法律Q&A

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専ら派遣・グループ内派遣

弁護士 岩野高明(ロア・ユナイテッド法律事務所)

当社はある企業グループに属する派遣会社ですが、基本的に従業員をグループ外の企業に派遣することはなく、ほぼ全ての従業員をグループ内企業からの依頼を受けて派遣しています。このような形態の労働者派遣事業は法的に問題があるのでしょうか。

これまでは、グループ内派遣を禁止する明確な法律上の規定はありませんでしたが、平成22年の派遣法の改正により、雇用する派遣労働者の総労働時間ベースで、同一グループ内での派遣割合を8割以下とするよう規制される見込みです。

1 労働者派遣事業の目的
 労働者派遣事業は、従来は職業安定法44条によって禁止されていた労働者供給事業の一部を抜き出して、労働者派遣法に定める規制に服することを条件に適法とされた事業形態です(職安法4条6項参照)。このような規制緩和がなされた背景には、わが国の社会構造の変化の中で、企業においては経営の効率化の要求が、労働者の側では柔軟な働き方へのニーズが高まったという事情がありました。これらの事情を反映し、派遣法は、労働者派遣事業の目的が労働力の需給の適正な調整にあることを明示しています(同法1条)。この目的からすれば、派遣元事業主の事業形態としては、より多くの企業から労働者派遣の依頼を受け付け、また、より多くの派遣先企業を獲得すべく営業活動をするほうが、派遣先・派遣労働者双方のニーズによりよく応えることが可能となり望ましいということになります。
2 専ら派遣に対する規制
 これに対して、派遣元が派遣先を特定の企業に限定してしまうと、他の企業のニーズを満たすことができないばかりか、労働者の雇用の機会をも奪うこととなり、上記の法の目的を達し得ないことになってしまいます。それどころか、派遣元が派遣先企業の「第二人事部」的な役割を担うこととなり、例えば、企業が正社員を派遣会社に転籍させた上、派遣社員として従来の業務に従事させるなど、労働者派遣事業が不当な労働条件の切り下げの手段として用いられるケースも想定されます。
 このようなことから、派遣法7条1項1号は、原則として「当該事業が専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるもの」(いわゆる「専ら派遣」)でないことを一般労働者派遣事業の許可の条件とし、同法48条2項は、厚生労働大臣が専ら派遣をしている派遣元事業主に対して、当該労働者派遣事業の目的及び内容を変更するように勧告することができるとしています。
3 グループ内派遣に対する規制
 専ら派遣が「特定の者」に対して労働者を派遣するものであるのに対し、「複数のグループ内企業」に労働者を派遣する場合(グループ内派遣)には、条文の文言上、前掲の各条項に明確には該当しません。しかし、同様の問題が生じることは以前から指摘されており、派遣先企業が複数であっても、それ以外の企業に全く労働者を派遣しない場合には、「特定の者」に対する労働者の派遣とみなすべきであるとの解釈も主張されていました。このようなことから近年、グループ内派遣をしている派遣元事業主に対しても規制をすべきだという声が強まり、厚生労働省の労働政策審議会・職業安定分科会の報告書(平成20年9月24日)において、派遣会社が同一グループ内の企業に派遣する人員の割合を8割以下とするよう義務づけることが適当であるという提言がなされました。同時に、この義務に違反している派遣会社には、指導、勧告及び許可の取消等の措置を行うことが適当であるとの指摘もされています。
 これを受けて、平成22年3月29日付けにて派遣法の改正案が国会に提出され、グループ内派遣について上記の規制が盛り込まれました(平成22年3月29日付「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」について。厚労省HP参照)。改正法案では、雇用する派遣労働者の総労働時間ベースで、同一グループ内での派遣割合を8割以下とするよう定められています(同改正法案23条の2)。

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