に向けた取組について」基発06269001号、職発0629001号、能発0629001号という通達として公表されています(こちらを参照)。この中でも、区分基準の遵守が求められています。
実際、ここでの偽装請負が認められ、注文主に派遣法上の派遣先責任を認め、雇入れ勧告や(注文主への偽装請負労働者受入れに対する是正指導と、これを受けた注文主による1600人の直接雇用措置の報道。平成18年11月11日付朝日新聞)、請負業者が、違法派遣をしたことを理由に、是正指導に止まらず、業務停止を命じられた事例も報じられています(労働者の送り手の「偽装請負」を理由に、業務請負をしていた派遣免許企業へ事業停止命令の例。平成 18年10月4日付朝日新聞)。
- 3 区分基準違反の場合の法律関係
- 但し、区分基準は、前述のように、文面自体はかなり厳しく、これをクリアするのは相当困難なもので、区分基準を厳格に適用すると、業務委託等が違法とされる場合も少なくはないと予想されます。そこで、業務委託等が区分基準をクリアしない場合の法律関係が問題となります。これについては、派遣法は、本来、職業安定法の禁止する労働者供給事業(職安法44条)を例外的に一定の要件の下に許可するもので、その要件を満たさない場合は、職安法違反となり、業務委託等の契約は無効となり、違法派遣下の労働者は派遣先との黙示の労働契約関係下に入るとの説もあります(裁判例でこれが争われた例は多いのですが、認めた例は少なく、古くはセンエイ事件・佐賀地武雄支決平9.3.28労判719-38)、最近ではナブテスコ(ナブコ西神工場)事件・神戸地明石支部判平17.7.22労判901-21、松下プラズマディスプレイ事件・大阪高判平成20・4・25労判960-5等があります)。つまり、この場合の業務委託等についても、派遣法の適用を受け、派遣元には派遣法違反に伴う罰則・行政処分の制裁が、派遣先・元両社には派遣法所定の諸義務を負担し(30条、31条、39~42条等、労働省告示平成11年第137号・派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(最終改正平成20年厚生労働省告示第37号)、同第138号・派遣先が講ずべき措置に関する指針(最終改正平成19年厚生労働省告示第301号)等)、派遣労働者には派遣法に基づく権利(33条による派遣先による派遣労働者の雇用を制限する契約の禁止等)が認められるものと解されています(前掲・ホクトエンジニアリング事件)。しかし、有力学説(菅野和夫「労働法」第8版<弘文堂、2008>196頁注)3参照)・裁判例(ホクトエンジニアリング事件 東京地判平9.11.26判時 1646号106頁)は、直接この問題に触れた訳ではありませんが、許可対象業務外の派遣や派遣法所定の諸手続違反の、いわゆる違法派遣の行なわれた場合の法律関係について、派遣法の適用を受け、同法の罰則や行政処分等の問題は別として、契約関係は有効としています。その理由は、同学説によれば、派遣法の定義する「労働者派遣」は「労働者供給」禁止の世界から除外され(職安法4条6号)、行政取締法規である派遣法の世界に移されたということにあります(菅野和夫「労働法」第5版<弘文堂、1999年>199-200頁。但し、この理由の記述は、同第8版では削除されています)。この論を進めていくと、ここでの問題の派遣基準を満たさない業務委託等の法律関係についても同様に解されることが予想されます。
対応策
従って、 「回答」 のように、A派遣元会社、C派遣先会社と貴方Aの契約関係・就労状況の実態が、派遣基準、要するに、Bが派遣先C社の指揮命令に服してないという条件を満たす限り、業務委託等によるアウトソーシング自体は禁止されてはいないので、そのような就労関係も適法とされます。 これに対し、業務委託等が区分基準をクリアしない場合は、争いはありますが、有力学説・裁判例からの類推では、派遣法の適用を受け、派遣元には派遣法違反に伴う罰則・行政処分の制裁が、貴方は派遣法に基づく権利(26専門業務以外で3年を経過していれば、前記報道のように雇入れ勧告等)や派遣先との黙示の労働契約関係がが認められる可能性があるものと解されます。