法律Q&A

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偽装請負であると判断された場合

ロア・ユナイテッド法律事務所 弁護士 木原康雄

偽装請負(委託)であると判断された場合、注文主(委託元)と請負人(委託先)が雇用する労働者との間に労働契約関係が生じるのでしょうか。

 場合によっては、黙示の労働契約の成立が認められる可能性がありますが、その判断は厳格になされ、通常の場合は、黙示の合意が認められることはありません。
 もっとも、平成22年改正労働者派遣法案の労働契約申込みみなし制度が導入された後で、その適用要件に当てはまり、かつ、派遣労働者から承諾の意思表示がなされた場合には、明示の労働契約が成立したことになります。

1 偽造請負(委託)とは
 偽装請負(委託)とは、形式上、請負人(委託先)が注文主(委託元)との間で請負(委託)契約を締結し、自己の従業員を注文主(委託元)の事業場等において労働に従事させるものの、実際には、請負人(委託先)が自ら当該従業員を指揮命令することはなく、注文主(委託元)の指揮命令の下で労働に従事させることをいいます。請負人(委託先)の従業員に対して注文主(委託元)の指揮命令が直接に及ぶことから、実質的には労働者派遣に当たるものです。
 では、偽装請負(委託)とされ、実質的に労働者派遣に該当すると評価された場合、注文主(委託元)と、請負人(委託先)が雇用する労働者との間に労働契約関係が生じる可能性はあるのでしょうか。
2 裁判例等
 この場合、黙示の労働契約関係が成立するとする見解と、これを否定する見解とに分かれています。
 また、黙示の労働契約関係の成立の余地を認める裁判例の多くは、本事例に即していえば、請負人(委託先)の存在が形式的・名目的なもので、企業としての独自性を有しておらず、実質的にみて、請負人(委託先)と注文主(委託元)を一体のものとみなすことができ、注文主(委託元)が労働者の採用、賃金、労働時間等の労働条件を決定し、労働者に賃金を支払っているといえることを重要な要素としているものと解されます(マイスタッフ(一橋出版)事件・東京地判平17・7・25労判900号32頁、伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・松山地判平15・5・22労判856号45頁、パナソニック(松下)・プラズマディスプレイ事件・第1審判決(大阪地判平19・4・26労判941号5頁等)。
 なお、上記パナソニック(松下)・プラズマディスプレイ事件の控訴審判決(大阪高判平20・4・25労判960号5頁)は、上記判断要素を検討の上、黙示の労働契約関係の成立を否定した第1審判決を覆し、黙示の労働契約関係の成立を認めました。
3 パナソニック・プラズマディスプレイ事件・最高裁判決
 しかしながら、同事件の最近の最高裁判決(パナソニック・プラズマディスプレイ上告事件・最小判平成21・12・18労判993号5頁)は、控訴審の判断を覆し、黙示の労働契約関係の成立を否定しました。その部分を引用すると以下のとおりです。
 パナソニック(松下)プラズマディスプレイ(上告人)から業務委託を受けたCと雇用契約を締結していた派遣労働者(被上告人)との法的関係について、「(1) 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。しかるところ、前記事実関係等によれば、被上告人は、平成16年1月20日から同17年7月20日までの間、Cと雇用契約を締結し、これを前提としてCから本件工場に派遣され、上告人の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから、Cによって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。そして、上告人は、上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから、これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。しかしながら、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして、被上告人とCとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、上記の間、両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。」「(2) 次に、上告人と被上告人との法律関係についてみると、前記事実関係等によれば、上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり、被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず、かえって、Cは、被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって、前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても、平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。」

対応策

 すなわち、上記最高裁判決も、前記2で紹介した多くの裁判例と同様、労働者の採用、賃金、労働時間等の労働条件を決定し、労働者に賃金を支払っているのは誰かという点を重要な判断要素としているのです。
 多くの偽装請負(委託)では、このような要素を満たしていないため、今後は、黙示の労働契約関係の成立が認められる事実上少なくなったといえます。

予防策

 上記最高裁判決が判断要素に指摘した、労働者の採用、賃金、労働時間等の労働条件を決定し、労働者に賃金を支払っているのは誰かという点から判断され、それらの要素を満たす場合には、注文主(委託元)と労働者との間に黙示の労働契約関係の成立が認められる可能性があり、なければその関係は認められないことになりますので、注文主(委託元)としては、このような要素の排除に留意する必要があります。
 なお、追って別項で報告しますが、平成22年改正労働者派遣法案の労働契約申込みみなし制度が導入された後で、その適用要件に当てはまり、かつ、派遣労働者から労働契約締結への承諾の意思表示がなされた場合には、明示の労働契約関係が成立したことになります。

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