法律Q&A

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臨時工と本工の処遇格差

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月掲載:補正

臨時工と本工の処遇格差はどの程度許されるのでしょうか。

臨時工として会社に雇われてから二年になり、はじめ雑役をしていましたが、いまでは本工と組んで作業したり、単独で本工と同じ作業をしています。本工だけで結成されている組合は会社と協約を結び、賃金なども臨時工よりずっとよくなっており、退職金の協定もあります。臨時工は賃金が低いだけでなく、解雇も簡単にされるそうですが、このような不平等な取扱いが認められますか。

回答ポイント

 反覆更新され、実質的に本工と変わらない業務に就いている臨時工の場合、解雇や更新拒絶についても、正社員よりは保護が薄いと言われますが、解雇等に合理的理由がなければ更新を求められますし、いわゆるリストラ解雇の場合にも、基本的には正社員の場合に準じて、解雇回避努力義務の履行等が求められています。又、処遇格差については、就業規則や雇用契約書での正社員の処遇条件の適用除外の規定があれば、原則的に、それにより格差が認められますが、実質的に準社員的な臨時工に対しては、合理的根拠を欠く極端な処遇の差については差額補償が認められる場合があります。
解説
1 雇用保障面での格差
(1)常用的な臨時工の場合には更新拒絶や解雇には合理的な理由が必要
 前述(パート・派遣・契約社員[実務編]Q2)の通り、労動契約に期間の定めのない本工などと異なって、多くの場合、期間の定めのある、臨時工との間の労働契約について、これを期間満了などにより終了(雇止め)した場合の問題について、裁判所は、基本的には、「期間が定められていても、特別の事情がない限り反覆更新され、不況のときに正規従業員に先立って更新が拒否(雇止め)され、実質上期間の定めのない契約と異ならず、仕事の内容も正規従業員と大差のないような常用的臨時労働者」の場合、雇止めを行なう際、正規従業員に対して適用されている労働基準法18条の2の「解雇権濫用の法理」(退職・解雇・退職金[基礎編]Q3参照)を適用して、「余剰人員の発生等従来の取扱い(反覆更新)を変更してもやむを得ないと認められる特別の事情」がなければ雇止めできない、とした、最高裁の東芝柳町工場事件判決・最1小判昭49・7・22民集28-5-927)の考え方を適用しています。

(2)裁判所は雇用実態に応じて判断
 しかし前述(パート・派遣・契約社員[実務編]Q2)の通り、裁判所は東芝柳町工場事件判決を機械的に適用することなく、各々の雇用の実態に即して、ケースバイケースで雇止めの効力を判断し、この判決を適用又は準用し、時にはその適用を排除しています。

(3)本工より緩やかな合理性の判断  以上の裁判所の判断は、文字通りケースバイケースで一貫はしていないようにも見えますが、一般的には、ごく短期で更新も一定範囲でしか予定されていない臨時性の高い臨時工を除いて、更新拒絶するには一定の合理的な理由を必要としているのです。
 しかし、既に、東芝柳町工場事件判決でも触れていたように、臨時工は、本工と比較すると、企業との結び付きが薄く、会社からは経済変動による雇用調整の役割を果たすことが期待され、雇われる側も、長期間の本工としての雇用を嫌うなどある程度企業の右のような意向を前提として雇用されている現実を踏まえ、例えば、本工に先立っての整理解雇の効力を広く認めるなどその合理性の程度を本工の場合に比べて緩やかに解釈して具体的な問題を解決しているのです。このような処理により緩やかに雇止めが有効とされた例は少くありません(日立メディコ事件・最1小判昭61・12・4労判486-6、安田火災海上保険事件・福岡地小倉支判平4・1・14労判604-17、大阪郵便輸送事件・大阪地決平4・3・31労判611-32、国鉄大阪工事局事件・最3小判平4・10・ 20労判617-19、の他、最近でもJALナビア大阪事件・大阪地判平17・12・9労経速1934-3  RFN事件・東京地判平18・3・24労経速1933-26等)。

(4)準本工的臨時工への保護
 しかし、常用的な臨時工の雇止めの場合には、いわゆる整理解雇の法理を準用し、一定の解雇回避努力義務があるとする例もあります(三洋電機事件・大阪地判平3・10・22労判595-91、丸子警報機事件・東京高裁平11・3・31労判758 -7<但し、正社員の「整理解雇が許容されると同程度に企業が差し迫った危機に瀕した場合」までは不要としている>、日欧産業協力センター事件・東京地判平成15・10・31労判862-24<実質上期間の定めのない労働契約関係にあると認定されている>。整理解雇の法理については、退職・解雇・退職金[実務編]Q4整理解雇の手順参照)。

対応策
 質問の場合、東芝柳町工場事件判決に従えば、期間満了により当然に雇用契約を終了させられることは避けられるものと考えられます。又、三洋電機事件、丸子警報機事件などの判決に見られる、臨時工への整理解雇の法理の準用によっても、ほぼ本工に近い保護が期待できる可能性もあります。
2 本工とのその他の処遇格差
(1)臨時工への就業規則等による格差の是認
 ところで、前述(パート・派遣・契約社員[実務編]Q1)の通り、厚生労働省は、本工の就業規則の適用範囲について、臨時工など本工と労働条件の内容の異なった従業員についてその適用を除外することは差し支えないが、この場合、就業規則の本則において、別個の規則の適用対象労働者に関する適用除外規定や別規則への委任規定が必要としています(昭和63.3.14基収150号)。従って通達に従った臨時工などに関する適用除外や別規則を設けておけば、原則として、質問のような処遇の問題はないかのようにも見えます。又、裁判所も、更新の拒絶や解雇などに対するのと違って、労働条件の内容をすべて本工と同一視して、本工の就業規則をそのまま認めることはしていません。

(2)パートなどへの就業規則がない場合は
 問題は、適用除外が無い場合や除外するだけで別の規則を定めていない場合です。この場合も、パ-ト労働法が求めている「パートタイマーの『雇入通知書』」(6条)や同様の労働契約書などを用いられていれば、処遇の相違が明記されているので、これに従って処理すれば労働契約上の問題はないものとされます。又、同通知書等を用いていなくても募集条件などでこれらの取扱いが明示されていれば同様の結果となります。しかしこれらの証拠がない場合は、結局、各社の採用時の話しの内容や、取扱いの実態や慣行の有無・内容によって処理されることとなり、やや微妙な問題となることがあります。
 裁判例においても、例えば、大興設備開発事件は、採用時に正社員の定年の60歳を超えていたものの、年金を受給しながら働きたいという高齢者従業員(高齢者)を、日給制で正社員に比べて短時間の勤務形態で採用した企業が、採用時の口頭の説明では、定年を超えた高齢者には退職金の支給がないことを伝えていたらしいのだが(しかし高裁ではこの点は認定されなかった)、就業規則では、正社員用のものしか作成していなかったところ、約7年余の勤務後の退職に当たり、この従業員が正社員の就業規則に従って計算した退職金(約104万円)を請求したところ、地裁判決は、企業の採用時の説明や本人が退職金が出ないことを承知で入社したこと、就業規則の労働条件と実際の労働条件の相違などからこの企業の就業規則の退職金規定は正社員のみに適用される、などとして、その請求を斥けました(京都地判平成8・11・14労判729-67)。しかし、高裁(大阪高判平成9・10・30労判729-61)では逆転し、高齢者への退職金の支払いが認められました。即ち、就業規則の記載上、「適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていた」し「高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者」にも適用されるとして、高齢者の退職金請求が、請求額の半額に減額はされましたが、認められたのです。
 他にも、現実の就労時間などの点で一般従業員とは異なっていても、就業規則での適用除外がないとして病院の勤務医師に職員の退職金規定の適用が認められた例(清風会事件・東京地判昭62・8・28労判508-72)などがあります。もっとも逆に、宿直で守衛業務に就いている従業員に、昼間労働を前提とする就業規則をそのまま適用はできないとした例や(江東運送事件・東京地判平8・10・14労判706-37)、退職金不支給の黙示の合意が成立しており、嘱託従業員には職員退職手当規程は適用ないし準用されず、退職金請求権はないとした例もありますが(小型自動車開発センター事件・東京地判平16・1・26 労経速1865-24 )、やはり前述の指針の指摘する通り、パートなどへの別規程を置き、処遇の差を明確にしておくのが混乱を回避する観点からは望ましいでしょう。

(3)準社員的な臨時工と本工との格差の合理的範囲は
 なお、実質的に本工と同様の時間と業務を担当している準社員的な臨時工(いわゆる擬似パ-ト)については、本工との賃金の差額の付け方が問題となり得ます。この点で注目されているのが、前述(パート・派遣・契約社員[実務編]Q2)の通り、正社員と臨時社員(パート)の賃金差別を初めて違法として、2割を超す部分の差額の賠償を認めた丸子警報器事件判決・長野地上田支判平9・3・15労判690-32です。この判決は、「正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しつつ長期間の雇用を継続したこと」は均等待遇の理念に違反し、具体的には、パ―トの賃金が同じ勤続年数の正社員の8割以下となるときは、違法となるとして、その限度での賃金と退職金の差額の賠償を認めたのです。
 しかし、一般的にも、外見的に同一の労働のようでも、基幹的正社員とパ―トなどとの間には、採用手続、人材育成、残業や異動などでの義務の存否・程度、期待される勤続年数等において厳然たる差があり、その差異の限界を安易に2割程度と評価できるのか等については疑問があり(拙著「実務労働法講義」改訂増補版上巻153頁以下等参照。例えば、日本郵便運送事件・大阪地判平成14・5・22労判830-22 は、同一労働同一賃金の原則が我が国の公序とは認められないとしています)、上級審での判断が注目されていたところ、平成11年11月29日東京高裁にて、和解が成立し、賃金体系の是正により5年後には原告らの賃金は正社員の90%前後にまで改善されることになりました(平成11年11月30日日経新聞記事参照)。この和解は、今後、同種事案解決の一つの指針を示すものとして注目されています。
 いずれにしても、判決や高裁の和解、更に、厚生労働省の平成15年8月25日付パートタイム労働指針(事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針)等が指摘・示唆するように、今後は、臨時工などについても、より本工に近い処遇を得やすい環境が整備されつつあると言えるでしょう。
 なお、平成19年の通常国会に改正案が上程される予定のパートタイム労働法では、このような擬似パートタイマーの内の「通常の労働者と職務、職業生活を通じた人材活用の仕組み、運用等及び雇用契約期間等の就業の実態が同じであるパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について差別的取扱いをすることを禁止する」方向で検討が進められていることも(厚生労働省のHP参照)、今後、裁判例への影響も予想され、注目すべきでしょう。

対応策

質問の場合にも、第一に、就業規則での適用除外や別規則や雇入通知書などがあればそれにより処理されるのが原則です。しかし、第二には、退職金のパートなどへの適用や慣行などが無いかをチェックしてそれらが利用できないか検討してみることです。第三には、前記判決等を踏まえ、会社の体力や他の臨時工の真意・能力との相関関係で、労働時間数・勤続年数や職務内容・程度の差などを踏まえて、本工に準じた待遇をどの程度まで求めるかという判断をし、会社と、場合によれば、臨時工の労働組合を結成し(労働組合の結成と活動[実務編]Q1)、話し合いを持つことです。

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