法律Q&A

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派遣先の都合による派遣労働者の交代要求

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2006年12月:掲載

派遣労働者の交代は派遣先のみの都合で有効にできるのか?

Aは、期間を3ヶ月として、B社の派遣社員として働いていたところ、その期間途中に派遣先C社が、Aの勤務状況が債務不履行に該当するとして交代要求をしてきたため、B社は、期間途中にも拘わらず、営業的配慮からか、C社の要求に応じ、Aに対して交代と就労中止による自宅待機を命じてきました。このような場合、Aは、B社に対してどんな請求ができるのでしょうか?

回答ポイント

 本来は、Aの債務不履行の証明なき限り、残存雇用期間中の賃金の全額請求も可能ですが、少なくとも、派遣期間終了日までの休業手当の支給請求が認められるでしょう。
解説
1 派遣先の交代要求の成否と損害賠償関係
 まず、法的には、派遣先C社の交代要求が、労働者派遣契約により当然にできるわけではありません。かかる要求は、同派遣解約の一方的な解除通知とも解されるものであります。その場合、B社はC社に対して、Aの派遣期間の残存期間の派遣料相当の損害賠償請求権や、仮に、交代が成立しても、Aに対する賃金支払義務分が損害として発生するため、その分の損害賠償請求権を取得することになります。
 かかる損害賠償請求権が否定されるためには、原則として、正に、Aの就労状況が、労働者派遣契約が明示乃至黙示で求めていた職務遂行能力を明らかに欠いていた場合や、Aに、労働者派遣契約を解除するに足りる、契約所定または法定解除事由がある場合に限られることになります。
2 賃金請求権の成否
 1の関係から、原則は、Aは、自分自身に上記解除原因に当たる事由がない限り、仮に、B社が、営業的配慮から、C社の言いなりに交代に応じても、Aの派遣残存期間の賃金請求権を保有していることになり、少なくとも同賃金相当の損害賠償請求権を、B社に対して取得することになります。
3 三都企画建設事件・大阪地判平18・1・6による派遣取引の実態への配慮
 ところが、最近の三都企画建設事件・大阪地判平18・1・6労判913-49は、派遣労働関係と派遣先・派遣元との取引実態を重視し、設問のような事案につき、次のように判示して、結論的には、A に対してB社への、契約残存期間中の労働基準法26条の休業手当のみを認めました。この判決は、最近、頻発している、派遣会社が、派遣先の、必ずしも派遣労働者の明確な就労状況等での違反等によることなき、要望に応じて派遣労働者を交代させ、他の従業員を派遣した結果、派遣元に対する派遣代金請求権を失うことはなかったものの、その代金から交代して派遣された従業員に対する給与も支払わなければならない場合の処置につき、交代させられた派遣労働者について、民法536条2項の危険負担の適用なく休業手当で処理される場合があることを示した先例と言えます。

 即ち、同事件では、原告派遣労働者の勤務状況が債務不履行に該当するとしてなされた派遣先の交代要請に基づき、被告派遣元会社が原告に対して交代と就労中止を命じたことにつき、原告に派遣契約上の債務不履行事由はなかったとされましたが、被告が、派遣先との間で、債務不履行事由の存否を争わず、原告の交代要請に応じたことによって、原告の就労が履行不能となった場合には、派遣元として派遣先と派遣労働者の勤務状況を争うことは極めて困難とされ、特段の事情がない限り、民法536 条2項の適用はなく、原告の被告に対する、当該交代以降の賃金請求権は消滅するとしたのです。そして、被告が、派遣先との紛争を回避し、原告の就労拒絶を受け入れたことによって、派遣先における原告の就労が不可能となった場合は、原告の勤務状況から、被告・派遣先間の労働者派遣契約上の債務不履行事由が存在するといえる場合を除き、労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、原告は被告に対し、休業手当の支給を請求できるとしたものです。なお、被告は派遣先の要望に応じて原告を交代させ、他の従業員を派遣した結果、派遣元に対する派遣代金請求権を失うことはなかったのですが、その代金から交代して派遣された従業員に対する給与も支払わなければならず、また、原告としても、交代派遣従業員が派遣先で就労している以上、その就労場所を失ったことになるため、交代命令の翌日以降の賃金請求権は消滅しますが、同日以降、派遣期間終了日までの休業手当の支給請求は認められるとしたものです。

対応策

以上の次第で、回答の通り、本来は、Aの債務不履行の証明なき限り、残存雇用期間中の全額請求も可能な場合が本来が原則でしょうが、派遣労働関係、派遣先と派遣元との取引実態を考慮したとしても、少なくとも、派遣期間終了日までの休業手当の支給請求が認められるでしょう。

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