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派遣先都合の派遣労働条件の切下げ

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年2月再補正:掲載(再々補正 社会保険労務士 村上 理恵子2008年6月:掲載)

派遣労働者の労働条件変更は派遣先の都合で有効にできるか?

Aは、期間を1年として、B社の派遣社員として働いていたところ、その期間途中に派遣先C社が業績不振による派遣料金の減額を理由にB社からの賃金が減給されることとなってしまいました。そもそも、このような減給が許されるのでしょうか?又、減給の予告を受けたのは3月28日で、具体的な減給額を聞いたのが4月2日ですが、B社は4月16日から減額後の給与計算すると言っています。具体的な連絡を受けてから1ヵ月もたっていないのですが、これは不当とはならないのでしょうか?

回答ポイント

 原則として、Aにつき、期間途中の減給は、できません。 少なくとも、法的には、原則として、期間途中の減給は、労働協約の変更や、就業規則の変更に合理性ある場合の他は、本人の同意がなければ行なえません。仮に、行なわれる場合にも、期間途中の解除に準じて1ヵ月前の予告は必要でしょう。
解説
1.一般的賃下げ方法
 企業が用いている一般的な賃下げの方法としては(第9編第2章「賃下」参照)、1)報酬・賃金の一部放棄または一時的な引下げの合意による方法、 2)就業規則の不利益変更による引き下げ、3)労働協約又は組合との合意による引き下げ、4)年俸制労働者の引き下げ、5)変更解約告知による切り下げ、 6)配転による業務の変更を理由とする減給など種々の方法があります。しかし、裁判例は賃下げにつき、それが労働条件中最も重要な賃金の低下という労働条件の改悪を意味するところから、黙示の合意を否定したり、賃下げを招く降格・降級、就業規則の変更や労働協約の締結などを無効とするなど慎重な判断を示しています。

 従って、賃下げが実施される場合には、そもそも、それがいかなる措置としてなされるのが、その法的効力を判断する際に見極める必要があります。
2.合意による引下げ
 賃金切下げの方法として、先ず、報酬・賃金の一部放棄または一時的な引下げの合意による方法があります。勿論その合意には、明示又は黙示の合意を問いません。判例としても、朝日火災海上保険会社事件(最二小判平成9.3.25 労判713-37)は、改正後の賃金の異議をとどめない受領をもって、退職金の積算に昇給分を入れない旨の改正につき黙示の合意を認め、野本商店事件(東京地判平成9.3.25  労判718-44)も、昇給停止につき黙示の合意を認め、ティーエム事件(大坂地判平成9.5.28 労経速1641-22)は、所長12%、一般社員5%の賃金減額につき、会議での異議の申し出なく、減額案の作成、会社への提出等により、合意ありとしました。もっとも、これらの裁判例には批判も強いですし、他方で、使用者が労働者の賃金を引き下げるに当たっては、労働者がその自由な意思に基づきこれに同意し、かつ、この同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するとして、賃金切下げの企業の決定・実施に労働者が明示の異議を述べなかったことをもって、この黙示の合意と解することを否定した例もあります(アーク証券事件 東京地判平12.1.31 判時1718-137)、ので、賃金の異議なき受領による黙示の合意が認められるのは例外的であるといえます。
3.就業規則の不利益変更による引き下げ
 現在では、労働契約法10条の問題となりますが、就業規則の不利益変更の効力については一般的に、判例は、就業規則の改正に合理性があるかどうかでその効力の有無が決まるとしています(秋北バス事件・最大判昭和43・12・25民集22-13-3459等)。
4.労働協約又は組合との合意によるによる引き下げ
 この方法の例として、労働協約又は組合との合意によるによる引き下げの例として、第四銀行事件(最高裁二小判決 平成9.2.28民集51巻2号705 頁)、退職金の減額を認めた幸福銀行事件(大阪地判平成10・4・13労判744-54)の他、労働協約を破棄して就業規則の改正による給与規定の改正を認めた安田生命保険事件(東京地判平成9.6.12 労判720-31)、定年年齢、退職金支給率の引き下げ等を内容とする協約が、一部の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結されたものとはいえず、有効とした朝日火災海上保険会社事件(最二小判平成9.3.27 労判713-27)等があります。 最近では、日本郵便逓送(協約改訂)事件(大阪地判平17.9.21労判906-36)で労働条件の不利益変更を認める労働協約の効力を、組合内の意思決定手続きにつき、組合自治を認め、瑕疵もないとして有効とした事例で、瑕疵を認めて協約を効力が否定されたことが多かった最近では重要な意義を持つ判例と言えます。同様に、箱根登山鉄道事件(東京高判平17.9.29労判903-17)も、全体に、労働条件の不利益変更を認める労働協約の効力や就業規則、賃金支給規則、退職等を、組合内の意思決定手続きにつき、瑕疵も長期認められてきた範囲内であるなどとして有効としています。 なお、不利益な労働協約を締結したことを理由とする組合員から組合に対する損害賠償が、労働協約の不利益変更をめぐる従前の判例の枠組で判断して、違法性なしとして棄却された珍しい例として、AIGエジソン生命労働組合事件(東京地判 平19.8.27 労経速1988-18)があります。 また労働組合法17条の労働協約の一般的拘束力により非組合員の改定前の賃金請求を斥けた例もあります(都市開発エキスパート事件・横浜地判平 19.9.27 労経速 1986-3)。
5.年俸制労働者の引き下げ
 年俸制による賃下げに関しては、具体的には、目標達成度評価に関する合意(年俸合意)不成立の場合に問題となる訳ですが、その処理としては、判例における企業の解雇権への大幅な制限下では(裁判所は、従前から、解雇一般について、で詳述している通り、いわゆる解雇の法理を確立して、企業の解雇について厳しい制限を加えてきました)、バランス上、企業に評価決定権があると解されていますが(菅野和夫「労働法」第8版221頁以下)、裁判例は、必ずしも従ってはいない。 デイエフアイ西友事件・東京地判平9.1.24判時1592号137頁でも、傍論ながら、「年俸額に関する合意未了の労働者は、...たかだか当該年度において当該契約当事者双方に対して適用ある最低賃金の額の限度内での賃金債権を有するに過ぎない」とし、近時の裁判例でも、減額合意が不成立で減額の根拠規定もなく、その経営上の緊急性もない場合には減額を認めず従前の賃金の支払いを認めていますが(明治ドレスナー・アセットマネジメント事件・東京地判平 18.9.29労判930号56頁、日本システム開発研究所事件・東京地判平18.10.6労判934号69頁)、最近、有力学説に近い立場で年俸制の下での合意なき場合の会社の判断を有効とした例も現れてはいます(中山書店事件・東京地判平19.3.26労判943号41頁)。 結局、この問題は、人事考課の問題と絡んでいますが、学説や裁判例も指摘する、就業規則等での年俸の減額を含んだ根拠と基準に関する、いわゆる公正評価義務の遵守状況と、これらがない場合には、倒産回避のための高度の経営上の緊急性等の存否によって判断されることになるものと解されます。
6.変更解約告知による切り下げ
 なお、理論的には、企業の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認める「変更解約告知」の法理が認められれば、この告知により、契約社員への変更に応じない者を解雇することにより、事実上強制的に賃下げをされることがあり得ます(第9編第2章「賃下」参照)。 とくに有期労働者に対しては、日本ヒルトンホテル(本訴)事件・最一小決平成17.5.16労判892号98頁では、労働条件引下げ変更通知に対して、異議留保付き承諾の意思表示をしたたためなされた雇い止めの効力が争われた事案で、本件異議留保付き承諾は会社の変更後の条件による雇用更新申込を拒絶したのであり、それにも拘わらず、会社に労働者の雇用継続の期待権を保護するために雇用契約の締結を義務付けるのは、継続的に社会経営の合理化や経費削減を図っていかなければならない会社人にとって酷であるなどの事情から、雇い止めには合理的理由があり有効とした同控訴事件(東京高判平成14・11・26労判843号230頁)を支持していることが注目されます。
7.配転による業務の変更を理由とする減給
 この方法による場合、業務・職種等に伴う賃金・処遇の差異が明確に規定されていることが前提ですが、その場合においても、配転命令自体が無効とされる場合には、この方法による減額も困難となります。例えば、ヤマトセキュリティ事件(東京地判平成9.6.10 労判720-55)では、配転(秘書から警備業務)が無効として、業務変更を理由とする調整手当て(語学手当て)の削減が無効とされました。

対応策

以上の通り、裁判例は賃下げにつき、それが労働条件中最も重要な賃金の低下という労働条件の改悪を意味するところから、その賃下げ方法の如何を問わず、黙示の合意を否定したり、賃下げを招く降格・降級、就業規則の変更や労働協約の締結などを無効とするなど慎重な判断を示しています。 以上の賃下げ一般に関する基準は、派遣労働者の賃下げについても特段変化はありません。強いて言えば、派遣先による派遣料の減額が賃下げの合理的理由になるかということです。法的には、少なくとも派遣契約中途の派遣契約の解除は何らの理由なく、あるいは「あらかじめ相当の猶予期間をもって」予告がなされなければ、派遣先は派遣元に対して損害賠償義務を負担することになり、その損害賠償としては、少なくとも派遣労働者に対する30日以上前の予告又は「当該派遣労働者の少なくとも30日分以上の賃金に相当する額の損害賠償」が指導されています(派遣先が講ずべき措置に関する指針・平成11年11月17日・労働省告示第138号、最終改正平成19年厚生労働省告示第301号)。 従って、賃下げなされる際には、「回答」の通り、そもそも、賃下げがいかなる措置としてなされているのかを吟味した上で、その有効性が検討されねばならず、一般的にはその有効性を認めるのは困難でしょう。仮に、その有効性を認める場合にも、それは、重要な契約内容の一方的変更であり、契約解除に近いものと考えることができ、前述の中途解除の場合の指導の趣旨からすれば、少なくとも30日前の予告や猶予期間をおいて施行されるべきものと考えられます。

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