パートタイマーやアルバイト社員が正社員と同じ待遇を求めて賃金の差額を求めることはできますか?
A社では、アルバイトやパートタイマーなどを多く使っていましたが、数年程度勤務する人も出てきました。そんな中でフリーターのアルバイトBや主婦のパートタイマーCが、正社員の就業規則に基づいて、正社員と同じような賃金、年休や退職金を求めて来ました。A社としては、BやCにもできる限り福利厚生面の配慮はしてきましたが、勤務時間数や勤続期間などの点を見てもやはり正社員と同じという訳には行きません。どんな対応をしたら良いでしょうか。
回答ポイント
- 就業規則や雇用契約書での適用除外の規定があれば、それにより要求を拒否できますが、実質的に準社員的なパートタイマーやアルバイトに対しては、合理的根拠を欠く極端な処遇の差については差額請求が認められる場合があります。
解説
- 1.パート労働者にも労基法その他の法律が適用されます。
- アルバイトやパートタイマー、あるいは契約社員などの各種の非正規従業員(以下、これらを一括して「パート労働者」といいます。)に関する法律としては、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート労働法」といいます。)が存在します。パート労働法が対象としているのは、「1週間の所定労働時間が同一の事業場に雇用されている通常の労働者の・・・1週間の所定労働時間に比し短い労働者」(同法第2条)です。アルバイトと言われる者の多くはこの中に入るでしょう。またパート労働者には雇用期間の定めがあることが多いですが、パート労働法はあくまで所定時間が短い労働者が対象であり、期間の定めがなくとも(無期契約であっても)所定時間が正社員よりも短ければ該当します(期間の問題については他の設問(第10篇第2章「アルバイト、パートタイマーの雇止め」)参照。)
ところで、誤解されている向きもあるようですが、このパート労働者は、パート労働法の適用の如何にかかわらず、いずれも労基法上の労働者であり(9条)、同法の保護の対象となる点では正社員とかわりがありません。また、パート労働法等に特別な定めが置かれている場合を除き、最賃法、安衛法、労契法、均等法、育介休法、労災法、雇用保険法等の労働者保護法令が適用されることに注意が必要です。
- 2.パート労働者の権利
- 年休に関しては労基法上勤続6か月間 8割以上の出勤率の者について、パート労働者の所定労働日数に比例して法律で定められた日数の年休を与えなくてはなりません(労基法39条3項)。例えば、勤務時間が週30時間未満でも週5日ないし年間217日以上働く場合の法定年休日数は通常の労働者と同様となります。もっとも会社が正社員にはそれに加えて法定外年休を与えている場合、法定外年休の処理は以下に述べるように規定や慣行によることになります(岩出誠「労働法実務体系」(民事法研究会・2015年)129頁)。
また、社会保障について、雇用保険は、所定労働時間が週20時間以上で6か月以上引き続き雇用されると見込まれる者については加入しなければなりません。健康保険・厚生年金保険については、正社員の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上であることを基準として、就労形態、職務内容を総合的に勘案して、常用的雇用関係が認められる場合には加入しなければなりません。
- 3.パート労働者と就業規則
- (1)パート労働者に関する就業規則が存在する場合
厚生労働省は、正社員の就業規則の適用範囲について、パート労働者と正社員と労働条件の内容の異なった従業員についてその適用を除外することは差し支えないが、この場合、就業規則の本則において、別個の規則の適用対象労働者に関する適用除外規定や別規則への委任規定が必要、としています(昭和63・3・14基収150)。したがって通達に従ったパート労働者に関する適用除外や別規則を設けている場合は、原則として、質問のような問題は避けられます。裁判例においても、更新拒絶や解雇、賃金についてパート労働者等の臨時労働者についてある程度の保護が認められていますが、労働条件の内容をすべて正社員と同等にすることや、正社員の就業規則をそのまま適用することまでは認められていません。なお、正社員の就業規則について適用を除外してもパート労働者に適用される別規則を設けていないと就業規則作成義務違反となるので要注意です(労基法89条)。(2)パート労働者への就業規則がない場合
問題は、適用除外がない場合や除外するだけで別の規則を定めていない場合です。この場合も、パ-ト労働法が求めている「パートタイマーの『雇入通知書』」(6条)や同様の労働契約書などを用いていれば、質問のような年休や退職金の取扱いが明記されているので、これに従って処理すれば労働契約上の問題はありません。これらを用いていなくても募集条件などでこれらの取扱いが明示されていれば同様です。しかしこれらの証拠がない場合は、結局、採用時の話の内容や、取扱いの実態や慣行の有無・内容によって処理されることとなり、やや微妙な問題となることがあります。
たとえば、大興設備開発事件(大阪高判平成9年10月30日労判729号61頁)は、採用時に正社員の定年を超えていた日給制の従業員について、正社員の就業規則に基づいた退職金が認められています。
さらに、適用除外条項が存在したとしても、働き方がフルタイムとほぼ変わらないパート労働者について、正社員の就業規則の適用を認めたものも存在するため、注意が必要です(芝電化事件・東京地判平成22年6月25日労判1016号46頁など)。
- 4.パート労働法における事業主の義務等
- (1)文書による労働条件の明示義務の強化
事業主は労働基準法15条及び同法施行規則5条により労働契約の期間、労働者に対し、賃金等の一定の労働条件について書面で明示しなければなりません。パート労働者に対してはそれに加え、昇給、退職手当及び賞与の有無についても書面で明示しなければなりません(パート労働法6条1項及び同施行規則2条1項)。なお、パート労働者が希望する場合には、文書ではなくFAXまたは電子メールによる明示に代えることができます。(2)短時間労働者の待遇の原則
パート労働者に適用される就業規則が存在したとしても、その内容について正社員の待遇との間に不合理な差があってなりません。すなわち、パート労働法8条は、正社員とパート労働者の待遇が異なる場合、双方の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下、「職務の内容」といいます。)、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」と定めています。これは有期契約者に関する不合理な労働条件の禁止(労働契約法20条)と同趣旨の条文です。労働契約上20条の詳細については、こちらの設問 も参照ください。
なお、政府は平成28年12月20日付で「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、「ガイドライン案」といいます。)を発表し、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇の実現を推し進めています。このガイドライン案はあくまで案にすぎず、関係者からの意見や国会審議を踏まえた修正を予定しているものですが、パート労働法8条の解釈として注目されるだけでなく、今後、均等・均衡待遇の実現に関する流れは加速するものと予想され、法令や指針の改正に注視する必要があります。(3)通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止
パート労働法9条は、
①「職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者」であって、
②「当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)」
については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならないものとしたものであるとして、正社員との差別を禁止しています。
ただ、差別禁止の対象となっている者は、条文上からも極めて限定された者となっています。すなわち、単に①職務内容が通常の労働者と同一であるというだけでは足りず、②雇用関係の終了時までの全期間において、職務内容及び配置の変更の範囲が同一で変更されると見込まれる者であることが必要です。
さらに、全ての要件の立証責任は労働者側にあるため、保護を受けるのは容易ではないと予想されます。そのためパート労働法では紛争の解決の促進に関する特例などが設けられています。
加えて、フルタイマーの場合には、これらの要件を充足していても差別禁止対象とならない矛盾を抱えています。
ただ、この差別禁止の対象となった場合の効果について、通達(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」基発0724第2号)は、「事業主は短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用のほか、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等労働時間以外のすべての待遇について差別的取扱いをしてはならない」、「経営上の理由により解雇を行う場合には、解雇対象の選定が妥当である必要があるが、通常の労働者と同視すべき短時間労働者については、労働時間が短いことのみをもって通常の労働者より先に解雇する場合には、解雇対象者の選定基準の設定において差別的取扱いがなされていることとなり、法第9条違反となる」などと解説しています。(4)通常の労働者と同視すべきパート労働者に対する差別禁止の法的効果・性格
この差別禁止の私法的効果について、有力学説は、雇用機会均等法の差別禁止との関係で、「解雇、配転などであれば無効となり、事実行為としては不法行為の違法性を備え、損賠償責任を生じさせると解される」とし(ニヤクコーポレーション事件・大分地判平成25・12・10労判1090号44頁は休日割増分の差額等につき損害賠償を一部認めた)、短時間労働者の労働契約上の労働条件が本条により無効とされた場合に、比較対象とされた通常の労働者の労働条件で代替されるのかについては、労基法におけるような補充的効力(労基13条)が規定されていないので、関係の労働協約、就業規則、労働契約等の規定の解釈によるほかないとしています(菅野和夫「労働法」(第11版)菅野360頁)。
対応策
質問のA社の場合にも、就業規則に適用除外があり、パート労働者用の別規則や雇入通知書などがあればそれにより処理すれば足ります。第二には、退職金のパート労働者への適用、慣行などが無いかをチェックすることです。第三には、右の慣行などの有無を前提として、会社の経営判断が求められます。つまり、パート労働者のモラール(士気)の向上や定着化のために、会社の体力や彼らへの期待との相関関係で、労働時間数・勤続年数や採用方法・基準の差、職務内容・程度の差、そしてパート労働者の意識・能力の現状などを踏まえて、正社員に準じた待遇をどの程度までするかという判断です。そしてそれらの総合的判断において、正社員との処遇差につき合理的な説明をなすこと(一種のアカウンタビリィティーの問題)が必要でしょう。特に留意すべきは、パート労働者に対しては、パート労働法14 条では、この説明責任が「待遇の決定に当たって考慮した事項の説明義務」として、法的義務になっていることです。
予防策
解説でも触れたように、パート労働者の非正規従業員を用いる場合は、就業規則での適用除外や別規則への委任規定に基づき別規則の整備が必要です。また、アルバイトのように自由度を高く求める従業員に対しては、更に、別規則で労働条件の大枠のみを決めて個々の従業員との個別の労働契約書によって時間帯や賃金などを決めることも必要でしょう。そして、そのような制度を確実に運用し、予期せぬ慣行などの主張が出されぬようにすることです。また、処遇差を設ける場合は、同一労働同一賃金ガイドライン案をなどを踏まえて、その合理的な根拠付け、説明の準備も必要です。